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おはなし達
甘い想い(獄寺視点)
明日は、女子達が待ちに待った年に一度のバレンタインデーだ。
この日が告白のチャンスだとか言うけれど、はっきりってオレには迷惑でしかない。
確かにオレは甘いものは好きだが、一日に何十個となれば話は別だ。
何で顔も名前も学年も知らねぇ奴等からチョコレートを貰わなきゃならねぇんだ。
第一、 オレは好きな奴が居る。いつになったってこの想いを告げる気はねぇが。
イラつくような屈託のない笑顔と、全てを包みこんでくれそうな優しさをもつ。山本だ。
男同士で変だとか思うし、向こうだってオレの事は友達とでも勝手に思ってるんだろうな。だから年に1度、女子から大量にチョコを貰う山本を見る度、腹が立って嫉妬するし自分も女だったらとか思う。
でもこの気持ちを伝えてしまったら、オレはどうなるか分からない。
天然でとぼけてる山本なら、きっと親友というレベルまでにしか考えねぇんだろうな。
軽くにしか考えて生きてるアイツが逆に羨ましくも思える。

オレは毎年、落ち込んだ気分でこの日を迎える。

「獄寺君、これ受け取って。」
「・・・。」
案の定。毎年の事だ。学校へ行こうとするが、通学路を阻まれる。通学路などの情報網は女子全体に広まっていると言っても過言ではなさそうだ。十代目の家に着くまでに一体何人からチョコレートを受け取ってくれとせがまれたものか。オレはその度断ったが、そのせいで学校へ行く前から疲れてしまった。
「獄寺・・・。ちょ、手伝ってくんねぇ?」
家の近くの十字路を通過しようとしたら、いつもは前にコケてしまうほどの勢いで山本が来るのだが、朝の状況は山本も似たようなものだったらしい。既に両手一杯の紙袋を持ち、オレに手伝いを頼んだ。
オレはその光景が腹立たしくてどうしようもなかった。
「知らねぇよ。テメェが貰ったモンだろ。テメェで持ってろよ。」
「ひでーのな。この中に何個か獄寺のもあるのに。」
「それだけ出せ。」
「無理だって。何個か持ってくれたら探すぜ?」
何でオレの分まで預かったのかも疑問だった。だが、自分の荷物を山本に持たせてるわけにもいかず、オレは渋々山本の手伝いをする。
隙間からカラフルな手紙やリボンが見える。どれだけ手を込めて作ったのかが分かる。少し作った奴らに同情してしまう気もしたが、要らねぇもんは要らねぇんだ。
とりあえずとは言ったものの、オレの分も3分の1はあり、オレの片手も塞がってしまった。山本はさすがに減って、少なくなっていた。
オレはそのままスタスタと十代目の家へ向かって行った。山本はその姿を見て「待てよ獄寺ぁ」とだらけた声を出し、追いかけてきた。
大事そうに持たれたチョコレートに嫉妬した心の中には2月の冷たい風が刺さりこんできた。
十代目の家に着き、インターホンを押そうと手を伸ばしたが、チョコレートがバランスを崩し一緒にオレの身体もバランスを崩した。
そしてオレの片足が地面から離れ、コンクリートの地面に顔が近付いてきた。オレは咄嗟に目を瞑った。
でも、その直後に痛みは無く、チョコレートもかばう気はなかったが、無事なようだ。
その代わりに鳩尾あたりに違和感を感じた。
「ふぅ・・・。大丈夫か獄寺?」
よく見れば、山本が必死に庇っていた様子で、少し眉間に皺を寄せ、踏ん張ってるのが見えた。
オレの中に、恥ずかしさと嬉しさがこみ上げてきて、小さい声で「さんきゅー」と呟いた。きっと聞こえてなかったのだろう。山本は何も返さずに十代目の家のインターホンを押した。
数秒経ち、十代目が出てきた。挨拶を交わした直後に「うわ、2人ともすごい量だね。」と仰った。
「なんかなー。もう重たくてさ。」
「大丈夫ですよ、十代目。学校できっと十代目のこと待ってるんスよ。行きましょう。」
オレは咄嗟に言った。十代目は「そんなことはないよ」と謙遜な態度をとっていらっしゃったが、オレの本心である。十代目程の魅力がある方にあげないとはどれだけ肝の小せぇ女だ!!
そろそろ片手で持つのも限界になってきて、オレはもう片方の手で支える。もう視界の半分を包装で狭められてしまった。
山本の方を見ると、長い腕が可愛らしい包装を包みこんでいて、それでも視界は遮られていなくて、少しムカついた。
学校に着いてもチョコを貰う勢いは衰えるどころかますます勢力を増していった。
オレは断りたかったのだが「受け取って!」とだけ言い、朝もらった箱の上に乗せていく。断る暇なんて無かった。バランスをとるのに必死でそれどころじゃ無かった。
バランスを取ったとしても、もう歩ける状態ではなかった。視界の8割以上を邪魔され、階段も花瓶も見えなかった。山本の様子も見えなかった。
なんとか教室へ行き、机を見ればチョコレートの山。オレはもううんざりした。
でも教室に入れば入ったでこれを受け取れだのなんだのうるさくて仕方がなかった。
それは山本も同じみたいで、大変そうな声が聞こえる。オレはその声にも、女子どもの声にも腹が立ち机に荷物を置くと、全力疾走で屋上へ駆け上がった。
でもいつ入れられたか分からないチョコレートがポケットに入っていて、もう服が破けそうだった。
オレは仕方なくそのチョコレートだけ食べた。疲れて腹も減ってたし、丁度いいと思った。
「甘ぇ・・・。」
そのチョコレートは板チョコよりも甘く、気持ち悪かった。これを腹いっぱい食おうって方が間違ってる。
オレはもう寝ることにした。横になり、朝方の冷たい風にさらされたコンクリートに頭をつける。それは氷になってるんじゃないかってくらい冷たかった。
だけどその冷たさも段々心地よくなってきた頃、屋上に誰かが上ってきたのが分かった。
「おっ。やっぱり居た。獄寺も逃げてきたのか?」
その声の正体は山本だった。喜んでいいのか怒鳴った方がいいのか分からなくてとりあえず「あぁ」と答えた。
「そっか〜。やっぱ困るよなあれ。どう処分しよう。なぁ獄寺今日2人であれ食べねぇ?」
「ンなもんアホ牛にでもくれてやったら喜んで食うと思うけどな。」
「なるほど〜。でもさすがにあの2人分の量はキツイだろ。だから、半分はあげて、半分は食おうぜ?」
「オレはもううんざりだ。」
オレは先刻食べたチョコの残骸を見せる。「これでもう限界だ。」と言い、誘いを断った。
「頑張って食おうぜ?じゃあ、獄寺の家に部活終わってから行くな。」
「てめぇ何勝手に決めてんだ!!」
「いいじゃん。」
「よくねぇ!!!」
ちょっと口喧嘩をしたつもりだったが、下から女子どもの声が聞こえてきて、オレは咄嗟に口を塞ぐ。
ドアを開け、ひとどおり見まわしたようだったが、オレたちは貯水槽の裏に隠れていたため気付かれなかった。
多くの人の足音が聞こえなくなった頃、オレは安心したようにふぅっと息を吐いた。
そしてふと山本と目が合い、それの何がおかしかったのか2人同時に吹き出し大笑いした。
笑いすぎて腹が痛ぇと2人で言い合った。
その笑い声をかき消すようにチャイムが鳴った。「もう帰らなきゃな」と山本は言い、ドアに向かって歩いて行った。
オレはまたあの嵐のような時間だと思うと身体が動かなかった。でも十代目もいらっしゃるし、まして山本も居るのにサボってなんかいられないと思い、動かない身体を無理矢理動かして山本を追いかけた。

