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dream
これは、文化の違い? 歴史の違い?
「で、こっちはなに?」
数冊積み上げられた漫画が置いてある、漫画とは大きさも薄さも違うそれの端を摘みつつ、銀さんが死んだ魚のような双眸を私に向けた。
意識が吸い込まれそうな不思議な瞳。
私は、この目が何気に好きだった。
「それは教科書って言うんです。ええと、ここでは往来物って呼ばれるものと同じだと思います」
「マジで? ……紙綺麗だな」
そう言って、照明の光を浴びて鈍く光る表紙の表面を撫でる。
それは、なんだか懐かしさに浸るようにも見えた。
「銀ちゃん、私にも見せるネ!」
ぐいっ、と銀さんに体を寄せて教科書を覗き込む神楽ちゃん。
それに合わせて、新八もそっ、と銀さんとの距離を詰めた。
あっ、銀新……って、萌えてる場合じゃない。
そして、摘んでいた部分を捲り、銀さんは教科書を開いた。
しばらく眺める3人の中で、一番わかりやすい反応を見せたのは神楽ちゃん。
神楽ちゃんの表情は、どんどん不快の色に染まっていくのが目に見えてわかった。
そんな神楽ちゃんを見て、私が見せたかったページを開いたんだと悟った。
「なんか嫌な奴に似た名前見ちゃったアル……」
すっかり歪んだ顔を上向かせて、神楽ちゃんは溜め息を吐いた。その声はいつもより低く、疲れているようだった。

ーーそんなに総悟様のこと嫌いなのかな。

3人が見ているのは歴史の教科書。
私が見せたかったのは、もちろん、新選組や江戸幕府について書かれたページである。
「し、新選組……? 真選組とは違うんですか?」
「新八、よく見ろ。ゴリラとか多串くんとか沖田くんとかの名前、ちょっとずつ違ぇぞ」
「あ、本当だ……」
写真や文を指差しながら、自分たちの世界とは違うところを見つけていく銀さんと新八。
あ、う……2人とも体くっつき過ぎじゃない?萌えちゃうよ、目逸らせないよ、話に集中できないよ……!
つい興奮してしまう、腐女子の悲しい性。
頬に手を当て、微笑む。自嘲気味に。
「私の世界では、そうなんです」
「驚いたな……で、俺に似た奴はどこ見れば載ってんの?」
「……い、いなくはないんですけど……そこには、載ってないです」
もっと見ていたい光景から目を逸らし、気まずい事実を告げる。
視界の端にちらつく銀さんが勢いよく立ち上がり、絶叫した。
「なにィー!?俺ー!俺の存在は歴史的に抹殺されてんのか!?俺の存在意義はないっていうのか!?これからなにを希望に生きていけばいいってんだァ!?」
「銀さんうるさいです」
な、なにが銀さんを絶望に浸らせたというのだろう。坂田金時と坂田銀時は違う人間なのに。
「あ、はは……あまり歴史的に重要視されない人なので、普通教育には入れられてないんですよ」
「なんだそりゃ。そんなこというぐれェならいっそのこと教育なんざやめちまえばいいんだ。他人の過去なんか知ってどうするってんだ。いいか、道は自分で決めるもんだ。他人に左右されてちゃ意味がねェよ」
「銀さんはほかの世界に左右されてるじゃないですか」
それとこれとは話が別でね? と、矛盾に対して言い訳を並べ立てようと口を動かす銀さんを、新八は横目で眺めた。その瞳には、呆れの色。
私は頬に汗を滲ませながら、もう一度苦笑した。
と、そこで、神楽ちゃんが目の前にいないことに気づいた。
どこに行ったんだろう?
ーーん? なんだか隣からがさごそと音がする。
嫌な予感が全身を駆け巡って、脳が指令を出す。横を見ろ、と。
そして脳からの指令で横を見た私は、ぎょっとした。
「わー、たくさん入ってるネ、銀魂」
「きゃああああああ! かか、神楽ちゃんなにしてるの!? やめてええええ!」

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