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おはなし達
独りの涙
蝉も鳴きはじめる初夏。
ボンゴレにも大きな動きはなくなり、忙しさが一段落した。
「獄寺!今度2人でどっか遊びに行こうぜ!!」
「は?なんでてめぇと2人で遊びに行かなきゃなんねぇんだよ。十代目もいらっしゃらないのに。」
「いいじゃん!行こうよ!」
「・・・ったくてめぇは・・・。」
「じゃあさ、4日後の朝10時な!ツナには内緒だぜ!?」
強引な約束だった。
でも、十代目が居ないから行きたくないという理由をつけても山本は十代目を誘わず、オレだけを誘った。
まぁその日は特に予定もなく、暇な日だ。
いい暇つぶしにはなるだろうと思った。
そう考えながら授業を受けた。
放課後、ウザったい山本が部活で居ない。
十代目と2人で帰った。
その時にふと山本の約束を思い出した。
オレは、オレが行くんだから十代目も居なきゃと思ったが、「ツナには内緒」という言葉も一緒に思い出した。
特に守る義理もなかったが、十代目には黙っておいてしまった。
一応心の中では十分に謝った。
そして十代目を家に送り、オレも家に帰った。
オレは自分で言うのもなんなんだが、山本のことがずっと好きだった。
誘い自体はすごく嬉しかった。
でも素直に受け入れてしまうと、それはそれで変に思われる。
それは自分で許せないのでいつもの悪態ついた言葉を返してしまった。
素直になれない自分がいた。
山本には悪いと思うが、それしか言葉が見当たらなかった。
次の日も胸を躍らせながら学校へ向かった。
でも勿論嬉しいなどという感情は出さない、あくまで心の中で呟く。
いつもと同じ風に過ごそう、昨日のことには一切触れずに。
まぁオレの普通は他の奴等の普通ではないのだが。
「獄寺君、何かいいことあった?」
次の日の通学路の途中に言われた。
まぁオレの中じゃ、いいことと言えばいいことなんだが、それをいいことと認めればオレは単なるホモだと思うし、山本との約束も守らなかったことにもなる。
そうするとオレは最低の人間になってしまう。
オレは心の中で土下座をした。十代目に嘘をつくなんて最悪だ!
それでもオレは十代目よりも山本との約束を優先してしまった。自分でもアホらしいと思った。
「いえ、何もありませんよ。気のせいじゃないッスか?」
オレは誤魔化し、学校へ向かった。
途中でいつも通り山本が現れ、オレたちの会話を邪魔する。
オレはそれに対し怒り、山本が笑う。そして校舎へ入る。
教室に入ってもいつもと変わったことは特になく、平凡すぎるほどの日だった。
他の人には平和で丁度いいのかもしれないがマフィアのオレにとっては少し平和すぎる。
イタリアではこんなに気は抜けないだろうって程だ。
山本が笑ってる。
オレはそれだけで楽しかった。
日本の平和の象徴が鳩であるように、オレにとって山本の笑顔が平和の象徴である。
自分で考えててもオレはやっぱり変わってるなとつくづく思う。
なんで山本なんかを・・・いつも呑気に笑ってるだけなのに。
そんな奴とオレは1日を過ごすんだと考えると少し複雑だった。
「獄寺、くじ引いて!」
「ん?あぁ・・・。」
山本の声で一気に現実に戻された。
そういえば今日は席替えだったな。
オレは基本的にどうでもいいが、オレを怖がらない奴が隣だといい。
うるさくて眠れないからだ。
そしてみんなが一斉に移動をした。
十代目の隣になることを祈り、オレも席を移動した。
オレは割と前の席と近かったのですぐ終わった。
だが残念ながら十代目は黒川の隣だった。
そしてオレはの隣は・・・
「なんだオレの隣獄寺か。やった!」
山本だった。
まぁオレの要望には答えているのだが、まさかコイツとは思いもしなかった。
相手もびっくりしただろうが、オレもそれ以上にびっくりした。
そしてみんなが落ち着いたころに授業開始のチャイムが鳴った。
授業中もそりゃあ大変だ。
必要以上に話しかけてくるわ、すぐ分からないなどと言ってオレに頼るわ・・・。
好きな奴の隣になれて嬉しいハズなのだが、こうなるとさすがに疲れる。
まぁ今日は色んなことがあったものの、いつもの日常だったことには変わりない。
今日は、部活が休みだったので、山本と3人で帰った。
十代目と山本が話してたのでオレはその横で話を聞いていた。
隙あらば別の話にして、コイツを入れないようにと思ったが、なかなか話が途切れず結局十代目の家までオレは話せなかった。
それに落ち込んでいることも山本はよく分かってなかったようだ。
そして、山本の家の前についた。
山本はオレに「じゃあな」と言い残し、暖簾がかかった入口に入ってった。
オレは途端切ない気がした。
初夏の蝉がその切なさを一層深いものにしていった。
家に帰り、ベッドに倒れこんだオレは珍しくドキドキしていた。
明後日・・・、明後日オレは山本と一緒に遊ぶんだ、と。
自分でも女々しすぎるだろと思ったので考えるのをやめた。
我に帰ると、辺りの異様な静かさに気付かされた。
する音と言えば、外で鳴るクラクションと車のエンジン音くらいだ。
オレはあまりテレビもつけない。
時々見るとすれば、山本が来たときに見る野球と夜中のニュースくらいだ。
オレは自分の静かすぎる部屋で一瞬孤独を感じてしまった。
まぁいつもと変わりないのだが、今日は特別そう感じた。
オレはそれを振りきりたくなり、近くのコンビニへ走った。夕飯を買うためだ。
まぁ一歩外へ出れば人、人、人だ。孤独なんて微塵も感じられなくなる。
オレは夕飯を買い、また家に戻った。
今度は孤独を感じることなんてなかった。
次の日、オレは胸を高鳴らせ学校へ向かった。
明日が、山本との約束の日だ。
オレは自分に、デート前の女か!とツッコミたくなった。
なぜか妙な緊張がオレを襲う。でもいつも通りの毎日・・・のハズだった。
「獄寺!ツナ!オレ、彼女出来ちゃった!」
オレは先刻まで感じていた胸の高鳴りも妙な緊張感も一瞬で吹き飛ばされてしまった。
オレはただ茫然とその話を聞くしかなかった。
なんだろう、足元が抜け落ちたようなこの感覚は・・・?
目の前が、頭ン中が真っ暗になる・・・。
「へぇ〜。やっぱ山本すげぇや。」
「いいだろ♪」
「・・・。」
オレはただ何も言えなくて、黙ったまま歩いてた。
話は聞こえなかった。
学校なんていつ着いたか覚えてない。
いつ席に座ったか、いつ誰と話したか覚えてない。
オレにはただ山本に彼女ができた事実しか聞こえなかった。
「獄寺、朝の話聞いてた?」
「・・・ぁあ、一応な。」
そういえばコイツ、オレの隣の席だっけ・・・。
きっと授業中も小声で自慢話でも聞かされるんだろうなと覚悟した。
でもきっと途中で耐えられなくなるだろうなとも思った。
そしてその悪夢の時間が始まった。
どんな子か、何組か、性格などをいやというほど聞かされた。
もちろん今のオレには聞こえちゃいない。
そして山本はそれに気付いた様子で何度もオレに「獄寺聞いてる?」と尋ねてきた。
その度オレは、「お前は授業を聞け」と返したがそうする気もなさそうだ。
昼になるとオレはもう疲れ果てた。
午後の授業をサボろうかとまで考えた。
でもまぁ教室に十代目がいる以上サボるわけにもいかないため、渋々山本の彼女の自慢話を聞いた。
呆れるほどに。
可愛いなんて言葉はもう100回は出てきた。
オレは適当に相槌を打ちつつも半分意識を失った状態だった。
でもオレが考えてたのはずっと、明日のことだった。
山本は彼女を作ったにもかかわらず、そいつとデートもせずオレと遊ぶのか?
山本は本当に明日来るのだろうか、いや山本は明日のことを覚えているのだろうか?
彼女ができて舞い上がってるあの野球バカの事だ・・・。
きっと覚えてないだろう。
そう思うとなんとなく悲しくなった。
というより、テメェから持ちかけた約束をテメェで破ってどうすんだよという話になる。
帰り道もずっと考えた。
山本に言おうか言わまいかと迷った。
でも結局オレは言わなかった。言えなかった。
あまりに彼女のことを話す山本の顔が明るすぎて言えなかった。
オレにはその2人の間に入ることができなかったのだ。
悔しかった。
簡単に言ってしまえば、その女に嫉妬してしまった。
オレは自分で自分を笑ってしまった。あまりにもバカバカしすぎて。
オレは家に帰り、ベッドに倒れこんだ。
そしてさっきは言えなかったが、メールで山本に『明日は?』と送った。
電話だときっと色んな意味で長話になるだろうと思ったからだ。
そしてその後5分、10分過ぎたがメールは返ってこなかった。
風呂でも入ってるのかなと思い、オレも一旦風呂に入った。
そして風呂から上がりケータイを確認した。
でもメールは返ってこなかった。
その日1日中待ったが、山本からメールの返事が返ってくることはなかった。
オレはやっぱりショックだった。
と同時に明日山本は来ないのではないか、山本は約束を忘れてしまったのではないかと思った。
そう思いつつも明日を楽しみにしていたオレはいつもより早く眠りについた。


