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一緒に
触れたいのに
触れられない
もどかしい...
気持ちだけがただ焦る
お前が何処かに行ってしまうんじゃないかって
二度と手の届かないところへと
俺をおいて





【一緒に】







月が天の頂点で輝きだした頃。

望美は縁側で杯を片手に月を眺めている少年を見つけた。
その姿がどこと無く淋しそうで、泣いているような気がして、声を掛ずにはいられなかった。


「ヒノエ君どうしたの?」

そう言うと数秒遅れて振り返り、苦笑した。

「姫君..?あぁ少し考え事。」

何でもないよと言い月に視線を戻す...
でも、いつものように余裕のある笑みではなく、無理して笑ってるよう...
あるいは気分が優れないのだろう...

そんな感じだった。


「でも顔色悪いよ?弁慶さんに診て貰う?」

「いや、いい...俺は姫君が居てくれればそれで。」


弱々しくはにかむ顔...
いつものヒノエ君じゃない。だってこんなに弱気なんて今迄に無かった。

第一、弁慶さんの名前が出てきても顔色一つ変えないなんて...
絶対におかしい。

それでも無理に聞き出すなんて出来ないから。
私は普段通りに二つ返事で返した。


「ヒノエ君。冗談ばっかり言って..」

皆まで言わない内に、ヒノエ君に腕を掴まれて壁に押さえ付けられた。
不意に顔が近付いたと思ったら、甘く囁かれ、耳を甘噛みされた。
ひゃっと声を小さく上げれば意地悪に笑む顔。

妖艶でぞくっとした。



「冗談に聞こえるの?俺は何時でも本気だよ。お前しか見えないんだからさ。」

「〜っ//」


私はその行為に真っ赤になってしまう。
それと同時にいつもは強引にはしないはずのヒノエ君に驚きと不安を覚えた。
私の心の動きを察してか、切なそうに見つめてくる赤い瞳。

ふと、腕に力がこもる。

まるで置いて行かないで、嫌いにならないでと言っているかのように...

向けられた瞳が揺れる。



***



こんなことを言うのはずるいって解ってるんだ。
だって姫君は絶対に嫌いだなんて言えない女だから...
でも解って?
不安なんだ。
お前は優しいから、こんな俺にいつか愛想を尽かしてどこかに行ってしまうんじゃないかって...
だから確かめたいんだ。
俺の本気がどこまで伝わるのか、
お前がどう想っているのかを。


「そ、そんな事ないよ。」


俺を気遣い、焦って言葉を返す、その姿に心が痛んだ。
俺が言わせているに等しいのに...


「じゃぁ俺の女になりなよ。」

「え...あの、ヒノエ君//」


もう一度囁けば、顔を朱に染めて俯くお前。
可愛い顔を見たくて手を頬に伸ばした時...



「ヒノエ。少々強情じゃありませんか?」


背後から降り注ぐよく知った声。


「弁慶さん!?」

「アンタか...何?邪魔する気?」


弁慶さんはヒノエ君を見て溜息を突くと、やんわりと優しい目で私を見遣った。
ヒノエを任せても良いですか?
そんな風に問い掛けているみたいに...

私はゆっくりと頷いた。


「望美さんを離してあげなさい。それでは話もまともに出来無いでしょう。」

「−−っ!行こうか、望美。」


そう言って逃げるようにその場を後にした。

アイツに言われて初めて気が付いた..余裕が無くなっていたんだ。
望美の気持ちを考えずに、俺の想いを押し付けていたんだと。


結局は自分..か...



「あの...ヒノエ君。」

「なんだい?」

「何かあったの?...元気無いみたいだから..私に言える事だったら言ってね。聞くだけなら出来るから。」


刹那、ヒノエは目を見開いて俯いた。
そして、震える声で言葉を紡ぐ。


「.....だ。」

「え...?」

「馬鹿だね俺は。」

「お前を手に入れたい、俺のモノにしたいって思ってたんだ。」

「.....」


自嘲の如く呟いて
ぎゅ、
と拳を強く握る。
爪が食い込んで、白い手に赤い線が走った。


「こんなに近くに居て、俺を気に掛けてくれてたのに..」


ふわり、
暖かい手が触れた。
そしてゆっくりと握られた拳を解く。


「それはヒノエ君も同じだよ。私が退屈しないようにいろんな所に連れ出してくれたし、戦いの時も気遣ってくれてたもの。」


撫でるような優しい澄んだ声。
労るように触れる指先。


「違うよ..俺はそんなに綺麗な理由じゃない。ただ姫君に一番近い存在になりたかったんだ...他の誰よりも。」


お前の全てがどうしようもなく愛おしいんだ。


「えぇと、それは...?」

「そうだね、嫉妬かな。」

「ごめんね。」

「何がだい?」

「いつも冗談だなんて言って...」

「なんでお前が謝るんだよ。それにアイツに言われたんだ...姫君は言葉尽くしの回りくどいのじゃ絶対に解らないってさ。」

「それって弁慶さん?」

「あぁ」

「...私が鈍感だって言う事?」

「そうじゃない?」

「そんなことないよ!」


声を張り上げて抗議する姿だって愛おしい。
どうやら俺は、相当望美に酔っているみたいだ。


「ふふ、やっぱり可愛いね。俺の姫君は」

「〜//じゃぁヒノエ君も鈍感だよ?」

「え?」

「私は..ヒノエ君の事が好き...なの//だけど全然気付いてくれなくて」

「嘘、だろ...」


お前の言葉が嬉しすぎて、自分の耳が信じられなくて何度も何度も聞き返した。
だって望美はアイツの事が好きなんだと、ずっと思ってたから...
俄かに俺を選んでくれるなんて想像もしてなかった


...と云うのは黙っておこうかな。





最後に抱きしめ直し、本気?と聞けば


「嘘じゃないよ。だからね、ずっと一緒に居る...ヒノエ君の傍に。」



約束と微笑むお前はとても綺麗で...

約束の意味も込めて、甘い口付けを贈った。




やっと触れられた
やっと通じ合えた
お前の温もりは優しく暖かで
淡い朱に染めながら微笑む仕草が愛おしくて
俺の焦りと不安をやんわりと解かしていく...


愛してるよ、望美。

だから遠くに行かないで?
俺を置いて行かないで?
もしお前が何処かに行くのなら

俺も一緒に連れてって。





END

2006.3




あきゅろす。
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