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おはなし達
シアワセノアカシ(※死ネタ注意)
オレと十代目は、いつも通りの学校へ向かう、見なれた道を歩いていた。
後ろから部活で鍛えた足で山本が走ってきた。
「獄寺!これ・・・あげる!!」
息を切らしながら差し出す山本の手には、四つ葉のクローバーがあった。
「四つ葉のクローバーは、幸せの証なんだぜ!!」
そんな事はとうに知っていたが、山本は誇らしげにオレに教える。
それがムカツク感じもしたが、同時になんだか微笑ましくも思えた。
「おぉ〜!山本すげぇ!!」
「・・・オレはいいよ。十代目に差し上げろ。」
オレは確かにすごいと思った。
イタリアでも滅多に見られない。
だが、オレはそんなものには興味はなかった。
オレよりも十代目に幸せになってほしいから、オレなんてどうでもいい。
「ヤダ。いいんだ、ツナは。いつも幸せそうに笑ってるから。オレは獄寺にいつも笑顔で居てほしいからあげるの。」
「は?」
・・・意味が分からない。
幸せな奴はいらねぇのか?
そんなわけねぇだろ。
第一オレは十代目の右腕として居られるだけで光栄だってのに・・・。
「だからいらねぇって言ってんだろ!!」
「ほら、すぐ怒るし。オレは獄寺に優しくなってほしいのな〜♪」
「ふざけんな!この野球バカ!!!」
「まぁまぁ・・・」
十代目はいつもと一緒で落ち着いた対応をされている(流されてるに近い)。
オレは内心嬉しい気もしたが、十代目を差し置いてこんなの貰えねぇよ、とも思った。
話してるうちに学校のチャイムが聞こえた。
オレは遅刻とかどうでもよかった。
でも2人は焦った様子で走り出す。
「あっ!獄寺。はい、ちゃんと持ってろよ!捨てんなよ!!」
「は!ちょっ・・・お前!!」
そう山本が吐き捨てると行ってしまった。
オレの手には小さな四つ葉のクローバーがあった。
何人も人を殺してる奴に・・・幸せなんて与えられて良いものじゃないんだ・・・。
オレは今まで幸福だとか幸せだとかそんなもの味わうこともなく育った。
その環境のせいかこんな性格に変わってしまった。
オレはいつも1人だったから、笑ってほしいと言われたこともなく、増してやプレゼントなんて貰ったことがない(辛うじて姉貴のポイズンクッキングを貰ったが)。
そんなオレに・・・。

オレは授業が始まる直前に教室についた。
義理はないけども、一応山本から貰った四つ葉のクローバーを握りしめて。
そして席につき、必要のない教科書を開く。
特に開いても読むものがないので、オレは四つ葉のクローバーを教科書に挟んで、いつも通り授業を受けた。
もちろんオレの行動に文句をつける先公はいない。
生徒でも十代目と山本くらいだ。
それ以外に居ない。
オレはいつもと同じく授業を受け、いつもと同じく山本と十代目と3人で昼食を食べて、いつもと同じく十代目と2人で下校する。
山本は部活で帰りは居ないことがほとんどだ。
まぁオレにとっては十代目と沢山お話をさせてもらえるので好都合だが・・・。
そしてオレは十代目を家までお送りし、なにもないアパートに帰宅する。至って普通の毎日だ。
そんな平和すぎる毎日には、いつも飽き飽きしている。
そしてその飽きた毎日に新たな出来事が起きた。

