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おはなし達
ことば
山本は、野球バカだ。
でも、周りからの信頼が厚い。
性格や人柄からだろう。
だが、オレはその山本が気に食わない。
それが直接「嫌い」に繋がるわけじゃない。
オレが言うのも気恥ずかしくてあれなんだが、山本が好き・・・ということになってしまう。
自分でも思うんだが、さすがに男同士で恋愛は無いだろと思う。
第一気持ち悪い。
正しく今のオレのことを言っているんだが・・・。
でも、オレの中で気持ち悪いだの変だの思うよりも「好き」という気持ちがとても大きく強い。
自分の中で抑えてるこの気持ちは、一生山本に伝わることはない。
オレの気持ちを言って山本に嫌われることが一番怖い・・・んだな。
なんて考えてると涙が出そうになる。
オレはいつもこんな女々しいことを考えてる。

「獄寺、どうした?」
「え?」

山本に質問された。
「・・・お前のこと考えてたんだよ・・・。」と心の中で呟いた。
オレは一瞬答えに迷った。
だが、気持ちに気付かれまいと必死に誤魔化した。
「なんでもねぇよ。野球バカには一生分からねぇよ。」
「獄寺ひでぇ。」
笑いながら言った。
その笑顔にも惚れてしまったのだ。
自分のことをバカだ、バカだと思いながらもずっと山本のことを考えてしまい、その思考回路は切れることがない。
だが、もしオレがこの気持ちを山本に伝えたらもうオレの人生は終わりだ。
そう、色んな意味で全てが終わる。
学校に行くどころか十代目にすら合わせる顔がなくなる。
オレはこの気持ちをこの並盛に来てからずっと抱えている。
オレの心の中ではかなりの重荷だ。
だが、この気持ちを捨てることなんてできない。
心の中が山本のことでいっぱいになる。
その時オレはきっと変な顔をしてるのだろう。
そんなことを思いながらオレは学校へ行く。
もちろん十代目がいるからでもあるが、山本に逢いたいからでもある。
こんなことを考えるオレは自分でも「女々しい」と思う。
オレは、自分の気持ちに嘘をつくように山本に対していつものように冷たい態度で過ごす。
本当はあの長く力強い腕に抱かれたいだとか、山本の広い肩に身体を預けたいとか思ってるのにそれができない。
だって男同士だし、いつもこんなに冷たいオレにそんなことされたら、さすがの山本だって・・・オレのことを変に思うだろ。
十代目にも、山本にも「どうしたの?」とよく聞かれる。
だっていつもこんなことを考えているのだから、気にもするだろう。
「獄寺くん、あのさちょっとお願いがあるんだけど・・・。」
「は、はい!何でしょう!?」
「あの、今日山本ん家で勉強会するんだけど、獄寺君もどう?」
「オレたち補習組だから獄寺居ねぇと始まらないんだよ。」
「野球バカは一生黙ってろ!あっ!十代目のためならたとえこんなやつの家にだって行きますよ!」
「うん。ありがと。(こんなやつって・・・。)じゃあ今日の夜6時に山本の家に集合ね。」
そう十代目がおっしゃった。
オレは十代目の役に立ちたい。
でも、行く理由がもう一つオレにはあった。
言うまでもなく、山本がいるからだ。あんな悪態づいたことを言ったって一緒にいたい・・・。
なんて照れくさいと思うし、アホくさいとも思う。
オレは十代目のため、十代目のためと気持ちを押し殺し山本の家の玄関を叩く。
オレは、十代目(と時々山本)に勉強を教えた。
でも、山本が気になる。
こんなことでもない限り山本の家に上がることはまずない。
オレは珍しく緊張した。
山本の部屋着は、いつもと同じジャージ。
オレと十代目は私服と一人だけ違った。
山本はジャージが一番似合っているのだが、見栄えがなくダサい。
「獄寺〜。難しい顔してんのな〜。」
「あ゛?てめぇ無駄な話してねぇで真面目にやれ。」
「だって分んないもん。」
ったくコイツときたら・・・。
でもそんな風にオレに構ってくれるのが少し嬉しかった。
オレは十代目の右腕として、十代目の役に立てることはすごく光栄だ。
でもそれ以上に山本に構って貰えることが嬉しい。
そんな風に考えていると少し胸の奥がくすぐったくなる。
十代目に勉強を教えてる時よりも、山本と居る方が楽しい・・・かもしれない。
オレにはうまく言えないけど。
十代目や他の人にも「頭がいい」といわれるが、そんなオレにも答えが分らない。
それはオレには分らないが、山本が分っているかもしれない。
伝え方が分らなくて苦しくなる。
夜の10時を回り、ようやく全てが片付いた。
「オレ途中まで送ってくよ。」
山本がオレと十代目を途中まで送ってくれることになった。
「迷惑なんだよ」と言った。
でもオレの心は正直で嬉しい、嬉しいと叫んでいた。オレは必死でそれを抑えた。
山本は「ひっでぇのな、獄寺。」と言った。
そしてオレたちについてきた。
オレはこの時間が嬉しかった。
外は寒い。でもオレの顔は熱くて誰にも見せられないくらい・・・赤く火照っていた。
風邪でも引いたんじゃってくらいに・・・。
十代目と別れ、オレと山本が2人っきりになった。
「オレはいいからお前もう帰れ。そしてもっと勉強しとけ。」
「いや、いいよ。」
オレはこの状況を嬉しく思った。
だけどやっぱり声を聞くたび、顔を見る度胸が苦しくなる。
そして寒さを忘れさせられるほど顔が熱くなる。
そしてとうとうコイツはオレの家の前まで来た。
オレは小走りで階段を駆け上がり、冷蔵庫にあった飲むはずのない牛乳を取り出し山本に向かって投げた。
「・・・送ってくれた礼だ。」
「あれ?何で獄寺牛乳持ってんの?飲まねぇのに・・・。まぁいいや。サンキュー獄寺!またな!」
「・・・。」
そういい山本は走って行った。
オレも何で牛乳があったのか分からない。
オレはすぐベッドに横たわった。
そして熱くなった顔を必死で抑える。
叶うはずのない想いがオレの中を巡る。叶わないから・・・。
―――――アイツなんか、アイツなんか・・・大っ嫌ぇだ!!
そうやって、自分の気持ちを押し殺した。

