ハイキュー!!
及川生誕祭(及影)
その日は珍しく及川さんの口数が少なかった。
その分いつもはあまり意識しないアスファルトを蹴る音や、車のエンジン音がはっきりと耳に届いた。
何気なしに隣を歩く及川さんを見ると、視線が重なる。
そらす理由もないのでそのまま少しの間見つめ合った。
でも、耐えきれなくなったようで及川さんが先に目をそらした。
元から何を考えてるかわからない人だけれど、今日はいつも以上にわからない。
伝えたい事があるのならハッキリと言って欲しい。
言われなきゃわからないことだってある。
イライラして、及川さんと彼の名前を呼ぼうと口を開いた。
「トビオちゃん」
それを及川さんが人差し指を俺の唇に置いて止める。
「今日ってさ、なんの日だかわかる?」
いつもより少し小さな声。
不恰好な笑顔。
「やっぱ、なんでもないよ」
その姿があまりにも悲しそうだったから。
公道なのにもかかわらず、俺は彼の腕にしがみついた。
「及川さん、なんなんですか」
俺の行動に驚いたように及川さんが目を見開く。
幸い今は周囲に誰もいない。
少し遠くで、蝉が鳴いているくらいだ。
「ちゃんと言ってくれないとわかりません」
「じゃあさ」
そう言って彼は俺がつかんでいた腕を真上に伸ばした。
バランスを崩した身体がぐらりと揺れる。
「…っ!」
気づいたら、及川さんの胸の中にいた。
「トビオちゃん捕獲〜」
「は!?ちょ、離してくださいよ!」
「ねぇトビオちゃん。俺さぁ、今日誕生日なんだよね」
だから、の接続詞の後。
「残り7時間のトビオちゃんの今日を俺に頂戴?」
ゆっくりと頷けば、及川さんは嬉しそうに笑う。
別に誕生日じゃなくても、それくらいいつだってあげます。
なんて言うと調子に乗りそうだったからやめた。
(重なった唇は、ひどく甘い)
END
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