[携帯モード] [URL送信]

長編
いつもの春
山本がオレに相談してきたのは、冬だった。
「どうしよう。オレ、獄寺のことが…」
戸惑った表情だったけど、言葉には核心があったのを今でも鮮明に思い出す。
オレは何て言っていいのか分からなかった。
「そうなの?」なんて驚きの感情も無かったし、「きっとうまくいくよ」なんて綺麗事も言えないし、「やめときな」なんて感情を卑下する勇気も無かった。
だから、
「そうなんだぁ。」
と、適当な平坦な返事を返した。
そして、
「告白するの?」
と、興味があるような質問を投げかけた。
すると山本はびっくりするほどうろたえて、顔も少し赤くなってて、冬の寒さのせいか分からなかったけど。
「しないかも、な。」
弱々しい声と情けない笑顔でそう答えた。
そうなんだ、と適当に返事を返した所で、その会話は終わった。

獄寺君が戸惑った表情をしながら話しかけてきたのは、秋の初めだった。
「オレ、頭おかしいんスね…。アイツが好きだなんて…。」
申し訳ないような、悲しいような、苦しそうな表情でそう訴えてきた。
さすがに、驚いた。
今までこれでもかというくらい嫌ってた獄寺君が、まさか山本にそんな感情を抱いていたなんて。と目を見開いていた。
その時は、驚きで何も返せなかった。
だから、どう返事したらいいのかをひたすら考えていた。
「え、うそ。いつから?」
と、自分でもびっくりするくらい頼りなく平坦な声で聞いていた。
すると獄寺君は、顔を真っ赤にして、耳まで赤くして、「分かんないッス。」とギリギリ聞き取れるくらいの小さな声で答えた。
自分の感情がイマイチ分からないまま、会話が終わり、自分が混乱していることにも気付かなかった。
「スミマセン、いきなりこんな話して…。忘れて下さい。」
いつもの朗らかな笑い顔を装っていたけど、その顔は悲しい感情でいっぱいだった。
顔を逸らした獄寺君の目に、夕日が反射して眩しかったのを覚えてる。

二人が相思相愛だということは、きっとオレくらいしか知らないだろう。(でもきっとリボーンは気付いているだろうけど。)
だからこそ、山本に何といっていいか分からなかったし、これから二人に何をしてやればいいのかも分からなかった。