翌日、オレはほぼ待ち合わせピッタリの時刻に待ち合わせ場所に着いた。
しかし、山本の姿はなかった。
いつもなら・・・もう居るはずなんだけどな。
オレは山本を待った。
だって誘ったのはそっちだ。来なかったらバカじゃね?
いや、アイツは元々馬鹿なのだが。とか思いながら山本を待った。
しかしいくら待っても山本は来ず、ただ時間だけが過ぎていった。
もう、2時間は経っただろう。
山本が来る気配はない。
オレは心の中で少しイライラしていた。
やっぱり山本は告白されて、舞い上がって、そいつと遊んで・・・。
オレとの約束なんかこれっぽちも覚えちゃいねぇだろう。
オレは山本に捨てられた(最初から拾われてもいないけど)んだ・・・。
分かってるさ。
オレは邪魔しちゃいけねぇんだ。
だから・・・オレはここで待ってちゃいけねぇんだ。
帰らなきゃいけねぇんだ。
頭では分かってても身体がなかなか言うことを聞かない。
往生際が悪い身体だな。
オレの目の前を何人もの人が通り過ぎていく。
休日まで働いているサラリーマン、バイトに向かう学生、手を繋いで歩くバカップル・・・。
オレは何だかその人たちとは別の世界に居る気がした。
世界からオレだけ取り残されているような気がしてならなかった。
そしてオレはとあるひと組のバカップルに目が留まる。
別に誰かに似てたってわけでもねぇが、つい見入ってしまった。
オレはすぐ我に帰りカップルから目を逸らす。
そんなことを考えてるうちにポツポツと雨が降ってきた。
そう言えば天気予報で雨降るかもって言ってたっけか。
オレは財布以外何も持ってきてなかった。
傘を買えばよかったのだが、生憎コンビニは近くに無く、スーパーやデパートに入ってまで傘を買う気にもならなかった。
まぁ別にずぶ濡れになったって構いやしねぇ。
何か別のこと考えてりゃ雨なんかに気はいかねぇよ。
まぁその何かっていうのは山本のことしか無いんだがな・・・。
山本以外に考えることもねぇし。
そもそもオレはいつから山本を好きだっけか。
確か去年の体育祭あたりだっけ?
そうするともうすぐ1年か。
以外と短い恋だということを思い知らされる。
あの頃はオレもなかなか馴染めなく大変だったことを憶えている。
別に馴染む必要も無かったけど、十代目と一緒に学校生活を送る以上、必要最低限の親しみは必要だったのだ。
そこに山本が現れた。
こんなオレにも優しく声をかけ、いつもの馬鹿みてぇな笑顔を見せる。
誰にだって見せるのだろうが、オレには特別に見えてしまった。
まぁ他の女子もオレと似たようなことを考えてるのかもしれねぇな。
となんとなく自分が気色悪くなった。
そうだったな、オレはアイツの馬鹿みてぇな優しい笑顔に惚れたんだ。
今はそれが見えないと思うと、寂しく思える。
ふと辺りを見渡す。
段々と雨は本降りになってきた。
街行く人たちが皆傘をさしたり、鞄を傘代わりにして走ってたりと色々だった。
オレの頭は雨でビショビショに濡れ、せっかくの髪型が台無しだ。
特にいつもに増してセットしてきたわけでもないが、少し気合いを入れてやってしまったのでショックだった。

