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破顔は2人の為
大好きだよ…
2人とも。


何にも変えられない。
失いたくなんかない。


戦などなくなればいい――−…







私の誰にも見せない

秘めたる、想い。





【破顔は2人の為】





先日の梅雨の長雨…そのせいで私は体調を崩して寝込んでしまった。

今は自室の布団の中で、その隣には知盛が寝転がっていた。


「貰うぜ..」


そう言って知盛が手を伸ばした先には、先程見舞いに来た将臣が置いていってくれたもので、***の大好物だった。

別に好物が取られる…と云うことが嫌と云うわけではなく、***は条件反射で声を出してしまう。


「あ、知盛!」

「なんだ?」


当然の如く、伸ばした手を途中で止めて知盛は聞く。

視線が痛くてふっと目を逸らす…


「ううん。何でもないよ。」


そう返したものの、納得のいかない知盛は、伸ばしていた手を***の手に重ねて、無言でこちらを向けと指示をする。

指先から伝わる知盛の体温が、なんだか恥かしくて、顏も見ることが出来ない***は躊躇うが…


もう片方の手が伸びてきて顎を捕らえた。


「***...。」


名前を呼ばれると、熱のある時とは違うゾクリと云う感覚が走る。


「〜っ!」


***が赤くなり、満足そうな顔を浮かべる知盛であったが、次には不機嫌になってしまった。

そして顎を捕らえていた手を離し、すっと***の横にあるものを掴む。



何事も無かったのかのように…




少しして、廊下から足音が微かに聞こえた。


襖を開けて入ってきたのは将臣。



「***、具合はどうだ?」

「平気だよ…」


***が苦笑して答えると、将臣は一瞬不安げな顔つきになった。


彼女の心境としては先程の知盛の行為に動揺しているからなのだが…


「そっか..ならいい。って知盛!それ***にやったやつだろうが!」


将臣が指摘するも、黙々と食べている知盛。

目線だけはこちらを向いていて、将臣を見たあとに***に視線を移す。


「あ、えっと..あげたの。」


将臣の心遣いを重々承知していた***は、少々の罪悪感に駆られる…

俯きながら答える***に将臣は疑問を抱きつつも、続ける。


「お前、スモモ大好物だって言ってなかったか?」

「ま、将臣っ!!」


聞いた知盛はスモモを食べるのをやめ、問う。


「..何故それを言わない...」


「えと..最近食欲なくて...ごめんね、将臣?」


気まずそうにチラリと将臣を覗き見ると、『仕方ねぇなぁ』って言う目で微笑んだ。


「はー別にいいって。けどな、飯食わねぇから食べやすいように果物にしたんだぜ?」

「うーだってね、知盛もスモモ好きなの・・・!」


照れながら答える***に対して、複雑な感情が将臣の気持ちを支配する…


「そうきたか..」


声のトーンがいつもより低くなってしまった将臣に、危機感を覚えて顔を覗き込む。


「ま、将臣..怒った?」

「..別に。」


見れば、切なげに遠くを見ているようだった…

居た堪れなくなった***は、横で寝転がりながら見ている知盛へ向き、おもむろに手を伸ばして将臣の手に乗せる。



「えーと..はい!」


渡したそれは桃色と言うには渋めの色をしたスモモだった。

スモモを受け取る将臣だったが、***の意図が全くと言って良いほど分からず、疑問符を浮かべた。


「***?」

「将臣も好き...なんでしょ?」


赤くなりながら上目遣いで尋ねると…


「はぁっ!?」


何故だか将臣は大声を出した。

その理由が見えなくて、***は首を傾げながら言う。




「..スモモが。」


と、***の口から発せられた途端、将臣はガクーっと頭を垂れ一瞬頭が真っ白になってしまった。

それに追い討ちをかけるかのように、今まで黙っていた知盛が肩に手を置き言った。



「クッ..だそうだ。」


笑いながら…




それから数分後。

復活した将臣はおもいっきり顔を近づけて***に問うた。



「なぁ、ぶっちゃけどっちが好きな訳?」

「ぶっちゃけって何?」

「それはどうでもいい!」



疑問を簡単に流され、不服そうに口を尖らせる***だが、これ以上怒鳴られるのは嫌なので、きちんと答えることにする。




「......将臣。」

「「本当か!?」」



そう答えるや否や、知盛をも思いっきり顔を近づけて驚くものだから、***は訳がわからず、引いた。