昼になり、オレと山本はチョコレートの消化活動を始めた。教室から1人10個持ってきては、甘ぇ、甘ぇと言いながら昼休み中ずっと齧りついてた。
「本当にすごい量だね。これでまだ6分の1なんでしょ?」
「う〜ん。そうなんだよなぁ。なかなか減らなくてよ。食いもんくれるのは嬉しいんだけどな。」
「獄寺君もやっぱりモテるんだね。オレなんか獄寺君たちの10分の1くらいだよ。」
「いえいえ・・・そんなこと・・・ないッスよ。放課後渡そうと・・・見計らってるんスよ・・・きっと・・・。」
「ちょ、獄寺君?!大丈夫?!!!」
「御心配には・・・及びませんよ・・・十代目。」
「無理すんなよ獄寺。チビたちにやればいいだろ?」
「・・・。」
オレはあまりに甘いものを食べすぎて、気持ち悪くなった。意識もあるんだか無いんだかよく分からなかった。
まぁ帰りにアホ牛どもにやるから減って丁度いいんだが。それでもまだ数十個残る。そう思うと姉貴と同じくらい怖い存在だ。
それはチャイムが鳴ってもまだ残っていた。1個食うのに何分かかるんだと思った。
昼休みは1時間あるが、オレは弁当を買う暇がなかったので昼はすべてチョコレートで賄われた。空っぽの腹にたまるものはチョコのみだった。
結局、10個持って行ったが3個余ってしまった。
3人で「気持ち悪い」と言いながら階段を下りて行った。
オレは昼休みの風景が脳裏に蘇ってきた。他の知らない奴等からもらったチョコを大事そうに食べる山本が居た。気持ち悪くて話した事は憶えていないが、その風景だけはハッキリと目に焼き付けられてた。
オレはそれに対してムカついた訳でも、嫉妬した訳でもなかった。ただ羨ましいと思った。
あんなに大事にされてることが・・・。