あれから更に3時間が経った。
しかし山本の姿は見えなかった。
ショックからか、オレはもうどうでもいいやなんて思ってた。
やっぱり山本は彼女とデートでもしてんのかな?
でもこの雨の中だ。どちらかの家にでも行って話したり、遊んだりしてるのだろう。
どっちにせよ、山本がここに来ないことは確かである。
しかしなぜだろう、来ないと分かってるのにオレはこの場から動きたくなかった。
まだ心のどこかで山本が来てくれるとでも思っているのか?
アホかオレは。
でもオレの足は動かなかった。
雨は止む気配を見せなかった。
それどころかますます雨は酷くなっていく一方だ。
雨はもうオレの頬に突き刺さって痛いほどにまで勢いを増した。
オレの周りの人通りが少なくなった。
まぁこの大雨の中外に出る方がよっぽど物好きなんだろうな。
それでもオレは傘を買う気にはイマイチなれなかった。
ささなきゃ風邪ひくのに・・・。
どうでもいい話だが。
オレが風邪を引いたって困る奴は誰もいないからだ。
オレはそのあともずぶ濡れになりながらも、もう来ない山本を待った。
その間も考えてたのはずっと山本だけだ。
何をしてるんだろうか、どこに居るんだろうか、本当に約束を忘れてしまったんだろうか。
考えることはいつも一緒だった。馬鹿の一つ覚えみたいに、同じことを。
一度メールをしようかとも思ったが、きっと分からないだろうなと携帯の画面も見ずにただそこに茫然と立ち尽くしていた。
そんなオレに容赦なく打ち付ける雨は徐々にオレの体力を削っていった。
椅子があったので座ろうとも考えた。
けど、移動するのも面倒で、やめた。