それにも関わらず、時は無情に過ぎ去っていく。
二人の態度は一変もしないまま。
オレだけが、全ての感情を知っている。二人の気持ちを、知っている。
でも、オレ自身の気持ちを知らない。分からない。
オレは二人の感情にどう思っているのか、聞いた時は頭が真っ白になって、驚いただけで何かを感じる暇なんて無かった。今になっても、どういう風に思っているのか分からない。
「ツーナさーん!!!」
「わっ、ハル!?」
「遊びに来ましたよ!はひ?なに物思いにふけているんです?ハッ!もしかしてハルのこと考えていたんですか?!いやだツナさんったら!」
「一言も言ってねーよ!」
本当にハルは雰囲気や心情をことごとくブチ壊す。良い意味でも、悪い意味でも。
『ハルか京子か、どちらかに決めろ。』
不意にリボーンの言葉が蘇る。
でも、オレには無理だ。
京子ちゃんはずっと好きだったし、今でもその気持ちは変わらない。だから、どちらが『好き』かと聞かれれば京子ちゃんだと答えるだろう。
ハルと初めて出会ったのはボンゴレの十代目候補になってしまった後だけど、可愛いと思う事もあるし良い娘だと思うこともある。だから全く嫌いで恋愛感情が無いかというと嘘になる。
「ハルー!」
「あ、そうです。ハル、ランボちゃんとイーピンちゃんと遊ぶ約束してたんです。」
台風のように現れたハルは、台風のように去っていった。
「そろそろちゃんと考えろ。」
「うわっ!リボーン!!」
背後から突如リボーンが現れ、一体何度目か分からない反応をした。
そう言ったリボーンは、いつものように色々言わずに去っていった。
(珍しいな…。)
考え過ぎて疲れた、と思ったオレは気晴らしに散歩に出かけることにした。
パーカーも袖を捲らないと熱が籠る。
やっぱり春なんだなと思った。
「あれ?ツナくん!」
「き、京子ちゃん!」
偶然、京子ちゃんに会えた。
さっきまでのモヤモヤとした思考回路が一気にどこかへいってしまった。
「どうしたの?こんな所で。」
「ちょっと散歩に行こうかな、なんて…。」
まっすぐ京子ちゃんの目が見れなくて、上下左右に目が泳ぐ。
「私、お母さんにちょっとおつかい頼まれてるんだ。」
「あ、そ、そうなんだ。」
「じゃあね。」
「うん、じゃあ。」
軽やかな足取りで歩いていく京子ちゃんの後ろ姿を、オレは茫然と見ていた。
いつも京子ちゃんと話す時はちょっと恥ずかしくて、わたわた慌てて言いたい事が上手く言えない。
こんなんじゃ告白なんて到底無理だな、と思った。
「お、ツナじゃん。」
「山本!」
今日はやけに友達に会うな、と考えながら山本の名前を呼んだ。
「何してんの?」
「ん?散歩。」
「そっかぁ…。」
オレの返事に簡単に答えるとキョロキョロと辺りを見回す。おおかた、獄寺君を探したりしているのだろう。
「獄寺君は居ないよ」と言おうかと思ったけど、核心すぎてやめた。
ますます考え込んでしまいそうだし。
「そういう山本は?」
とオレは話題を変えた。
「ん?ジョギング。」
「へぇ、頑張るね。」
「カオルも居たんだけど途中でアーデルハイトに呼ばれて帰っちまったんだよ。」
「そうなんだ。」
ジョギングと言う割には、山本は汗一つかいていない。
10年後でリボーンと修行してたときもウェイトつけてフルマラソン走ってたっけ、と思い出して納得した。
オレとの会話が一段落するたびに、山本はキョロキョロ周りを見る。だから獄寺君は一緒じゃないんだって。それともオレを獄寺君ホイホイみたいな存在だと思ってるのかな?
ハハハ…と心の中で自分の冗談を笑った。
「じゃあ、オレもう行くわ。」
「うん、じゃあね。」
ようやく諦めたのか、山本は走っていった。
これで獄寺君と会えば役者が揃うなぁ、と意味深な考えを持った。
「じゅーだいめー!!」
本当に来たよ、と自分の予感が当たって苦笑いする。
「奇遇ですね。オレも今から十代目のお宅に伺おうとしてたんです!」
「そ、そうなの?」
こっちは山本を探しているような気配は無いな、と妙に意識してみる。
「さっき山本にも会ってさ、山本も誘ってゲームでもする?」
と言った瞬間、獄寺君の顔が引きつった。
「いえ、アイツがいたらゲームが進みません!オレたちだけでやりましょう!」
明るくいつも通りに振る舞っている獄寺君だったが、いつもより余計に声が大きい。
「まぁまぁ、そんなこと言わないでさ。」
こう言えば、獄寺君はいつも鎮まる。
「じ、十代目がそこまで仰るなら…。」
獄寺君は口元を少しとがらせて目を逸らしていたが、その顔はピンク色になっていて、それを紛らわすために首の後ろに手を当てている。
(山本!獄寺君がいるよ!!戻ってきて!!)
なんて無意味なテレパシー能力を信じてみる。
「あ、ツナ。」
(本当に届いたよ…。)
「いや、ジョギングして家に戻ったら鍵閉まっててよ。しかも鍵部屋に置いて来たから入れねぇし。」
ハハハハ、と山本は陽気に笑った。
「十代目、聞きましたか!この間抜け様!絶対役に立ちません!やめましょう!」
「何?なんの話?」
「いや、たまたま獄寺君と会ってゲームしようかって話になって…」
「十代目はお前を呼ぼうとしたけど、役に立たないから要らねぇって言ってんだ!」
ギロリとオレの頭上で獄寺君の鋭い視線が山本に突き刺さる。
それでも山本はヘラっと幸せそうに笑っていた。それを見た獄寺君の眉間の皺が一つ消えた。
本当に両想いなんだな、と改めて感じた。それと同時に仲間はずれな気がして、少し悲しくなった。