十代目がお休みになられた日があり、特に義理もないが山本と昼を食べた。
いつもと同じ様に山本は一方的にこちらに話してくる。
そのあしらい方も徐々に覚え、オレは黙々とパンを齧る。
段々話題も減ってきた頃、丁度良くチャイムが鳴った。
「お、もう終わりかぁ。もっと獄寺と話したかったなぁ・・・。」
「ふざけんな、お前が一方的に話してただけだろ。あんなもん会話っていわねぇよ。」
「ひでぇな獄寺。」
「おー。そりゃどうも。」
「・・・なぁ獄寺、オレ獄寺のこと好きだ。」
「・・・は?」
意味が分からなかった。
ふざけてるのかコイツは。
しかもあんな、脈絡も何にもなく・・・。
それにオレが好きだと?馬鹿げてるにも程がある。
「お前バカじゃ・・・」
オレは続きが言えなかった。
山本があまりにも真剣な顔をしてたから。
オレはコイツに同情する気も無かったが、ただ目があったまま色んなことを考えてしまった。
「獄寺・・・オレ本気だよ?ちゃんと返事、聞かせて?」
「・・・。」
オレは一瞬自分の耳を、目を疑った。
山本がオレを好き・・・?なぜ?いつから?どこが?
疑問も次々に思い浮かぶ。
だが、オレはそれを口にすることができなかった。
「獄寺。」
「・・・いだ。」
「え?」
「オレはお前が嫌いだ!!」
オレは山本にそうとだけ告げ、その場から走り去った。
山本は何も言わず、追いかけることもしなかった。
オレは走りながら考えた。
オレらは、ただのクラスメイトであり、同じボンゴレのファミリーである。
だが、山本はそうは思っていなかった。
オレを恋愛対象として見ていたんだ。
まぁアイツが何を思おうがオレの知ったこっちゃないが、率直に言われてしまうと・・・正直困惑してしまう。
でも、でも・・・オレは・・・オレもずっと山本のことが好きだった。
実際告白され、両想いという事実を知った。
だが、オレには山本と付き合うということが自分自身で許せなかった。
オレは自分でも考える時があった。
オレらはどうせ男同士だ。
何もできはしない。
付き合うことも、キスすることも世間からは許されない。
認められない。
世間の目なんぞどうでもいいが、自分が十代目の右腕であり、世間の常識を外れたことでもしてみろ。
一気に十代目の、いやボンゴレの名が廃る。
オレはそれが嫌だった。
オレは気付けば学校の外へ行っていた。
きっと山本が居る場所から離れたかったのだろう。
荷物は教室に置きっぱなしだが、わざわざ取りに行くのも面倒だし、貴重品は全てポケットに納めているので取りに行く必要がなかった。
そしてオレはそのまま家に帰った。
古臭いドアをあけ、オレはベッドに倒れ込む。
ここがオレの唯一落ち着く場所だ。
でもオレの気持ちは治まることはなかった。
何を考えても山本に結びついてしまう。
オレは自分の気持ちを伝えたくても伝えられないことに腹が立った。
「オレだって・・・好きなんだよ・・・。」
オレの目から1粒涙が零れた。
でもそれっきり涙は流れなかった。


次の日も山本は普段通りに接してくれた。
オレにとってそれは唯一の救いとも言えた。
だがオレはイマイチいつもと同じように接することができなかった。
何を話されても途端に恥ずかしくなってしまい、つい睨みつけるだけで何も話せなかった。
オレに睨みつけられた山本はとても悲しそうな顔をしていた。
そんな顔で・・・オレを見るんじゃねぇよ。
と、事あるたびに思っていた。
だが、そんな状況にも慣れ、オレはいつもと同じように日々を送ることができた。


そんな日々が2年半続き、もう3月になった。
オレたちはもう3年生で、近々並中を卒業する。
オレは十代目と同じ公立の高校へ行くことになっている。
山本は、野球の推薦で私立の名門校へ行くらしい。
ということはオレたちがもう会うことが無くなる。
オレは少し寂しい気もした。
あの頃、オレが山本についた嘘。
それを嘘と告げられず、離れることになってしまった。
十代目と一緒に居られるだけで光栄だ。
だが、山本と離れるのも・・・正直辛い。
「獄寺、お前イタリアに戻らないか?」
ある日リボーンさんがオレに言った。
「え?何でです?」
「お前にはまだ可能性がある。一度イタリアに戻ってマフィアとしてもう一段階成長できるはずだ。それに向こうの情報も知っておいた方がいいだろ?」
「そりゃ・・・そうですけど・・・。オレは一体いつまで向こうに居れば?」
「決まってんだろ。ツナたちが高校を卒業するまでだ。」
この話はある意味で十代目と居ることよりも光栄だった。
確かにオレは3年近くイタリアを離れていて、マフィアとして色々忘れかけてる部分がある。
勉強し直す、いい機会だった。
それに本部の情報もある程度は知って当然だった。
それに関してはなんの問題はなかった。
ただ・・・。
「心配すんな。ツナが高校卒業したらそっちに送ってやる。」
リボーンさんはそう仰ってくれた。
3年だけガマンすればボンゴレとして本格的な活動ができる。
それはオレたちにとって、とても重要なことだった。もう全てを九代目にやらせるわけにはいかない。
だが、十代目に会えないのは心が痛いが、山本に会えないとなるとそれはそれで気が重かった。
「はい、オレ帰国します。もう1度マフィアとして戻り、もっと立派な十代目の右腕になりたいです。」
そう言うとリボーンさんはニッと笑い、「それじゃ出発は明後日な」といい、その場から去って行った。