もうかれこれ6時間経っていた。
ずっと立っていたオレは体力も無くなり、ふらふらだった。
段々意識も朦朧としてきて頭が痛かった。
風邪でも引いたか?まぁでも無理はない。
ほぼ夏とはいえ、冷たい雨をこの長時間浴びてたら誰でも風邪くらい引くだろう。
段々息も荒くなり、目が翳んできた。
それでもオレは待ち続けた。
山本を、もうここには来ない山本を。
あれから1時間くらいしか経っていなかったが、オレの意識はもう無くなった。

「やま・・・も・・・と・・・」

オレが次に意識を取り戻したのは病院のベッドの中だった。
そうかオレは倒れてしまったんだ。なんて情けない。
医師から説明を受け、少しの間入院することになった。
入院自体は構わなかったが、そのあと色々面倒なので嫌いだった。
やっぱり山本は来なかった。
時計を見るともう7時、きっと約束の日の次の日の朝なんだろう。
だがこの部屋にはオレ以外に誰も居らず、自由に使える部屋だった。
病室としては申し分なかった。
そのあとオレは辺りを見回した。
山本は・・・やっぱりいなかった。
そりゃそうか、なんで可愛い彼女放ってオレなんかのところに来るんだって話だよな・・・。
誰でも、恋人より大事じゃないだろ・・・。
たとえ親友だったとしても山本はきっと彼女を選ぶのだろう。
オレは山本とは友達でもなかった(山本本人からは友達と思われている)ため、天秤は彼女のほうに向いた。
それだけの話だ。
でもオレは頭では分かっていてもやっぱり悲しかった、ショックだった。
気分転換に煙草を吸いたかったが、病院内全館禁煙、点滴も打っているのでそうさせてくれなかった。
オレは気を紛らわすものが欲しかったが周りには空の花瓶くらいしかなかった。
TVをつけても面白いものは何もやっておらず、やってるのは年寄りくせぇニュースばかりだった。
まぁそれでも何もないよりマシとつけておいた。
だが、それはなんのためにもならず、オレは山本を思い出してしまう。
その度に落ち込んだ。何度も忘れようとしたが忘れられなかった。
こんなとき漫画でもあればなぁ・・・。
とつい山本の持ってた漫画を思い出し、慌てて首を振った。
少し経つと、ニュースのアナウンサーの声が子守唄にでも変化したか、眠たくなった。
オレは疲れが完全に抜けてないため眠ることにした。
これでしばらくの間、山本を忘れられる・・・。

起きると、そこには点滴を取り換えに来た看護士がいた。時計は昼の2時を指していた。
オレはかなりの間寝てたらしいな・・・。
看護士との会話も特になく、看護士が扉を閉めると同時にオレはまた一人になった。
ふと考えると、この病室にはオレと看護士と医師くらいしか出入りしてないことに気付く。
正直オレは十代目は来るかなと期待してしまったが、その期待も空しく十代目が来ることはなかった。
十代目以外に来る人も思い浮かばず、オレは改めて独りなんだと気付かされた。
昔からオレはどこのファミリーにも入ることができず独りの毎日を送っていたが、まさかこんな所でまた独りになるなんてな・・・。
オレは不思議と悲しくなってしまった。
昔はこんなこと感じなかったのにな・・・。
オレも変わっちまったもんだな、独りが寂しいだなんて・・・。


