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dream
慣れてしまった世界では
「またねー!」
名残惜しそうにいつまでも抱きついていた友達がやっと離れ、帰っていくのを手を振って見つめていた。
そして踵を返し、私は家へと向かう坂道を下り始めた。
見慣れた風景、住み慣れた町、私のふるさと……。
15年間生きていると、そろそろ嫌気がさしてくる。
3年前に建て替えられたという綺麗な校舎も、いまはもう慣れてしまって魅力が感じられない。
もっとなにか、刺激が欲しい。
私は最近、そう思うことが多くなっていた。
例えば、怪盗になって世間を騒がせたりとか、趣味でちょろっと書いた小説を投稿してみたら賞を取ってしまったりとか、ハマっている漫画やアニメの世界に行ったりとか……。
まあそんな非現実的なことが起こるわけないのは重々承知してまして。
けれどやっぱり想像は膨らむばかり。思春期の妄想力は凄いようです。
無駄なことだとわかっていて、私はいつも「もしも」の話を考えながら帰路を辿る。
そう、今日もそうだった。
「私が銀魂の世界に行ったら……」
思わず声に漏れてしまっていたが、構わず続ける。
今日は大好きな銀魂のことを考えていた。
銀魂とは1年前に出会い、惹かれ、今ではすっかり私の中で1番好きなアニメになっていた。
そして1番好きなキャラも、銀魂のキャラーー沖田総悟だった。
私は沖田総悟のことを、「総悟様」と呼ぶ。それは初めて見たときからずっとのことである。
総悟様には一目惚れをした。
アニメで総悟様が映った瞬間、ぽぽぽぽっ、と私の中で何かが急激に増幅した。
きっとそれは、恋心だったのだと思う。
それから総悟様なしでは生きられなくなり、1日に1度は総悟様を見ないと倒れてしまうほどになった。
異常なのだろう、と思う。
次元が違う相手を恋愛対象として好きになるなんて、自分でも頭がおかしいんじゃないかと思うほどだ。
前までは、しっかりと2次元と3次元は分けて考えていた。
しかし、総悟様に出会ってからはそうはいかず、いつしか総悟様に会いたいという気持ちが膨れ上がっていた。
そして、「もしも銀魂の世界に行ったら」という想像は、今日に限ったことではない。
結構な頻度で、考えている。
自己嫌悪で笑いがこみ上げた。
虚ろな瞳で雲の敷き詰められた空を見つめていると、不意に体ががくんと下へ下がった。
「え?」と呟く間もなく、私は坂を転がり落ちていった。
そして意識は、途中で消えた。

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あきゅろす。
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