放課後、白く冷たい雪が頬にあたる。
オレは十代目と一緒に帰った。もちろん、アホ牛どもにチョコをあげるためでもある。
オレは十代目と別れる間際、アホ牛に20個ほどチョコをやった。アホ牛は喜んでいたのでとりあえず安心した。断られたら最悪だったからだ。(まぁそれでも無理矢理押しつけるつもりだったが。)
家に帰り、とりあえず寝た。疲れて仕方がなかった。
もう一瞬で深い眠りに墜ちた。
次に起きたのは、6時近くだった。
山本が訪れた事を知らせるインターホンで目が覚めた。
気持ち悪さに耐えながら玄関まで歩いて行くと、オレの気分とは裏腹の爽やかな笑顔で山本が立っていた。
「よぉ、獄寺。来たぜ、食べよ?」
山本が差し出すチョコレートを見るなりオレを極度の脱力感が襲った。
そんな気持ちをよそに山本は、獄寺?と顔を覗き込んでくる。自分の顔が、ほのかに顔が赤くなっていくのが分かった。オレはそんな顔を見られたくなかったので、慌てて顔を上げ部屋へ歩いて行った。
山本は一言「おじゃまします」と言ってオレの後をついてきた。
山本は部屋に着くなり机の前に座る。そしてオレはその山本の目の前に座る。
しかし山本は一向にチョコレートに手をつける気配を見せない。ただ雑談を交わしてるだけだ。
オレは話の節目に「てめぇ本分忘れちゃいねぇだろうな。」と言ってやった。
すると山本は一瞬動きが止まった。そして「そうだな」と言い、チョコレートの山を机の上に置いた。オレはそれに合わせるようにチョコレートを机の上に置いた。それから2人で黙々とチョコレートを食べ始めた。

「甘ぇ・・・。」
その30分後オレらはこの言葉しか発しなくなった。
気持ち悪くなり、一旦休憩をしても出てくる言葉は「甘ぇ」の一言だけ。別に会話したいとかそんなんではないが、少しさびしいような感じもした。
ゴールデンタイムにはまだ早く、テレビをつけても何もなかった。
オレはチョコレートの消化を再開した。山本のバテている姿を見て、可哀想などと思ってしまった。
同時にやはり女子どもが恨めしく思えた。嫉妬心で泣きそうになった。
その怒りと悲しみをぶつけるかのようにオレはチョコレートを食べた。
山本も漸く起き、またチョコレートを食べ始めた。
「獄寺気合い入ってんなぁ・・・。」
そんな呑気なことをいいながら山本はチョコを食べていく。
オレは気合いだとかそんなレベルじゃなく、ただ早くこの場から離れたかったのだ。
山本に大事に抱えられた包装紙、添えられていた手紙、いかにも愛情のこもった手作りチョコ。その全てが恨めしく、腹が立ち、仕方がなかった。
「―――――」
「え・・・?」
「ん?わり。なんでもねぇ」
山本は、多分何も考えずに言ったのだろう。とても小さな声だったが、この静寂した空間には広く響き渡ったような感じがした。

『彼女ができたら、こんなことしなくてもいいのかな。』

衝撃的な一言にオレは驚くしかなかった。
オレは最初、軽くにしか捉えてなかったが時間が経つにつれ、段々と意味を深く考えるようになった。
つまり一人の女からしかチョコを貰えなくなれば、こんなことせずに済む。とでも思ったのだろう。
オレは今度は怒りでも嫉妬でもない、ただ悲しみで胸が溢れた。
もうオレに・・・
途中まで考えていたが、涙が零れそうになったので考えるのを止めた。ここで泣いちゃいけない。