オレの心がどれだけ重かろうが、ボンゴレを繁栄させることが最も望んでいることだ。
関係ない。
もう夜だったのでオレは家に帰り、ベッドに倒れ込んだ。
オレは、この恋を諦める。
オレは十代目の右腕であり、嵐のリングの守護者だ。
恋だの愛だの言ってられるほど甘い世界ではない。
それは重々承知だ。
すぐに割り切れるものじゃない。
でも・・・

オレはいつ眠ったのだろう・・・。
リボーンさんと最後に会ったのはたしか夜だった。
そして今は朝方の4時だ。
オレは昨日の夜から何も食べていなかったため、とりあえず弁当を買って食べることにした。
朝早いため人通りも少なく店にも誰も居ない。
店員が一人立ってるだけだった。
オレは朝食の弁当と昼食を買い、家に帰った。
もう3月で疎らに立っている桜の木にも幾つか蕾ができていた。
これが咲くころ・・・オレはもう日本にはいないんだな。

家に帰り、オレは弁当を食べた。
さすがに腹が減っていたのか、あっという間に平らげてしまった。
することがないのもあり、オレは身の回りの整理とアパートの解約を済ませることにした。
とりあえずこの時間に人様の家に行くのは非常識だ。
手始めに自分のものを鞄に詰めた。
思ったよりも物が多く、鞄に入らないものがいくつか出た。
ここに来た頃は、この鞄・・・スカスカだったのにな。
どれもこれもが思い出の品で、思わずオレは感傷に浸る。
10時を回ると、オレの荷物は全て片付き何も無くなり、オレはアパートの解約に向かった。

昼過ぎ、アパートの解約を済ませたオレは一度家に帰った。
弁当を食べ、ベッドに寝転んだ。
このベッドにもなにかしら情があり倒れ込んだら、つい寝入ってしまった。
暫くして、十代目からの着信で目が覚めた。
『もしもし獄寺君?』
「は、十代目!こんにちは!」
『あ、うん。リボーンから聞いたよ。イタリア・・・帰国するんだってね。』
「・・・っ!」
『明日の昼だっけ?ごめんね、お別れ会とか何もできなくて。』
「いえいえ、そんな!十代目のお気持ちだけでオレ、嬉しいッス!!」
『え、あ・・・うん。あの、当日はちゃんとオレとリボーンと山本とビアンキで見送りに行くから。』
「あ・・・姉貴も・・・。」
『じゃあそういうことで。また明日ね、獄寺君。』
「はい!失礼致します十代目!!」
オレは十代目と暫く話し、電話を切った。
「また明日」・・・それはもう当分聞けない言葉だ。
明日になればオレたちはもう会えなくなるんだ。
十代目とも、リボーンさんとも、姉貴とも、山本とも・・・。
オレは片付いた何もない部屋で一人ポツンと佇んだ。

ピンポーン・・・

オレはインターホンの音で驚いてしまった。
カッコ悪いなぁと思った。
だが、出るわけにもいかず玄関に向かう。
錆かけた扉を開け待っていたのは・・・
「よぉ獄寺。」
「山・・・本?」
ある意味納得してしまう人物だった。
オレは一番離れてたくない人物を目の前にしてしまった。
「獄寺?」
「ん?あぁ、悪ぃ、荷物・・・片付けっちまったから、何も出せねぇ。」
「いいよ別に。」
「いや、外で話そう。」
オレはこの部屋の中で話せばきっとイタリアに帰国したくなくなるだろう。
それだけは避けたいと思い、山本に外で話すよう促した。
山本はそれを承諾し、オレはベッドにかけておいたコートを持って玄関に向かった。
オレたちは近くの公園で話すことにした。
この公園は滅多に人が来ない。
来ない方が都合がいい話かといえばそうでもないだろうが、クラスの奴らとかに見つかればそれまた面倒なことになってしまう。
「獄寺・・・。あのさ、オレが1年の時お前に告白したの憶えてる?」
山本は一体何を思ってそんなことを聞いたのだろうか。
理由はなんにせよ、オレだってちゃんと憶えてる。
忘れたことはなかった。
「オレ、やっぱり諦めきれなくてさ・・・。ごめんな。オレやっぱり獄寺のこと好きだ。」
「・・・っ!」
山本は悲しい笑顔を浮かべた。
オレは一瞬返事に困った。
確かにオレは今も変わらず山本が好きだ。
でも、これから帰国してしまう。
もう山本とは会えないんだ。
でもだからこそ伝えるべきではないのか?
伝えて、それでもう終わりだ。
もう2度と会うことは無いだろう。
「・・・山本、オレだってずっとお前のことが好きだった。でも無理だ。」
「え・・・?」
山本もこれが最後のチャンスと踏んできたのだろう。
それはまぁオレと一緒の気持ちであろう。
「お前だって事情・・・知ってるんだろ?」
「・・・イタリアの話?」
「そうだ。」
そのあと暫く沈黙が辺りを支配した。
聞こえるのは車やバイクのエンジン音くらいしかなくて、オレたちはその沈黙の間ずっと目が合ったままだった。
「・・・獄寺。オレ、高校卒業したら野球やめるよ。獄寺と同じマフィアになる。」
「は?!!お前何言ってるんだよ!!?」
「“ごっこ”じゃないことくらい分かってる!」
「そうじゃねぇ!マフィアになるってことはお前が死ぬことだってあんだぞ!!」
「でもオレは獄寺と一緒に居たい!!」
山本の顔は真剣そのものだった。
だが、オレはこの先未来が在る山本にそんな自殺行為をしてほしくない。
親父さんだって悲しむだろうし、十代目だって、他の沢山の人が悲しむ。
第一オレと一緒に居たが為に山本が死んだとすれば、きっとオレはボンゴレに居たくなくなる。
親父さんにだって顔向けできない。
十代目にだって・・・。
「死んでも・・・いいんだな?」
「うん、だから待ってて・・・。獄寺。」
オレたちは静かに約束をした。
その証と証明するかのようにオレたちはキスをした。
誰もいない公園で。


