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テニプリ
蔵ユウ



(甚だしい捏造)









母さんはよく泣いていた。

母さんはよく俺に手をあげた。

でも、兄貴には手を出さなかった。

そのとき兄貴はもう15やった。

「触んな」

当日俺は5、6歳やったと思う。

何で蹴られるんやろ、何で殴られるんやろ。

ずっとずっと考えて。

考えすぎて気持ち悪ぅなって吐いて、また殴られて。

せやから、俺は物事を深く考えることをやめるようになった。

「キモイねん」

殴られた痣は触ると痛くて、涙がでて。

でも声をあげて泣くと蹴られるから、俺は泣く事もやめた。


最後の方は、歩いただけで、喋っただけで殴られるようになった。


いつの間にか、兄さんは大学生になっていた。


『ユウジくん』

そんな時やった。

いつもは鍵がかかっていて開かないはずの玄関が開いて、知らない大人がたくさん入ってきたのは。

『ユウジくん』

あぁ、とうとう見放されたんか。

幼いながらにそう思った。

何をされても母さんが大好きで、母さんが喜ぶのなら俺はどんな痛みにも耐えたのに。


母さんが喜ぶのなら、俺は。




『ユウジくん、行こうか』



つかんだおばさんの腕は、あったかくてやわらかかった。











それから数ヶ月、俺は施設にいた。


誰も笑わへん、誰も話さへん。

ただ、あったかいだけの箱。


「触んなって、言うとるやんけ!!」

男はうつむいて、俺の腕から手を離した。

「しつこいねん、ホンマ」

「……ユウジ」



「なんや」


「好きや」


俺の目の前で今にも泣き出しそうな顔をしているのは『白石蔵之介』

ああ、こいつの眼球にデコピンしてやりたい。

せやかて、俺がこれ断ったら後で何されるかわかったもんやないもん。

テニス部の奴らにはありえへんってジクジク言われて、女子には白石をフったってひどい事されそうやし。



「俺に惚れた理由でも聞かせてもらおか」




ああ、箱の中に戻りたい。

あのあったかい箱の中に。

あの中にいれば、誰からも何も言われなかったのに。

一人でいられたのに。

こんな気持ちになるんやったら、『一氏』なんて名字いらへんかったのに。



『バイバイユウジくん、がんばってね』

最後にあたたかさを感じたのは、別れ際の握手の時。

母さんの手は冷たかったけど、おばさんの手は溶けそうなくらい熱かった。


ホンマ些細な事なんに、五年たった今でも鮮明に思い出せる。



「なんで俺やねん」



「……理由なんて、…あらへんわ」






その瞬間、喉が乾いた。

ヤバイ、こいつはガチや。

あかん、逃げへんと。


だって罰ゲームかなんかやと思っとったんに。

ヤバイ。

「ユウジ」

白石が俺を呼ぶ。

ここは壁ぎわ。

体が動かせへん。


「ユウジ、お願いやから」

「離せっ、嫌や!!」


「キモくてもええ、うざくてもええ、フってくれたってかまわへん。お前が笑ってくれるんやったら、何だってええ。…せやから、……笑ったってよ、ユウジ」


俺を抱きしめた白石の腕は、死にたくなるくらい熱かった。






side:白石

無愛想な男に恋をした。

彼とは同じ部活やけど、笑った顔は一度も見たことがなかった。

そしてある日気がついた。



彼は笑い方を知らないのだと。





抱きしめた小さな体は、泣きたくなるくらいやわらかかった。


(捕まえて、ベタベタに甘やかして、君を笑顔にしたい)


END





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あきゅろす。
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