ハイキュー!!
及影
それは甘くて、それは苦い。
「トビオちゃん」
今でも鮮明に思い出せる。
あの頃の及川さんはまだわりと声が高くて、でも背も高くて。
まっすぐに俺を見ていた。
捕らわれた瞳は、瞬きすら忘れる程夢中になって彼を映していた。
今思えば、自分はわりと純粋だったのかもしれない。
彼が裏で何をやっていたかなんて知らなかったし、知ろうともしなかった。
だからあの人に惹かれてしまった。
ただそれだけだ。
初恋は実らないとはよく言ったものだと、軽くため息をつく。
表面上の彼を愛してしまったのだ。
実らないに決まっている。
「トビオちゃん」
割り切って、過去に置いて来た声がまた俺を呼ぶ。
「今日も可愛いネ」
「…岩泉さん(保護者)はいないんですか?」
「岩ちゃん?ああ、今日はいないよー」
人を馬鹿にしやがって。
ぎゅっ、と拳を握る。
深爪のせいで、痛みはなかった。
この人は、俺が惚れてたことを知ってる。
互いに口には出さなかったけれど、視線が物語っていた。
交わって、逸れて、また交わって。
交わって、それから。
「トビオちゃん、バレーしよっか」
そうだ、もう。
バレー以外で繋がりはないのか。
握り締めた拳は、痛まない。
噛んだ唇は、鉄の味がした。
「良いですよ。やりましょう及川さん」
「可愛くないなぁ」
「言ってること、さっきと逆ですよ」
交わった視線は、今はもう逸らさない。
「目、つぶりなよ」
ほのかな鉄の味と、それから。
(そろそろ付き合わない?)
(嫌です)
(俺を本気にさせたくせに)
END
トビオちゃん、高校行ったら及川さんへの関心なくなってればうまい。
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