次の日、オレは9時頃空港に向かう。
そしてイタリア行きのチケットを買い、出発時間まで暇つぶしをしていた。
暫くして、十代目らが約束通り見送りに来てくれた。
姉貴はもちろんゴーグルを着けて。
オレは短い挨拶を交わした。
十代目たちからも、お言葉を頂いた。
オレは一瞬この日本を離れたくない気持ちでいっぱいになってしまった。
そして出港時刻の15分前、搭乗のアナウンスが鳴った。
オレは荷物を持ち、飛行機に向かって歩いて行った。
一度振り向き、十代目に深々とお辞儀をした。
そして一度山本を見る。
山本は笑顔だった。
でもどこか悲しそうな顔をしていた。
オレはそんな顔に一度笑顔を見せてやった。
そして再び飛行機に向かい歩いた。
飛行機は無事に飛行場を飛び立った。
そしてイタリアまでの約半日オレは色んな事を考えた。
久し振りに着た真っ黒のスーツ、ポケットに常に忍ばせてあるダイナマイト。
そのどれもが懐かしく感じた。
もちろんイタリアに知り合いなどほとんど居ない。
でもなんだか胸が躍った。
だが、そんなことも言ってられずオレはイタリアに行ってまずはしなければならないことが山ほどある。
まずボンゴレの本部に戻り、九代目に挨拶をする。
そして自分の部屋に行き荷物を片づける。
言いつけがあればこなす。
向こうへ行ってからは大忙しだ。
多分十代目に連絡をするのは夜中だろう。
時差もあり、こちらの事情ばかりで電話など出来ない。
オレはおそらく向こうについてから眠る時間が少ないと踏んで、飛行機内で一眠りすることにした。

ふと目が覚めると、もう少しでイタリアに到着するところだった。
オレは軽く荷物を整頓し、再び席に着いた。
そして飛行機が到着し、オレは外へ出る。
空港から一歩外へ出れば、そこには懐かしい風景が広がっていた。
イタリア語もオレにとってはオルゴールのように落ち着くものがあり、その風景を楽しみながらオレは本部へ向かう。
やはり本部へ改めて行くとなるとさすがに緊張するものがあった。
本部の前に佇んだオレは、1つ深呼吸をした。
そして本部の玄関で手続きをし、九代目の元へ向かった。
オレは一旦荷物を部屋に置き、九代目とお話をした。
ボンゴレのこと、十代目のこと、。
世間話もした。
それとこれからの指針とお世話になるため、挨拶を交わした。
特に九代目から指示はなく、オレは部屋に戻り荷物を整理した。
日本から持ってきた多くの品々を再び見た。
オレの部屋は広かったが、特にこれと言った特別なものは無く素朴ともいえる部屋だった。
思い出の品は全て段ボールに詰め、箪笥の奥深くにしまい込んだ。
思い出さないように、仕事に集中できるように・・・。
その日の夜中、オレは十代目に連絡を入れた。
十代目は「頑張ってね」と一言言って下さった。
それがすごく嬉しかった。


