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おはなし達
花火と花火
今年の8月10日は、並盛神社で行われる花火大会がある。
火曜日だけど、その日は練習がない。
祭りみてぇな騒がしくて楽しい毎日だけど、本当の祭りとなればテンションも変わる。
露店からする焼き鳥の香ばしいにおい。
胸を震わす太鼓の音。
そして少し甘い、りんご飴。
毎年並んでいて、毎年行っているから、その景色が簡単に浮かぶ。
今年は、一緒に行く奴が増えた。
いつもは、野球部の連中か、+αの女子とだった。
今年は・・・

「え?10日の祭り?うん!行く行く!」
「十代目がいらっしゃるなら、オレも行く。」
「おう!行こうぜ!え〜っと祭りは5時に始まるから・・・6時くらいに集合で良いか。」
「何なんだその1時間は。」
「花火が始まるのが大体6時半なんだよ。1時間半も回る店ねぇし。」
「そうだね。そうしよっか。」
「十代目がそう仰るなら・・・。」
こうして、今年のメンバーが決まった。
いつもの昼休み。ツナと獄寺と昼を食べていた時に、誘った。
まさかツナがいるだけで人混みが嫌いな獄寺が本当に来てくれるとは思わなかった。
わくわくしているような、でもなんだか変な気持ちのようなそんな気がした。
どこか、寂しくなってしまうような、そんな気持ち。
人数が少ないからじゃない。
もっと別の・・・そう、これから先のこと・・・。


8月6日、ツナに呼び出された。
「ゴメン!山本!オレ、10日の祭り、京子ちゃんたちとチビと行くことになっちゃって・・・本当にゴメン!」
なんだか予感が的中してしまって、悲しいような、やっぱりさびしいような、少し複雑な気分だった。
「い、いや良いんだ。そう言えばツナはチビたち居たんだよな・・・悪ぃ。そこまで気付かなくて。」
「ううん、山本が悪いんじゃないから・・・。オレが忘れてただけなんだ・・・。ゴメン!大人数でよければあとで合流するから。」
「おう、でもそんな気ぃ遣わなくても大丈夫なのな。」
そんなことを言いつつふと頭をよぎったのは、獄寺だった。
アイツは、ツナが行くなら・・・と言うことで来る予定だが、もしもツナが来ない(正確には一緒に回らない)ことを知ったら・・・。
「山本・・・?」
「ん?あっ、大丈夫だぜ!ツナは笹川たちと楽しんで来いよ!」
「うん、じゃあね!」
獄寺の事は話題に一切なかった。
どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・。
オレの頭は軽い混乱に陥ってしまった。
その瞬間、チャイムが耳に入ってきた。そのチャイムの音でオレは我に帰った。
あ、授業・・・。
意外に冷静だったオレの頭は、まず授業と教室に向かうことを考えた。


その後、何気なく過ごし、頭の片隅に獄寺の存在があったが、気付くことができなかった。
いつも昼になり、あの事を思い出す。
でも、ツナに、ツナだけにむける笑顔がとてつもなく愛おしく感じてしまって、言えなかった。
この感情は、嫉妬なのか、恋なのか。
いや、オレは獄寺をどう考えているんだ。
獄寺は、男だぞ・・・。
・・・。
いつも突然思考が止まり、いつも獄寺の怒鳴り声で我に帰る。
1日、2日・・・と時が過ぎる。

明るい日差しと、いつも元気な親父の威勢のいい声がオレを包むも、オレの脳味噌のは入って来なかった。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・・・
ない頭が回っていた。
親父の声とともにオレの耳に届きそうなくらいの音を立てて回っているようだった。
でもそれはただの空回りに過ぎなくて、それはオレも分かっていた。
正しい思考回路に乗らない。
解決策じゃなく、頭にあるのは、「どうしよう」という言葉のみ。
考えれば考える程混乱していき、頭がオーバーヒートしている。
知恵熱がでそうだ・・・。
獄寺の顔と、笑顔と、ツナが居ないと知った落胆の顔と、怒りの顔が思いつき、獄寺の笑顔が見たいという衝動に駆られ、怒ってほしくないという不安が胸を溢れさせる。
怒られたくない、怒った顔なら・・・見たくない。
獄寺に、笑ってほしい。
オレを悩ます。
オレ自身が、オレを惑わす。
元は単純な想いなのに、そこに無駄な知識が割り込んできて、思考回路を、かき回す。
そのうちに、昼になったことが分かる。
・・・腹が減った・・・。
意外にも単純かつ馬鹿馬鹿しい考えに、オレのパニックは治まり、下に降りて行った。
あまりにも、あっさりし過ぎていた。

