テニプリ
忍跡
気がつくと、目が眩むほどに鮮やかだったはずの世界の色がわからなくなっていた。
振り向くと、あったはずの道は崩れ落ちていた。
足がすくんだ。
しかし、立ち止まってはいけない。
軋む身体にムチ打って一歩前に踏み出すと、必ずそこで目が覚める。
もう何回目だろう。
全身から汗が吹き出していた。
息をするのが辛く、手にも力が入りにくい。
『明日はラケット握れへんかも』
なれない左手で跡部にメールを打つのももう数えきれないほどで。
1、2分たつと『了解』とだけ表示されたディスプレイが光った。
つくづく俺に興味がないのだと思う。
俺がどれだけ焦がれても、俺がどれだけ抱きしめても、あいつはただ笑うだけで。
きっとあいつは俺が泣いても怒っても何をしても関心を持ってはくるないのだろう。
(でも、それでも好きやなぁ)
あの髪が、瞳が、手が足が好き。
跡部が好き。
きっと誰よりも、この世界の誰よりも。
だからこそ、俺のことをもっと。
(……抱きしめたいなぁ)
痺れて動かすことのできない右腕を見つけながら、俺は少し泣いた。
END
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