次の日から、九代目の命令を受け、仕事に入った。
その仕事というのも単純なもので、オレは難なくこなした。
九代目に連絡を入れ、オレは一旦昼食を取りに店に行った。
生憎コンビニ弁当などと言うものは無かったので仕方なくインスタントもののすることにした。
オレは数日分の食糧を確保し、部屋に戻った。
部屋に戻っても日本とあまり変わらない風景で、何も聞こえなかった。
何もなかった。

そんな毎日がずっと続いた。


そしてついに3年が経った。
十代目たちがイタリアに来るのだ。
オレは十代目から連絡を受け、空港まで迎えに行った。
久し振りに会う十代目は、3年前よりも立派になられていてオレも安心した。
十代目は先に手続きを済ませると言って行ってしまった。
オレはもう一人待った。
それはもちろん山本だ。
10分くらい経ったとき、見なれた長身のボサボサ頭を見つけた。
オレはその姿をじっと見つめていた。
山本はゆっくりとこっちに歩み寄ってきた。
「獄寺、久し振り!」
「あぁ。」
「なんだよ冷たいなぁ。」
「あ?さっさと手続き済ませるぞ。十代目も御待ちだ。」
オレはそう言うと山本と手続きを取りに行った。
山本はなんとなく手続きを済ませ、こっちに戻ってきた。
そして中学生時代と同じ3人で本部へ向かった。
その風景はとても懐かしかった。
2人は九代目に挨拶をしてくると言って、一旦オレの部屋に荷物を置き、出て行った。
オレはやっとこの時が来たんだなと思った。
ボンゴレが本格的に活動するこの時を。
まぁ守護者は十代目とオレと山本くらいしか居ないのだが。
でも守護者がこれだけいれば、多分大丈夫だろう。
20歳にも満たないオレたちはまだまだ経験不足も多く、ファミリーとしては全くなっていない。
だが、この本部でそれも改善されると思う。
九代目に挨拶を終えた十代目と山本は再び荷物を取りにオレの部屋に戻ってきた。
そしてそれぞれに部屋を与えてもらって、部屋に向かっていった。
オレはまず十代目を部屋へお送りした。
まぁ右腕として十代目の補佐をするというのもあったが、十代目の部屋も確認するためでもあった。
次に山本を送った。
まぁオレはとくに行く義理は無かったが、山本が来いと言うので仕方なく行った。
山本は荷物をそこらへんに放ると、時差ボケのせいか、すぐに寝てしまった。
オレは風邪を引かないように、布団をかけて部屋を出て行った。
自分の部屋に戻るなりオレは九代目に与えてもらった命令をこなす。
それが案外時間がかかり、帰ってきたのは夜の8時位だった。
オレはすぐ連絡を入れ、本部に戻った。
オレは風呂に入り、飯を食ってからすぐベッドに倒れ込んだ。
時計は夜の10時を回っていた。
オレはまた十代目らに会えた嬉しさで心が一杯だった。
でも不安事も多く悩んだ瞬間もあった。
オレはマフィアとして、右腕としてちゃんとやっていけるだろうか。
十代目を守れるだろうか。
そしてなにより、このボンゴレをこれから繁栄させていくことができるだろうか。
後を継ぐのはオレたちで、生かすも殺すもオレら次第だ。
オレは一旦起き上がり、1つ深呼吸をし覚悟を決めた。
その直後、ドアをノックする音が聞こえた。
ドアを開けると、昔と変わらぬ笑顔で山本が立っていた。
オレは特に反発することなく山本を部屋に入れた。
そして2人でリビングに座り、コーヒーを飲みながら話した。
今までの3年間どうだったか、これからのこと。
そして・・・
「なぁ獄寺、まだオレのこと好き?」
オレは一瞬顔を歪ませた。
返事は決まっていたのだが、改めて聞かれるとさすがに照れくさく言葉が出なかった。
それでも言わねばならんと声を振り絞った。
「・・・あぁ。3年間変わらねぇよ。」
「獄寺っ!!」
山本はあの日と同じ明るい笑顔で抱きついてきた。
オレはまた恥ずかしくなり、一瞬動きを止めた。
だが、オレはこんな風に抱きしめ会うのも3年ぶりだと思い、素直に山本の背中に手を回した。
あの頃と同じ背中だったが、あの頃とは違った感覚だった。
前よりも広く大きくなっていて、安心した。
オレたちは明日から本格的にボンゴレとして動き出す。
もちろんまだやることが分からないため、九代目にお世話になる。
そしてその記念すべき明日に最初の命令が出されていたので、山本を部屋に帰した。
出口に着くと「獄寺」、そう言い山本はオレに軽くキスをした。
オレはその瞬間に顔が赤くなった。
軽く睨みつけ、ドアを閉めた。
オレは先刻のことにまだ少し動揺しながら、ベッドに倒れ込んだ。
思えばもう・・・3年も経ったんだな。
オレがここに来てから。
色々忙しかったせいかあまり時間を気にしてられなかった。
オレも山本も3年間よく我慢したもんだな。
お互いの顔も声も聞こえない日々を。
でもこれからはずっと一緒に居られる。
そう思うと、なんとなくくすぐったくなった。
って考えるのも段々変に思えてきて、オレは寝ることにした。
それに明日も早い。
まさか新・ボンゴレの初日に遅刻するわけにもいかない。
時差ボケでつらいであろう十代目のためにもオレはいつもより早めに目覚ましをかけ、眠りに就いた。
さすがに今日はクタクタで、すぐ寝てしまった。