昼を食べ終わっても、午前中に酷使し過ぎた脳味噌が回復せず、ボーッとしていた。
2時間、3時間と刻々と時間が過ぎて行くのは、分かった。
どうにも打開策、解決策が思い浮かばず、単純な感情だけが、オレの中に残る。

陽が・・・紅くなり始め、オレはそれで時間切れだとわかる。
午前中に使った脳味噌はやっぱり冷静で、どうしようだとか、妙な感情だとか一切なくて、ただ、友達との約束を守ろう・・・それだけだった。
別に格好つける場でも無く、浴衣を着るほどの出来事でもなく、オレは無地のTシャツにジーパンという何ともシンプルな服装をし、家を出た。親父は、祭りの準備で既に会場に行っていて、店は、閉店。

8月10日、午後5時42分。
オレは、並盛神社に着いた。
誰も居なかった。
考えることは、獄寺。
ツナを迎えに行ったんじゃないかな?
そこで気付いてたら・・・来ないだろうな・・・。
・・・。
午後5時53分。
神社の目の前にある段数の少ない石段を上る、足音が聞こえる。
後ろで縛った銀髪を風に遊ばせ、首、指、腰に巻いた、金属のアクセサリー。暑さで少し火照った、しかめっ面。
ごくでらだ・・・。
来てくれた、来てくれた・・・。
「おい、野球バカ。十代目は来てねぇのか?」
急に核心を突かれた。
うっ、と声を出しそうになったけど・・・急な事態に・・・嘘をついてしまった。
「え・・・っとツナはまだ来てねぇぜ?」
「そうか。」
沈黙。オレの鼓動と、頭が回転する音が獄寺に伝わってしまいそうだ。
頭が・・・クラクラする。
午前中よりも、正気になっていて、思考回路も、線路に乗って回っている。
ツナが来ない・・・獄寺・・・。
ツナは来てないんだ。来ないんだ。
いや祭りには来るけど、オレたちとは一緒に回れないんだ・・・。
獄寺・・・ごめんな・・・ずっと言えなくて・・・でもオレ・・・。
途切れ途切れになる、思考回路。
「十代目・・・遅いな・・・。」
獄寺が・・・ツナを心配している。
言うべきか、言わぬべきか、迷った。
獄寺の笑顔は見たいけれど、オレが言わないせいで、獄寺が心配するのも、嫌だ。
そうか、と言われて帰ってしまうかもしれない。
でも、言わなかったら・・・オレ、獄寺に嫌われて、もう2度と会ってくれない。それだと・・・ツナに向けている笑顔が見られない。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ・・・。
「獄寺・・・あの・・・さ。ゴメン・・・。」
「謝られる覚えはないが・・・。」
「今日・・・な、ツナは笹川とチビたちと・・・一緒に行くから、来れないって。いや。来んだけど、正確には、一緒に回れないってことで・・・でも、合流出来たら合流するって・・・。」
言い訳混じりで、みっともない文章。
伝わったか分からない。
でも、獄寺の顔を見てわかる。
獄寺は・・・理解した。
「言えなくて・・・ゴメン。大分前に・・・言われたんだけど・・・。」
「・・・てめぇ!フザけんじゃねぇぞっ!!!」
案の定、怒られてしまった。
オレは、ただ、獄寺の笑顔が見たいだけなのに
「言おうと思ったさっ!オレだって。でも、でも・・・。」
「『でも』じゃねぇぞ!この野球バカがっ!!!オレがお前の事嫌いだって知ってんだろ!!てめぇと2人だけでなんて回りたかねぇんだよ!!」
嫌い・・・そうだよな・・・獄寺はオレの事が嫌いなんだよな・・・
「でもちゃんと祭りには来るって!」
「一緒に回らさせて頂けないなら意味ねぇんだよ!!!」
獄寺は、ツナと回りてぇんだよな・・・
「・・・。」
「分かったかこの野球バカ!!!」
獄寺の言葉を聞いて、何も言い返せなくなったけど、オレの心に1つの感情が残った。
全て吐き出したはずの・・・脳味噌と、心。
次々に、獄寺の反論で打ち消されていった気持ち。
打ち消されかけた、ボロボロの・・・気持ち。
獄寺、獄寺・・・――――――