それから3日間看護士以外誰ひとりとしてこの部屋にくることはなかった。
その間もずっとオレはつまらないニュースばかり聞いていた。
お蔭で今の政治だとか世界経済の情報はバッチリ頭に入ってた。
でも心にはぽっかり穴が空いたようだった。
オレも晴れて退院し、重い足取りで家に帰る。
家に帰ったって迎えてくれる人は誰もいない。
オレは再び孤独になった。
トボトボと家に帰り、ガコンという安っぽい音を立てるドアをくぐりベッドに倒れこむ。
オレは静まり返った殺風景な部屋を見渡した。
本っ当に何もねぇなと改めて思った。
だが、いつものこのベッドには心落ち着くものがあった。
オレは太ももに硬いものを感じ、手を入れると、携帯が入ってた。
そこにはメールが1件入っていた。差出人は・・・
「山・・・本・・・?」
約束の日の前日出したメールの返事だろう。
オレはメールが返ってきた嬉しさと、なんで返ってきたのかという疑問で複雑だった。
どうせ彼女と一緒に居て気がつかなかったんだろう?
オレはそんなことはもうどうでもよく、恐る恐るメールを覗く。

『ごめん』

たった3文字のあまりに寂しいメールだった。
でもオレの心には深く突き刺さる3文字だった。
あの日の雨よりも深く鋭くオレの心に刺さった。
オレの目からは、自然と涙が零れ落ちた。
涙で視界が滲みよく見えなかったが、ケータイにも、ベッドにもオレの手にもポタポタと涙が零れ落ちた。
オレはそれを止められなかった。
オレはショックがあまりにでかすぎて、思わず声をあげて泣いてしまった。
こんな風に泣いたのは何年振りだろう。
ベッドに蹲り、声をあげ、泣いた。
もう何も考えられなかった。
考えても考えなくても涙が溢れた。

ピンポーン・・・

インターホンにオレは驚いた。
気付くと、あまりの仰天さに声が止まった。
しかし涙は止まらなかった。
誰だかもよく分からない。
宅配かもしれない、そうだとすればそこらへんに置いていってくれれば特に問題はない。
じゃあ十代目?断れば右腕として名が廃るが、その右腕であるオレが泣き声をあげガキみたいに泣いてるとすれば更に十代目の名まで廃ってしまう。
もし山本なら・・・無論無視だ。こんな顔をアイツに見せらんねぇ。
「ごくでらぁ〜!!」
その声の正体は山本だった。結果、無論無視。
色々なことを思い出したオレは布団を被り再び泣いた。声は出さずに。
声を出してしまえば、赤っ恥だ。
THE END OF オレだ。
第一オレを捨てた山本がなぜここにノコノコと来ているんだ?
彼女はどうしたんだ?
風邪でも引いたか?
一緒ではないのか?
何にせよ、オレは山本を家に上げる気は無ぇし話をする気にもなれない。

ガコン

「あ、開いてる。居るのかな?」
しまった・・・!鍵を開けっぱなしだった。
オレは今更後悔した。
無論無視のハズがもう無視とかそういうレベルではなくなった。
オレは山本の足音が近づいたので咄嗟に顔を隠した。
「獄寺・・・。」
「・・・。」
山本はそのあとも何も話そうとしなかった。
オレもただただ黙ってた。
そのあとも耳鳴りがしそうなほど静かで、いつもでは有り得なかった。
「獄寺・・・ちょっと聞いてな。オレ・・・ごめんなあの日行けなくて。前に言ってた彼女がさ、行かせてくれなくて・・・。男だから大丈夫って言ったんだけどダメだって・・・。」
オレは事情を淡々と話すのを聞いていた。
しかし男だから大丈夫・・・ということはオレのことを何とも思ってないということか。
オレの目からポロっと涙が零れた。
そのあとも山本はこの間のことについて話していた。
オレはまぁ来ないことは分かっていたので話半分で聞いていた。
理由なんてどうでもよかった。
山本が来てから丁度30分が経とうとしていた。
もう話すことも無くなったらしい山本は黙り続けていた。
「ごめんな、急に来て。帰るわ。・・・あとこの前、本当にごめんな。」
そういうと山本は立ち上がり、その場を去っていった。オレは慌てて振り向く。
なにやってるんだオレはと思った。
今まで何も話さなかったくせに、帰えると分かっていきなりこれか・・・。

―――――行くな、行かないでくれ!オレの傍に居てくれ!山本っ!!

