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十六夜月
十五夜から1つ欠けた
月を眺めた…

お前は今でも呼ぶのだろうか…?
『十六夜の君』と







十六夜月







「重衡…」


月灯りがやけに眩しく
眠るのには鬱陶しかった。

こんな日は夢見が悪い。
目を閉じることなど出来ない・・・


……襖に映る影がある。


「重衡、居るのか?」


問い掛ければ、数秒待って返される。


「あ!兄上。如何為さいました?」


はにかむお前に
俺はやりきれない気分となる…


お前が…


「…退屈だ…月見酒とでもいこうか。」

「ふふっお付き合いいたします。」


辛かろうと笑うから


「……おい。」

「何でしょう?」


『お前は今でも呼ぶのか?』

自分が傷ついても


「兄上…?」


『1度会ったきりの女を…好きに、なれるものなのか?』

俺にはそんな気持ちは到底理解出来ない。
また逢うことが叶う保証などありはしないのなら…


「兄上っ!」


はっとした。
お前の声は喩え怒声でも心地が良い。

俺に似て非なる者。


「……悪い…今夜は十六夜か。」

「そう…ですね。」


調子が下がった重衡を横目で眺めた。

重々しい秋風が、頬を冷たく吹き過ぎる。


「お前は…いつもそうだな。」

「え…?」


俺が何を言わんとしているのか、それの分からぬ重衡は目を丸くする。

俺が傷ついてもお前は…
傷つけたくは無い。

そう思うのはお門違い…か。


ふと、漆黒の空に浮かぶ月へと視線をあげる。
白い閃光を放つ大きな月を疎ましいと思いながら…


「月を眺めれば溜息を付く…待っているのだろう?」

「……十六夜の君…」


ぽつり、と呟いた。
悲しみの中に見える…愛おしいと思う感情。

ぎりり…音がした。


「…まぁいいさ。お前の好きにすればいい。」


悟られぬよう拳を隠し、杯を手に取ると…


「ありがとうございます。」


満面の笑み。


あんな月など
無くなれば良い…


***



戦で見つけた孟しい女…

『龍神の神子』


「…お前を、待っていた。」


双刀を抜くと、少し強張った顔が、全身の血を沸騰させる…


「あなたは…重、衡さん?」


思いも寄らない発言に、一瞬、身が制止したのが嫌に分かった。

六波羅で消えた…重衡を、何故…?


「…平知盛。」

「そう…違うものね。あなたは知盛、あの人じゃない。」


確かめるように言い聞かせるこの源氏の神子に、事実を聞かせるべきか、否か。

答えは…






「…妬けるな……構えろ」


促し、柄に手を掛けるのを確認した。


「十六夜…の月…夜の……」


抜刀前に読まれた詩の一片が聞こえる…

重衡と同じ眼…
月を眺めていた時と…同一。


「そうか、源氏の神子…お前が…」



『十六夜の君』




「面白い…来いよ。」


キィン
刃が交えた。

絡みつく
一太刀に
…お前の感じていた気持ちが解った。

初めて刀を交わしたというのに…




悪いな…重衡。

お前の焦がれた女は…
源氏の神子。


身を焼く程の焦がれ、生を感じさせる俺の唯一の…


「今夜は十六夜…か。」



揺らめく月と
焼けた匂いがした




END





あとがきとか
白兎主催の銀髪兄弟誕生日企画*銀色の宴*への展示作品として書いたモノ。
はいそこ、誕生日関係ないとか突っ込まない(笑)

狂うか狂わないかの微妙な兄弟愛を書きたくてこんな感じになりました。
知盛の性格上、何かに依存しなければ生きていけないっぽいので^^;


2006.9





あきゅろす。
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