「とにかく、オレは十代目のところに行く。ついて来んなよ。」
「やだ。」
「・・・っ!まだ言うか野球バ・・・」
「バカでもいいさ。オレは獄寺と回りたいんだよ。」
「意味わかんねぇよ。このバカ!一体何だって・・・」
「っ!オレ・・・獄寺が好きなんだ。」
「はぁ?!!!!」
「・・・。」
自分で言ったのに、自分で混乱してる。
たぶん、獄寺はもっと混乱してる。
そんな顔をしてる。
「・・・。」
「・・・。」
また、沈黙。
言ってしまった後悔と、困惑と、どこかスッキリした心。
微かに香る、焼き鳥のにおい。
子供の笑い声と、胸を震わす、太鼓の音・・・。
不意に、獄寺が、俯き、ポケットに手を入れる。
出てきたのは花火(ダイナマイト)・・・!
「てめぇ・・・ふざけたこと言ってんじゃねぇ!!!果てろっ!!!!!!」
違うんだ、本当は、獄寺の・・・こんな顔を・・・見たいんじゃない。
ただ、笑ってほしかっただけなのに、そう、ただ、純粋に獄寺のことが好きで、一緒に過ごして、笑顔を見せてほしかっただけなのに・・・。
何も・・・上手くいかない・・・。
悲しみと、分かり切っていた結果に驚かず、ただ泣きたい気分だった。
オレの強がりなのか獄寺に笑顔を向ける。
今のオレの、精一杯の・・・笑顔。
『ごめんね、ごくでら・・・』
その刹那、獄寺の顔と手に戸惑いが見え、花火(ダイナマイト)を持つ手が僅かに的をずらした。
獄寺の手から離れた花火(ダイナマイト)が、的(オレ)外し、空中で爆発した。

ドドーン・・・ドーン・・・

花火(ダイナマイト)の爆発と同時に、夜空一杯に咲いた、一輪の花火。
オレと獄寺は思わずその花火に見惚れた。
暫くして、オレは落ち着きを取り戻し、もう1度、獄寺に向き合った。
花火と、オレの鼓動が同調しているようにも感じた。
「獄寺・・・好きだ・・・。」
獄寺は、黙ったままだった。でも、仄かに顔が紅かった気がした。
獄寺が、口を開いた。

「――――――」

ドーン・・・ドドーン

周りが、無音に感じるほど獄寺の声は、鮮明に聞こえた。
そう・・・ハッキリと・・・。
少し、離れていた・・・。オレと獄寺。
その間が、少しずつ・・・少しずつ・・・縮まっていった。
獄寺はそれを、拒まなかった。
獄寺の指先が、微かに震えていた気もした。
獄寺との距離が・・・僅かに10p
今更になって、オレは困惑した。
少し小さい・・・獄寺の背。
日焼けなんて見えない、綺麗な肌。
白い肌に微かに見える、頬の紅。
エメラルドの・・・瞳。
全てがオレに向けられている。
途端に、不安になった。
「本当に・・・?獄寺・・・。」
「信じられねぇのか・・・?」
そんなことはない。そう言う間もなく獄寺の声が胸を震わせる。太鼓の音より、強く。
オレはゆっくり獄寺に手を伸ばす。
僅か10pという、距離。
普通に伸ばせば、1秒とかからない。
オレは、ゆっくり、時々躊躇って、でもゆっくり手を伸ばす。
獄寺は・・・赤みのかかった顔を、少し、逸らす。
獄寺に届いた手は、少し長い髪に触れ、獄寺の首と背中に触れる。
さっきまで怒って、眉間に皺を寄せていた顔が、オレの胸の中にスッポリと収まっていた。
その後、少し控えめに・・・そして躊躇って、獄寺がオレの背中に手を回す。
背中というよりも、脇腹の少し背中側と言った方が正しい。
真夏で、少し辺りが暑い・・・。
だけど、オレの胸の中は温もりで満たされていて、獄寺の熱も伝わってくる。
何分経ったかな?
自然と、身体が離れていた。
獄寺が少し背の高いオレを見上げる、目があった。
そこには眉間に寄っている皺も、しかめっ面も無くて、あったのは、戸惑いと羞恥を混ぜたような顔と、少し潤んだように見える、エメラルドの瞳、薄いピンク色をした・・・唇。
オレは不意にその唇に触れたくなった。
顔と顔の、たった15pの距離。
オレはさっきまで獄寺の首と背中に回していた手を、滑らすように頬に持っていく。
獄寺は、その感触が嫌いではないようで、少し眉を緩めて、少し俯く。
オレはその顔をゆっくりと上げ、オレの顔を近付ける。
唇が触れた瞬間に、オレは目を閉じる。
すこし熱い、獄寺の頬。
オレの方に手を添える細く繊細な手。
そして触れ合ってる、ふたつの唇。
獄寺の心音が聞こえるような感触。
りんご飴よりも、甘いキス。
オレの胸を震わすのは、獄寺とオレの鼓動。

まだ続いている、祭り。
太鼓の音は、聞こえない。

花火の灯りが、オレたちを照らす。
でも、音は聞こえない。




アプローチの仕方が分からない、健気でおバカな山本を書きたかったのかな?
この辺りから文面が固まってきた様子。
そして以後も成長しない文章力(汗)

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あきゅろす。
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