言おうとしたけど、止めた。
ガコンという扉の音を聞いた。
急に部屋が静かになった。
元々山本が話さず静かだったのだが、それ以上に静かに感じた。
「バカだな・・・オレ。傍に居てくれなんて、バカバカしい・・・。」
その言葉と共に再び涙がこみ上げて、止められなかった。
自然と声も出てきてしまった。
自分でも馬鹿馬鹿しいことと、女々しいことが分かってるのに止められなかった。
その涙は、あの日の雨のようにオレを襲う。
もう脱水症状になってしまうのではないかっていうくらい泣いた。
泣きやんだのは何時か分からなかった。
泣きつかれたオレはいつの間にか寝てしまっていた。
今日は雨だった。
まるでオレの涙が再び降りて来たかと言わんばかりの。
オレは不意にあの日を思い出し感傷に浸ってしまった。
きっとオレはトラウマかのように雨の日はあの日のことを思い出すだろう。
「何も・・・無ぇな・・・。」
オレは、自分の周りには何もないことを確認してしまった。
そうだ、何もない・・・。
気がつくとある日の朝だった。
もう日にちが分からなかった。
オレはケータイの画面を見た。
6月22日金曜日朝の5時だった。
オレは鏡で自分の顔を確認した。
昨日あれだけ泣いたのに目が腫れてなかったのが唯一の救いだった。
オレは・・・どうすればいいんだ?
山本にもフラれ、学校を休んでも誰からの連絡もない。
オレはこの孤独を、この想いを誰に当てたらいいか分からなかった。
たぶん、幼いオレの方がよっぽど頭が良かったと思う。
今悩んでることの全ての答えを知ってると思う。
いや、逆に今までの温もりを知らなかったから、孤独でいることしか知らなかっただけかもしれない。
今のオレは色んな感情を知り過ぎたのかもしれないな・・・。
オレはとりあえず学校へ行くことにした。
十代目に会わなければ。
これまでのことを謝らねば・・・。
オレは学校へいく支度をしいつもより少し早めに学校へ向かった。
十代目と山本と合流し、オレは十代目に今までのことを謝罪した。
いつもより心が込められなかったのはなぜだろう。
そしていつもと同じように歩いてたはずだった。
でも山本と十代目は何かに感づいたかのような顔をした。
「獄寺君元気ないね。」
「うん、昨日家言った時も一言も喋ってくれなかったし。」
「え!山本昨日獄寺君の家行ったの?」
「・・・何でもないッスよ・・・。」
オレはどうしても昨日泣いたせいかイマイチテンションが上がらず、一言一言が暗くなってしまった。
それになかなか笑えず、オレの顔から笑顔が消えた日となった。
オレたちはいつもより早く学校についた。
教室にもほとんど人は居なく、ほぼオレたちの独占状態だった。
オレはその中で山本と十代目が楽しく話してる姿を見つめてるだけだった。
そしていつも通りの授業を受け、いつも通りの生活を送った。
昼にはまた3人で食べる・・・ハズだったが、山本は彼女のところへ行ってしまった(呼ばれたらしいのだが)。
オレと十代目は久し振りに2人きりになった。
しかしオレはイマイチ調子が出ず、何も喋れなかった。
時折、十代目が心配そうにオレを見つめるがオレはどうしようともしなかった。し、どうしようもできなかった。
心の中では申し訳ないと思っているのだが・・・オレはやっぱり山本のことばかり考えてしまう。
オレは自分で自分に腹が立った。
でも怒れるほどテンションが高いわけでもなかったし、そこまでするほどのことかとも思う。
昼休みが終わるチャイムを聞く。
「じゃあ先行くね」と十代目は教室に戻って行った。
十代目の右腕として十代目の傍にいなければならないのだが、今のオレでは傍に居たってなんの役にも立ちはしない。
しかも隣に山本がいると考えると、とてもじゃないが行く気にはなれなかった。
なぜだか分からないが、オレは山本の傍に行きたくなかった。
なんとなく嫌な予感がするような・・・。
「畜生っ!!!」
オレはなんだか気持ちがモヤモヤした。
ふっ切りたくて思い切り壁をぶん殴った。
ドンという鈍い音を立てる。
壁を殴った手はじんわり痛みを帯びた。
しかし殴ったところでどうにかなるものでも無く、オレの気持ちは治まらなかった。
ガキか・・・オレは。
オレはまた泣きそうになった。
誰も居ないけど、ここで泣くわけにもいかず、オレは必死で涙を堪えた。
オレは再びその邪心を消すためにもう1度壁を殴った。
この邪心は・・・消えるはずないのに。
それは分かってたのに、なぜ殴ったんだろう?
オレはまた泣きそうになった。
そしてまたその涙を堪える。
壁を殴ったオレの右手は先刻よりも痛みを増し、少し赤みを帯びていた。
オレはこの気持ちを抑えたく眠りに入った。
寝れば何とかなる気がするからだ。
また暫く起きないんじゃないかと思ったが、それでも良かった。
この気持ちが静まれば・・・。