次の日、オレは朝早く・・・といっても9時と他の人から見ればそうでもない時間に山本に呼び出された。
場所は・・・アイツの家だった。
「獄寺、ちょっと待っててな。」
あいつはそう言い残し部屋を出て行った。
オレはアイツがなぜオレを呼び出したかが気になった。
勉強でわからないことでも出来たのか?修行の手伝いか?キャッチボールの相手か?それとも・・・
段々選択肢が増えていく。
だがそれのどれもがあてはまりそうで分からない。
「ごめん獄寺。」
そういったアイツが持ってきたのは・・・体温計?
「・・・おい。なんだこれは?オレは風邪なんて・・・。」
「いいから、いいから!」
予想だにしなかった展開だ。
しかしなぜオレの体温なんか・・・。
まさか、オレが昨日アイツの横で赤くなった顔を見て・・・。
オレが熱でもあるんじゃないかと思ったのか?オレは半分呆れた。
でもなんか嬉しかった。

ピピピ・・・

体温計の音が鳴る。
オレの体温は38.5度。
自分でも驚く体温だった。
なぜオレが熱を?
「おい、何でわざわざ計らせたんだ?」
「だって3日くらい前から獄寺咳でてたし、昨日だって顔赤かったし・・・風邪でも引いたんじゃないかって思って・・・。」
「あのな、オレなんかよりお前自分の勉強の心配をしろよ。」
オレは気付かなかったのか?
アイツのことばかり考えてたから?
オレは体調管理ができなかった自分を恥じながら、半分昨日火照った顔がバレたことにもショックを受けていた。
「獄寺、オレが獄寺のこと心配しないわけないじゃん。友達だもん。」
オレは心配されたことについては素直に嬉しかった。
でも・・・
―――――「友達」・・・か・・・。
オレは友達という言葉に初めてショックを受けた。
友達なんて今まで居なかったし・・・。
でも友達以上に思われていないことがすごくショックだった。
「獄寺?大丈夫か?」
山本がオレに話しかけてくる。
でもオレは答えられなかった。
苦しくて・・・悲しくて・・・言葉が出なかった。
「獄寺・・・寝てた方がいいよ?」
「触んな!これがオレの平熱なんだよ!」
オレは走って山本の部屋をでて家に帰った。
自分で分かってたハズの「答え」。
それを山本本人から聞いてしまった。
オレは分かってた、分かってた、分かってた!!
なのに・・・
オレは今でも信じられなかった。
いつの間にか出てた熱、火照った顔がバレていたこと、オレ自身が出した答えを自分で受け入れられなかった事実、山本はオレを・・・。
涙があふれてきた。
止まらない想いと一緒に溢れてきた。
オレは今までは抑えられた想いが抑えられなかった。
オレの気持ちが落ち着いたのは夜中の3時だった。
オレは山本に選ばれなかった。
いや元々答えは分かっていたんだ・・・。
諦めなければならなかった。
そう。山本を好きになったこと自体間違っていたのだ。
オレはなんてバカな人間だ・・・。

オレはこの出来事を、心の奥にしまいこんだ。
もう、一生思い出さないように。
もう一生後悔しないように。
もう一生山本を好きにならないように・・・。

オレは眠りについた。
そして山本の着信で目が覚めた。
『獄寺、大丈夫か?』
「・・・さぁな、知りたきゃ来ればいいだろう。」
『じゃあ行く。待ってて。』
オレは一生期待しないと決めた。
山本のこの電話は友達想いの印。
恋だの愛だのこれっぽっちも入っていない。
15分後山本が家に来た。
もう一度熱を計ると、39.0度。昨日よりも高かった。
「獄寺、ダメじゃん。寝てなきゃ。オレが看病してやるよ。」
熱で朦朧としてくる意識。
友達としての思いやり。
この言葉はこのためのものだ。
「あぁ・・・頼む。」
オレはこんなことを誰にも言ったことはない。
「頼む」なんて一度も。
オレはもう意識がほとんどなく何をしたかよく覚えていない。
だがこれだけは覚えている。
山本が、「友達」のオレを一生懸命看病してくれたこと。
オレはほとんど寝ていた。
夜の7時。オレの調子はだいぶ良くなり、山本に帰ってもらった。
オレはこう思った。

明日・・・山本にいつものパンと牛乳をあげよう・・・。
そして言おう。今まで言ったことがゼロに近い言葉を・・・。
そう思いオレは再び眠りについた。
明日山本に逢うために。
でももう好きじゃないんだ。「友達」の山本に逢いに行くんだ・・・。
次の日。
パンと牛乳をコンビニで買い、山本を迎えに行った。
そして伝えた。
「ありがとう」




山本への恋を勝手に諦めてしまった獄寺(のつもり)
どっちも不器用、っていうのを書きたかったんだけど、いまいちでした。

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