すると、背にした襖がカタンと言う小さな音を立てた。



「え、だっていくらスモモが好きでも将臣には代えられないよ。」


それを聞いて、またもや放心状態になる将臣と、


「......。」


面白そうに笑う知盛。


「クックッ..」


そして、そんな2人の様子を不思議そうに窺う***。

「2人共どうしたの?」

「あのな、***..俺とスモモを比べてどうする!」


「...じゃぁ何と比べるの?」


本当に分からないのか***はキョトンとし、将臣は深い溜息を吐いて…

***の天然さ(といいますか、鈍感さ)にガシガシと頭を掻き、苦笑する。


「あー言わせんなよなぁ..俺と知盛。」


言われて驚いたあと、首が痛くなるほど曲げて、悩んだ末に…




「..........どっちも好き。」


と云う答えにたどり着いた。


しかしながら、その答えがこの2人に通用するはずもなく、睨まれた。


「どちらか選べ..」

「だ、だって2人共好きだもん!こうしてお見舞いに来てくれるのも嬉しいし..」


最初は焦っていた***が、段々話しているうちにほや〜と幸せそうな笑みを浮かべるものだから、将臣も知盛も見惚れてしまう。


「「......。」」



沈黙が怖いのと、まだ睨まれているような気がしてならない***は、話題を逸らそうとまたまたスモモを手渡した。


「えーと..スモモもおいしいよ?」


それを2人は大人しく受け取り、失笑する。



「はぁーま、いいか。」


将臣は腕を頭の後ろに置き、木板の天井を眺める。

心なしか顔はほころんでいるようである…

そんな様子の将臣に、ホッと胸を撫で下ろす***。


のもつかの間、隙を見て***に近付く知盛。


「...口を開けろ。」

「こう?」


指示された通りに***は口を開けて、知盛が向いたスモモを頬張る。

頬を染めながらも、おいしいと大人しく食べる***と知盛に理不尽さを感じた将臣は…



「やっぱり良くねぇ!!!」




立ち上がり、一門中に響き渡るかと思われる声で叫んだ。


キッと睨みつける将臣に対し、知盛はいたって冷静に見据えると…


「有川..男の嫉妬は関心しないぜ...?」


と、スモモを食べさせた右手の指を勝ち誇ったように嘗めた。



2人が睨み合いを始めてしまった横で、***はどうしたら良いのか分からず、オロオロと見つめる他無かった。

将臣は先程の知盛の行為がどうも間接キスみたいでイラつくのか、憤怒の形相だ。


それに『嫉妬』…

言われずとも分かっていたことを、わざわざ言われたくなかった将臣には相当のダメージ。


知盛は測って言ったようだが…



「お前にだけは言われたかねぇよ!!」


そう言って知盛の胸倉に掴みかかる将臣。

対する知盛もやる気なようで…



「け、喧嘩はしないで!」


自然と***の口からはそう出ていた。



「「悪い..」」


いつの間にか涙ぐむ***を見て、不安にさせてしまった事に気が付いた2人は詫び、やめる。

***は安心した表情を見せるが、直ぐに困ったような、悲しい表情になる…



「ごめんなさい..」

「どう、した…?」


「だって2人が喧嘩するの..私のせいでしょ?」


ポツリと搾り出すように呟く。

それを聞いてフッと笑うと、将臣はわしゃわしゃと頭を撫でた。


「ばーか、んなこと俺らが勝手にやってるんだ。***が気にする事じゃねぇよ。」

「確かに..な。」



知盛も目で語ってくれる。



幸せ…





2人が好きで

何ものにも替え難くて

決して失いたくはない――…




それでも選ぶ事なんて出来なくて

ずっと一緒に居たいの。



…なんて言ったら

やっぱり2人を困らせてしまうかな。






そんな思いを抱きながら***は笑いながら礼を言う。


「..ありがとう。」



そのキレイナ表情は…



<破顔>








END


-おまけ-

「「だけど早く決めろよな/だが早く決めろ」」

***の気持ちなど、知るハズも無い2人はハモリを利かせ、目で攻める。

そんな態度の前で否定できる訳も無くて

「はぃι」

と***は返事せざるを得なかった。



そして翌日、安静にしていなかった***の熱が上がってしまった事も、病人のしかも女の子の部屋に入り浸っていた事がバレて(将臣の叫びから)尼御前と清盛から叱咤を受けたことは言うまでもない…


2006/08



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