キーンコーンカーンコーン・・・・

オレは放課後のチャイムで目を覚ました。
1つ欠伸をし、辺りを見回す。
どうやら寝ていたのは2時間程度だったようだ。
オレは気持ちの落ち着きを取り戻し、教室へ向かう。
十代目は掃除当番で教室に残っておられた。
山本は、居なかった。
まぁ居なくても構わないし、むしろ居ない方がオレにとって好都合だった。
オレは十代目の手伝いをし、一緒に帰ることにした。
まぁ今日1日中おかしかったオレを見て十代目もさすがに変に思われるだろう。
でもオレはそんなことには気づかないふりをして一緒に帰った。
十代目と帰ってる途中でも考えるのはやはり山本のことだった。
山本はきっと今部活中だろうとか、またちやほやされてんだろうなとか、そんなことばかり考えていた。
十代目ともほとんど会話がないままオレの1日が終わった。
明日から休日だというのに・・・。
オレは十代目に挨拶をし、オレの家に向かった。
まぁその間も考えることは山本のことだけで、他には何も思い浮かばなかった。
オレもさすがに考えすぎだとは思った。
でもオレの思考回路は留まることを知らず、どんどん進んでいく。
オレもさすがにこの思考回路にうんざりしてきた。
往生際が悪いオレと同じだな・・・。
いつまでもいつまでも忘れることのできない記憶、夏の生温かい風がなんとなく心地よく、山本と出会った日を思い出す。
オレはまた馬鹿みたいだと考えるのをやめた。
夕飯を買うためにコンビニへ向かう。
ブラついていると、山本がいつも食べていたパンを見つけた。
ふと山本のことを考えてしまった。
よく考えれば、オレの身の回りは山本で埋め尽くされてることに気付いた。
このコンビニだって、山本と何度一緒に訪れたことか。
もちろん、友達としてだけど。
でもいつも買うものは一緒で変わり映えしなかった。
オレはつい山本がいつも食べていたパンと牛乳を買ってしまった。
それにコンビニ弁当も。
オレは普段こんなに食わないのだが、なぜか買ってしまった。
そしてオレはコンビニを出て、また少し暑くなった外にでる。
蝉も五月蝿くなり、夏を思わせる。
オレはその中をトボトボと歩いて帰る。
家に帰っても辺りに何も無く、とりあえずベッドに倒れこむ。
ここが一番落ち着くんだなと思う。
オレはすぐに立ち上がり弁当はそのままにし、牛乳とパンを冷蔵庫に入れる。
傷んだら買った意味がない。
もちろん牛乳なんて飲まないのだが、買ってしまった以上どうすることもできない。
とりあえず山本にでもあげようかと考えた。
でも受け取ってもらえるかは不安だった。
どうせ彼女になんかもらってるんだろ。
オレは山本のことを考えるのが日常の一環としてあった。
ほぼ一日中考えてしまう。
馬鹿馬鹿しいことばかりだが、ずっと考えてしまう。
想ってしまう。だってオレは今でも山本のことが・・・好きだから。
自分でも照れくさいこと考えてると思った。
でもまぁこの照れくさい想いがオレの気持ちなんだろう。
今でも諦めてなかったようだ。
オレはもう疲れてしまったので手早く夕食をとり眠りについた。
寝ながら考えるのも山本のことだった。
夢も見ずオレは目を覚ます。
特に目覚ましとなるものも無かったが、起きてしまった。
携帯の画面を見ると朝の8時と微妙な時間だった。
オレはとりあえず起き、特に腹も減っていなかったので朝飯を食わず、煙草を吸った。
そしてぼーっと時を過ごす。
オレは昼までの4時間ただぼーっと過ごしただけだった。
特にすることも無かったし、腹も減ってきたのでまたコンビニに行くことにした。
手早く支度をし、オレは出かけた。
そしてコンビニをブラつき、適当なものを買う。
そしてまたトボトボと家に帰ってく。
とてもつまらない件だ。
オレはちょっと遅めの昼食をとり、再びベッドに横たわった。

