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dream
万事屋との出逢い
真ん中に長方形のテーブルが置かれ、それを挟み、向かい合ってソファーが置かれていた。
その向こうには、学校の集会とかでステージの真ん中に置かれるアレに似た机が置かれている。
それとセットであると思しき椅子は、椅子を仕舞うための机の穴から離れたところにあり、乱雑に立ったり座ったりする様子が窺えた。
銀さんが自分の想像通りの人物であることに安心感を持ち、同時に頼りなくも思った。
机の後ろの壁の天井に近いところで、太く活き活きとした大きな筆字で「糖分」と書かれた額が設えられている。
今更ながらに、なんてセンスだろうと苦笑しそうになった。
けれど、この部屋に充満する緊張感が苦笑することすら許してくれない。
今この部屋では、片方のソファーに銀さんを真ん中にして万事屋3人組が座り、もう片方のソファーに私が座っていた。
手のひらがどんどん汗ばんでいく。
湿っていてべたべたするし、寝起きだからきっと髪の毛ぼさぼさだしーー恥ずかしい!
どうしよう……!
私の中でトップ5入りするほどの憧れである人物、銀さんを目の前にしてこんな失態……。
ううう、恥ずかし過ぎて死にたい……。
目の前が、ほんの少しだけ霞んだ。
「新八ー、なに女の子泣かせてんのー。だからお前は新八なんだよ」
「なにそれ!新八関係なくない!?」
目ざとく私が泣いていることに気づいた銀さんが、新八をいじる。
アニメでよく見る光景が、今目の前で繰り広げられている。
嬉しくてたまらなかった。
夢じゃないかと疑い、さっきからもう17回も頬をつねっている。
何度も言おう。痛い。
夢じゃない、と、信じていいんだよね?
……また涙出てきた。拭わずにはいられないほど溢れてきたので、私は目を擦った。
「可愛いアルなー」
私をまじまじと見て、満面の笑みで神楽ちゃんが言う。
ーー可愛いのはあなたのほうです!
もともと神楽ちゃんが大好きな私は抱き着きたい衝動に駆られたが、自制する。
あ、神楽ちゃんだけじゃなく、銀魂キャラなら皆好きだよ?
「なんて名前アルか?」
「はわ……えっと、森 優衣、です……」
あっ、馬鹿じゃないの私!
これじゃあ第一印象最悪だよ!
心の中で「うわあああああ」と叫んだ。が、
「優衣アルか!名前まで可愛いアル!」
神楽ちゃんはそんなこと気にもしなかった。
「そ、そんなこと……神楽ちゃんのほうが可愛いです……っ」
さっきと同じことを思い、そして今回は声にも出した。
「おお、私可愛いアルか!?銀ちゃん、新八!やっと私の魅力がわかる人に出会えたネ!」
興奮して隣の銀さんをばしばし、と叩く神楽ちゃん。
い、痛そう。銀さん顔しかめてるし……。
「……優衣さん」
神楽ちゃんとのやり取りを見ていた新八が、静かな声で話しかけてきた。
「はっ、はい!」
「ああ、そんなに緊張しなくていいですよ。ただ……そろそろ教えてくれませんか?優衣さんがどこから来たのか、なぜ銀さ……こ、この家で寝ていたのか。あとは……なぜ僕たちの名前を知っているのか」
びくっ、と肩が跳ねる。
また冷や汗が肌に滲んできた。
どう説明すればいいのか、まだ上手くまとまっていない。
それなのに一気に質問をなげかけられたら、気が急って余計に平常心を失ってしまう。
「あー……優衣ちゃん、だっけ?」
「は、はい、そうです」
白くてくるくるな天然パーマの頭をかきながら、死んだ魚の目を私に向ける銀さん。
このときばかりは、緊張というよりも、名前を呼んでくれたことでどきっとした。

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あきゅろす。
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