それからオレは嫉妬と、悲しみと、気持ち悪さと格闘しながら夜の10時を迎えた。
2人でやっと食べ終わった。意味のわからない感動が込み上げた。
何とも言えない嬉しさと、気持ち悪さで一杯だった。
「なあ、獄寺。今日泊まっていい?」
「・・・まぁ仕方ねぇな。」
「ほんと?!!やったー!」
本当は泊まられたりしたら心臓がヤバいのだがけれど時間も時間だ。オレは渋々山本の要求を受け入れた。
疲れもあり、眠気がオレを襲った。
オレは歯を磨き、そのままベッドに座り込んだ。
山本も便所から戻ってきて、オレの横に座った。
「先に寝てろ。」
オレはそう言い残し、スウェットに着替えるため部屋を移動した。
別の部屋でオレは1人で顔を火照らせていた。
でも何か気持ち悪さを憶え、止めた。
オレは手早く着替え、部屋に戻った。
電気を消し、手探りで布団を探す。
山本はもう寝ているようで、静かな寝息が聞こえた。オレはその横に寝転がった。
やはりオレの心臓は高鳴り続けた。
でもオレはそれを落ち着け、夜中の1時頃漸く眠りに着いた。


目を覚ますと、辺りはかなり明るくなっていた。
壁掛け時計に目をやると、朝の10時頃だった。今日は幸い休日でのんびりできた。
山本と一緒に遅刻してたんじゃたまんねぇからな。

山本と・・・?

オレは昨日山本が泊まったことを思い出した。そして、背中越しに山本が居ると考えると、段々胸が苦しくなってきた。
オレは山本が起きないように、寝がえりを打った。180度向きを変えたので、山本の顔が目の前に来た。
顔が真っ赤になって行くのが自分でも分かった。
一瞬、気持ち悪ぃと思ったが、徐々にそんな気もしなくなっていった。
ん、と山本が唸った。
オレはヤバいと思い、咄嗟に寝た振りをする。
山本の身体が動き、山本の額がオレにぶつかった。
ぎゃー、と声をあげそうになったが必死に堪えた。
山本が時計を見て、ベッドから起き上がって行くのが分かった。
それから便所に行き、戻ってきた瞬間に起きた、ということにした。
「わり、起こしちまった?」
「いや・・・いい。」
「腹、減ってる?」
「気持ち悪ぃ。」
「アハハそっか。」
そう言えばそうだ。オレらはあの大量のチョコレートを平らげたんだ。
我ながら奇跡と思った瞬間でもあった。
山本は冷蔵庫を模索し、何かを作っていた。
段々と香りがこちらにも漂ってきた。多分野菜炒めだろう。それに・・・味噌汁?
どっちにせよ、あまりこってりしたものは作って居なさそうなので安心した。
「できだぜ!」
山本は明るい笑顔を向けてオレに言った。
ブランチなのな、と言いながらテーブルに運ばれていく料理をただ眺めていた。
そして準備が終わると山本が、食べようぜと促してくる。
特に腹は減っていなかったが、別にいいやと思い、2人で朝食を食べた。

山本は特に帰ろうという気配も見せず、そのまま会話をした。
丁度2時になった頃、段々昼間の暖かさに心地よさと眠気を感じたころ、山本は妙な事を尋ねた。
「なぁ、獄寺。獄寺って好きな人とかいんの?」
「は・・・?いねぇよ。そんなもん。」
「そうか・・・。」
「じゃあお前はいんのかよ?」
「う〜ん・・・微妙。」
「なんだそりゃ。」
「ハハハ。」
なぜ訊かれたのか分からない。そしてなぜ訊き返したのかも分からない。
でも、微妙という言葉に疑問を感じた。
深く考えるほど脳みそが冴えて居なかったので、考えるのを止めた。
そしてあまりにも眠かったため、オレは浅い眠りに着いた。

「―――――寺、獄寺。」
「ん。」
4時頃、山本はオレを起こした。
そしてもう帰ると言った。
オレは鍵を閉めるために玄関へ同行した。
山本はじゃあな、と言い、オレに背を向けた。
オレは何を思ったか、気付けば山本の服の裾をしっかりと握っていた。
「ご、ごくでら?」
オレはハッとして咄嗟に「ゴミ。」と誤魔化した。でも顔は正直なようで、赤くなっていくのを感じた。
「そ・・・っか。じゃあな。」
「おう。」
そう言い、山本は帰った。オレは鍵を閉め、部屋に戻った。
思い返せば、何であんなことをしたのか未だに分からない。
でも多分、どこか行ってほしくないという気持ちがあの行動になったのだろう。
必死になってバカみてぇだ・・・。
オレはなにか胸が締め付けられるような感覚と、顔が赤くなる感覚を憶え、身体を丸めた。
オレは・・・山本を好きすぎた。バカなんだ・・・。オレは。
一生叶わないと、分かってるのに・・・。




初めて二人視点を書いたものでした。
まぁ結論から言って、両片思いなんです。
二人ともなんだかんだで鈍感なんです。


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