翌日、オレらは最初の任務に向かった。
とは言ってもそんなに重大なことではない。
他のファミリーの偵察だ。
ここ数年あまり仲の良くないファミリーだ。
ここでは潰し合いの連続のため、九代目は相手の弱みを握ろうと、弱点を暴きだそうとオレたちを偵察に向かわせたのだ。
無論、あくまで任務中のため、山本とはおろか、十代目ともろくに話をしなかった。
話しかけられても、質問をされても相手にバレてしまう可能性があるので必要最低限のこと以外は、喋ることができなかった。
心から申し訳ないと思ったが、やむを得なかった。
進む合図は口にしたが、そのほかには何の会話はほぼ皆無だった。
だが、そのお蔭で、情報がかなり集まった。
1人では得られなかった情報もあった。
オレには到底分からないような点もいくつかでた。
これを会議に出し、議論し、作戦を立てるのだ。
とりあえず、初日は無事に終わった。
少々大げさだが、お祝いとしてオレの部屋で小さなパーティーを開いた。
3人の再開の記念でもあった。
幸運なことに、明日は任務が無いオフの日だった。
九代目のご考慮だろうか。
そのためいくらでも寝られるし、いくらでも遊べる。
オレたちは久し振りに目一杯遊んだ。
その風景は中学生の頃と変わらなかった。
夜中の1時を回ると、さすがに疲れもあり、十代目は寝てしまわれた。
山本も寝る寸前の状態だった。
オレだけ一人元気で、黙々と片づけをしていた。
ドサッという音とともに、寝息が1つ増えた。
その風景はなんとも微笑ましく、2人に毛布をかけた。
そしてオレはまた片づけを始める。

片づけが全て終わったのはもう朝方だった。
さすがにオレも眠くなったが一度シャワーを浴びた。
そしてそれを終えると、コーヒーを飲みながら昨日調査した事項をまとめることにした。
さすがに3人の情報量は多大なもので、いつもよりも時間がかかった。

ようやく出来上がったころ、すでに朝の8時を回って
いた。
オレは2人を起こさぬよう、静かに部屋を出て九代目に報告書類を提出した。
次の任務日を確認し再び部屋に戻った。
一安心したのか、強烈な睡魔がオレを襲った。
しかしこのまま寝るわけにもいかなく、オレは意地で起きていた。
暫くすると十代目が起きられた。
オレは十代目と挨拶を交わした。
十代目は、「片づけしなくてごめんね」と言い残し自分の部屋に戻られた。
残りは山本だけとなったが、さすがにこの眠気は限界に達していて、十代目が着ていた毛布を片付けようと歩いて行った直後、ふと山本の安らかな寝顔が見えた。
オレはその寝顔につられるかのように山本の隣に倒れ込み、一瞬で深い眠りについてしまった。