ピンポーン・・・・

寝ようとした直後、オレの家のインターホンが鳴る。
オレは面倒だったが、一応対応することにした。
対応は大体この前と一緒だ。
ガコンと音を立て開いた扉の向こうには
「山本・・・?」
山本の姿があった。
なんでコイツはまたオレの家にと思ったが、「無論無視」なのでそのまま扉を閉めようとした。
すると、「ちょ、獄寺ひでぇ!待てよ。」と言い、野球部で鍛え上げられた腕で、阻止されてしまった。
まぁ仕方なく家に上げることにした。
丁度いいと、昨日買ってしまったパンと牛乳を山本に差し出した。
一瞬きょとんとした表情をしたが、すぐにありがとな、といい、それを食べ始めた。
その間オレはベッドの上で体育座りをしていた。
ほんんの数分後、パックの牛乳が無くなる時の音を聞き、あぁもう食い終わったのかと思った。
それでも山本の方に顔を向けなかった。
「獄寺、今日も・・・聞くだけでもいいから、ちょっと聞いて。」
珍しくいつもと声のトーンが違うことに気付いた。
オレは特に何も喋らず、そして動かず山本の話を聞いた。
「オレ、昨日彼女と別れたんだ。・・・早ぇだろ?」
何か答えてくれることを期待したのか、妙な間ができた。
そして何も答えないと分かると、再び落ち着いたトーンで話し続けた。
「彼女が休日も部活があると言ったら、急に嫌いになった?とか言い出してさ、もうビビったぜ。女子ってあんな風に思うのな。そのあと、もう無理とか言い出して、喧嘩になって・・・。んで別れた。」
オレは特に相槌も打たず、ただ話を聞いていた。
妙に明るくムカツク声で話す山本はまるで何かを隠してるみたいだった。
それが気に食わなかった。
「この前、獄寺が泣いてたの・・・知ってるよ。」
「・・・え?」
オレはつい声を出してしまった。
あの時なんて馬鹿なことをしたんだと後悔した。
山本の目にはしっかり焼きついていたのだ。
恥ずかしくて、でも嬉しくて泣きそうになった。
オレはそんな顔を見られたくなくて、俯いた。
山本が心配そうにオレを見る。
そしてゆっくりとそして力強くオレを抱きしめた。
「もう独りじゃねぇよ。だから・・・ガマンすんなよ。」
その言葉を聞いた瞬間オレは山本の肩に涙を落としてしまった。
山本は「獄寺?」と言った。
オレは山本の言った言葉から、涙が止まらなくなった。
我慢しようとすれば止められる程度だった。
しかし山本の言葉を聞いてしまったオレは魔法にかかったように力が抜けてしまったのだ。
そして山本にフラれ(?)、おかしかったオレを元のオレに戻してくれた。
たった一言、それだけで・・・。
多分・・・山本にとってこれは友情の証であり、オレを慰めるためのもの。
好きとか恋愛感情とかはこれっぽっちも入って居ないだろう。
それはそれでショックだが、山本の胸の中で泣いてる事実は変わらない。
山本はきっとオレに「独りじゃない」。
それだけを伝えたかったのではないかと思う。
オレは今のままでいい。心の底からそう思った。
想いが伝わらなくてもいいから、山本と一緒に居たい。
独りになるのは・・・もう嫌だ。
「山本ぉ・・・!!」
そのあとオレは山本の背中に手を回し、初めて他人の前で大泣きした。
山本はさぞかし驚いただろう。
こんなオレは誰にも見せたことがない。
一瞬山本の動きが止まった。
そして何かを悟ったようにオレの頭を撫でる。
そのあともオレは延々と泣き続けた。
自然と涙が止まるその時まで・・・。
何もないこの部屋には2人だけだ。
山本の広い肩、長く力強い腕。
それにオレは包まれていた。
もう独りじゃない。そう確信した。
その山本の胸の中という居場所は、とても温かくオレを包んだ。
オレの頭を撫でてる大きな手が、とても心地よかった・・・。




獄寺が山本に心を開いて泣く、というシチュエーションが大好きだった時期に書いたものです。
普通、風邪で倒れません・・・よね?


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