テレビゲームがオーバーヒートになるくらいまで遊んで、漸く日も落ちてきた。
「それじゃあ、気をつけてね。」
「じゃあな!」
「それでは!」
二人は揃って家を出ていった。
結局ゲーム大会の最中もオレは山本と獄寺君の真ん中に座らされた。
『オレ、コイツの隣座りたくないです。』
いつも通りの獄寺君の言葉で、二人の距離が開く。
どうにかならないのかな、とオレは溜め息をつく。
「お前は人のことより自分の心配をしろ。」
「り、リボーン!」
本日二回目のリボーン登場にも関わらず、オレはまた驚いた。
「…でも、さ。」
リボーンはオレの言葉を待つように黙ってオレの顔を見上げていた。
「なんか、放っておけないんだ…。」
オレは、二人を見送った玄関から動けなかった。
「そうか。」
またもやリボーンは何も言わずに何処かへ行ってしまった。
「…リボーン?」
「ツナー!ごはんよ!そんな所で何やってるの!?」
「あ、今行く。」
そういえば夕御飯の良い匂いがする。今晩はハンバーグか…。
プルルルルルル…
「あら、こんな時間に誰かしら?ツナ、ちょっと取ってきて。今手が放せないから。」
「うん。」
オレはそう言って受話器を取った。
「はい、沢田です。」
『ツナか?』
「山本?どうしたの?」
受話器の向こうの山本は、どこか沈んだ声色だった。
にしても、帰るの早いな。まだ玄関出てから15分も経ってないよ…。
『…いや、その…』
山本の言葉が、妙に濁る。さっきまで元気だったのに。
「…獄寺君のこと?」
『!!…うん。』
一瞬核心をつかれて驚いたみたいだったけど、すぐに肯定した。
「何かあったの?」
さっきまで、あんなに楽しく遊んでたのに。と付け足そうとしたけど、何か異常だと感じて言葉を止めた。
『別に、帰りに何かあった訳じゃねぇんだけど…。』
「明日話さない?今日はもう遅いしさ。獄寺君には先に帰るように言っとくから。」
『ん、さんきゅーな。ツナ。』
ブツリ、と通話が途切れた音を聞くと、オレはそっと受話器を置いた。
「誰からだった?」
「山本。明日の時間割聞いてきたんだ。」
「そう、じゃあ早く食べちゃいなさい。」
母さんとの会話も誤魔化し、オレの思考は山本の言葉に傾いた。
一体何があったんだろう。
遊ぶ前に獄寺君が言ってた悪口が応えたのかな。
いや、そんなのいつもだしなぁ…。
獄寺君が山本の隣に座りたくないって言ったことかな。
いや、それもいつものことだし…。
どうしよう。すごく気になる。
早く明日にならないかな。
とすごく気になっている反面、なんか嫌な予感がする。
「ツナ、手が止まってるわよ。」
突如耳に入ってきた母さんの言葉に驚いて、再び箸を進める。
「何かあったの?」
「ふぇ?」
不意にビアンキが話しかけてきた。
その目は、冗談ではないと訴えているようだった。
「いや、何でもないよ。」
「…そう。」
オレは適当に誤魔化した。それを全て見透かしたようにビアンキは静かに視線を落とした。
「ハヤトの様子が最近おかしいから…。」
「え?」
オレは、気付かなかった。
もしかしたらオレから何か引き出すための策略かもしれないかも、と妙な警戒心を抱く。
「ツナの前では気丈に振る舞っているみたいだけど…あの子、何考えているのかしら。」
ビアンキの箸が止まった。
ランボとイーピンの笑い声が、耳を通り抜ける。
「…今度、聞いてみるよ。言ってくれるか分からないけど。」
「そうね。」
ふっ と笑みを浮かべたビアンキは再び箸を動かし始めた。
「お前が鈍感なんだよ。」
「う、うるさいな!」
気丈に振る舞っているんだったら、分からないだろ。普通は。
でも、友達が悩んでいることに気付けなかったのは、少し情けないなと思う。
色々な感情と、色々な関係がオレの周りで変わろうとしている。…気がする。


[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!