どれくらい寝たのか分からない。
だがオレはふと目を覚ました。
オレの目の前には山本の顔があって、一瞬驚いた。
山本がまだ居るということはまだそんなに経ってないのではないかと思った。
ふと時計を見ると昼の12時で、2〜3時間は経過していた。
さすがに山本を起こさなければと思い、オレは小刻みに山本の身体を揺すった。
ん、という声とともに山本の目が開いた。
「おい、起きろ。もう昼だぞ。」
「うそ・・・。まだ眠ぃんだけど。」
「寝すぎなんだバカ。」
「・・・腹減った。何か作っていい?」
オレが承諾すると、山本は冷蔵庫を開け、色々探っていた。何かを見つけたらしく、山本が立ちあがりキッチンに向かう。
オレはその姿をじっと見ていた。
確かにオレも腹が減っていたので少し羨むように見ていた。
だが、オレの眠気は未だ覚めることがなかった。
なのでオレはその眠気に従い、再び眠りについた。
「獄寺、起きて。ご飯出来たよ。」
山本の声に気付きオレは目を覚ます。
そしてテーブルには久し振りに見る手作り料理が並んでいた。
「別に用意しなくてもよかったのに」と言った。
だが山本は「んなこと言うなよ。昨日の御礼だとでも思ってさ。」と、笑ってそう言った。
まぁ正直作るのが面倒だったので省けて良かったし、3年ぶりにこんな端正こもった料理を口にするので少し懐かしい気がした。
オレは山本と向かい合うように座り、昼食をとる。
その間も話は途切れることは無かった。
昼食を食べ終わり、山本は片づけを始めた。
オレはスケジュール表を開き、次の任務の確認をする。山本に伝えておくからだ。
山本は手際よく片づけを済ませ、荷物を持ち玄関に向かった。
オレは次の任務の日程を告げ、ドアを閉めた。
そして山本が帰ったことを確認すると、十代目にも次の任務の連絡をした。
そしてオレは久々のオフをゆっくり過ごした。

そんな毎日が5年続いた。

ボンゴレは全てオレたちが受け継いだ。
今、守護者は5人そろっていて大分ファミリーらしくなってきた。
5年前よりは忙しくなった。
今までは九代目らがしてくれていた仕事も多く、受け継いだ当初は目が回るような忙しさに見舞われたのは記憶に新しい。
そんな中でもオレと山本は相変わらず付き合っている。
デートなどと言うものはできなかったが、2人でいる時間をなるべく作った。
オレはこんな日々がずっと、一生続くと思ってた。


ある日、ライバルのファミリーとの争いが起こっていた。
こちらは人数が少なくかなり苦戦を要された。
だが、オレたちはその争いにもちろん勝ち、また一段階成長したかに思えた。
だが、そんなとんとん拍子に事が進むわけがなかった。
この争いで負傷者は何人も出た。
オレもその一人だった。
だが更にショックな事態がオレを襲った。

オレが部屋で安静にしている時、十代目がオレの部屋を訪れた。
「獄寺君・・・。山本が、この前の戦いで・・・死んだ。」
オレは驚いてベッドから飛び起きた。
傷なんて痛まなかった。
うそだろ・・・?
山本が・・・死んだ、だと?
オレはショックで胸が一杯だった。
十代目も悲しそうな顔をされていた。
長い沈黙が続いた。
そしてその沈黙を最初に破ったのは十代目だった。
オレに次の任務の連絡をするとオレの部屋から出て行った。
静かになったオレの部屋に残っているのは山本との思い出で、その他には何もなかった。
『獄寺、獄寺・・・』
山本の声が頭の中に木魂する。
オレは確かに悲しくて仕方がなかったが、なぜだか涙は出なかった。
思い浮かぶことは山本のことばかりで、今何時だとか腹減っただとかは一切思わなかった。
オレは安静の身だったため、再びベッドに横たわった。
でも山本のことで頭が一杯で寝られはしなかった。
でも明日は任務だったので早く寝なければならなかった。
次の日、痛む傷と消えぬ記憶を抱え任務に向かった。
物資調達と確認と割と楽な任務だった。
でも失敗は許されない。
オレはその瞬間だけ懸命に山本を忘れた。
その数日後、オレは再び十代目から指示を受けた。
山本の部屋を整理してくれということだ。
そこには思い出が詰まりすぎていて、オレにとっては地獄のような場所だ。
とても重くオレの心にのしかかってくる。
だが、十代目のご命令のため断るわけにも、手を抜くわけにもいかず、オレはその仕事を承諾した。
少ししてオレはスーツに着替え、山本の部屋へ向かった。
合いカギは十代目から預かっていたものの、そのカギはかかっていなかった。
なんて不用心な部屋なんだろうと思った。
オレは鍵をポケットに入れ、部屋の片づけを始めた。
それぞれ段ボールが用意されていて、ファミリーに必要な物資と、そうでないものに分けられた。
ファミリーに関係のあるものはほとんどなかった。
あったのは野球の道具と、漫画、そして学生時代の懐かしい品々だった。
オレはそれらを見つめているうちに感傷に浸って行ってしまった。
これはあの時オレが奢った物で、これは2人で買わされたもの・・・。
次々に思い出が蘇ってきた。
だが不思議なことに、涙がこみ上げてくることは一度も無かった。
いままで幾度も山本と一緒に時を過ごした。
沢山思い出だってある。
山本が死んで悲しいハズなのに・・・。

オレは黙々と作業を続けた。
分けるのは簡単で、小1時間程度で終わってしまった。
オレは一通り掃除機をかけ、段ボールを持ち、十代目の元へ行った。
ボンゴレ関係のものは十代目が預かり、他の遺品は全て廃棄するそうだ。
名残惜しいが、いつまでも留めてはいけない。
オレはそう思いを決し、ごみ収集所に段ボールを置いた。
オレ仕事はこれで終わった。
そしてオレは部屋に戻った。
すぐ後に十代目から次の任務の連絡があった。
さすがにファミリーの椅子が1つ開いてしまったため、その穴を埋めるため、他の人の作業が増えた。
もちろん怪我人だとか、そんなのは関係無しに。
オレはその任務を難なくこなし、再び十代目に連絡をする。
そしてやはり次の任務の連絡を受ける。
オレの次の任務は明後日ということで安静にしてろと言われた。
オレはそれに逆らうはずも無く、部屋に戻ってからはメシを食い、そのまま寝てしまった。

次の日、オレは珍しく早く目が覚めた。
昨日早く寝たからだろうか。
2度寝するほど眠たくはなかったのでそのまま起きていることにした。
十代目からは安静にしてろと言われたが、昨日何も無くなった山本の部屋を見てしまったせいか、オレの部屋が散らかってるようにも思えてしまった。
オレはどうせすることも無いし、整理するくらいは、別に大して動かないし大丈夫だろう、と自分の部屋の整理をすることにした。
オレの部屋は案外散らかっていて、インスタントラーメンの袋だとか、インスタントコーヒーの残骸だとかがそこらに散らばっていた。
オレの部屋も山本の部屋に負けず劣らず汚なかったんだと思い知った。
そしてこれからは真面目にごみは捨てようと誓った。
やっとリビングとキッチンの掃除が終わり、残りは箪笥とベッド周りだけとなった。
オレはまず箪笥を整理することにした。
中はそんなに散らかってはいなかったが、ハンガーに適当にかけられたスーツが目に入る。
オレはそれらを全て出し、一から全てかけ直した。
そして箪笥に戻そうとした時、ふと奥に段ボールが見えた。
そう言えば、ここに来てすぐの頃もう思い出さないようにとしまい込んだんだっけな・・・。
オレはその段ボールの中身を久々に覗く。
その中には山本の部屋にもあった、お揃いで買わされたペンダント、中学校の教科書・・・様々な物が出てきた。
オレは懐かしさでつい笑みがこぼれた。
「こんなもんも勉強してたっけな・・・。」
オレは教科書をパラパラとめくる。
ページを捲る度にやわらかい風が起こった。
そしてオレはある教科書のページに目が止まった。
そこには四つ葉のクローバーが挟んであった。

―――――獄寺!あげる!

それは昔、山本から貰った四つ葉のクローバーだった。
何度も要らないと告げた。
でも山本は無理やりオレにこれを持たせたんだっけ。
・・・そんな時も・・・あったな。
いつも3人で一緒に居た・・・あの頃が・・・。

オレの記憶の歯車が回り始めると、それはもう自力では止められなかった。
そんなことを考えていた。
オレは頬に違和感を感じた。
そして一瞬目の前の世界が滲む。
ポタッと音を立て、オレの手に滴が零れた。
おい、オレ・・・。
なんだよ。
今まで泣かなかったくせに・・・今更・・・。
情けなかった。山本の部屋を片付けていても、沢山の思い出を振り返っても決して出なかった涙。
それがこのたった一つのプレゼントによって零れ落ちた。
あの頃はとても毎日が嫌だった。
最初の頃は山本が大嫌いで、うっとおしくて・・・。そんな山本がくれたプレゼントなんて要らなくて。

―――――四つ葉のクローバーは幸せの証なんだぜ!!!

でも今思えば、そんな何気ない日常が幸せなんだと感じた。
思うようにできなくて苦しかったあの頃・・・。
でもオレはあの頃が幸せだった―――――・・・。


オレには涙が止められなかった。


『大好きだよ・・・獄寺』


―――――あぁ、オレも好きだったよ。山本・・・。そしてこれからも・・・ずっと。




初めて書いた死ネタです。
最初は何を書きたかったんだろう・・・?
もう、記憶に無い(汗)

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