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『涙の部屋』 骸綱



1月の中旬。

もう俺は我慢出来なかった。



変な家庭教師が来てからというもの、死にそうになった体験が幾つも出来た。

黒曜戦ー・・・・リング争奪戦ー・・・・ミルフィーオーレとの戦いー・・・・。

仲間を守る為に俺はずっと頑張ってきた。


でも、やっぱりマフィアになんかなりたくない!


そう思って今現在、俺は一人で部屋に引きこもっている。
誰も入って来れないように、自分の部屋に鍵を掛けて、ドアに背中を預けて座った。


外では母さん達が心配しているだろうし、恐ろしい家庭教師は俺を出そうと何かをしているに違いない。


こんな事しても意味が無いのは分かっている。
十年後の俺はボンゴレファミリーのボスになっていたから。

だけど、どうしてもマフィアにだけはなりたくないんだ。


だって・・・・・





だって、マフィアになんかなったら、きっと『アイツ』は俺のことをー・・・・・・・・・・


嫌いになってしまうから・・・・・



前から『アイツ』は俺を嫌っているのは知っていた。
いや、マフィアの次期ボス候補だから嫌われているのは当たり前かー・・・・・。

でも、
俺は『アイツ』に会った時、『助けてあげたい』って思った。誰よりも悲しい目をしていた『アイツ』をー・・・・・。



いつの間にか俺は泣いていた。止めようとしても止まらない。俺の目から涙がボロボロと落ちていく。

暗い部屋に俺の泣き声が静かに響いた。


「・・・ふっ、・・う、・・・む、くろぉ・・・・・」


『アイツ』の名前を声に出して呼ぶ。呼んだって来るはずがないのにー・・・・・。


そんな時、部屋の戸をノックする音が転がってきた。
・・・・誰だ、母さんか?



「・・・・ひっく・・だ・・誰だよ、・・・・うぅッ・・・・」


誰が来たのか確認したくて問い掛けてみたが、泣き声も共に混じる。

しかし、ノックした人は無言のままだ。


「・・・・も、う俺の事は・・・・うっ・・・・ほっとい、てくれ、よ・・・・ふっ、・・・・。」


きっと今の俺の顔は酷い事になっていると思う。こんな顔じゃあ誰にも会いたくない。
ひやかしなら、どっか行ってくれよ。





「・・・・貴方っていう人は全く情けない人ですね。」

「・・・・・・・・ッ!!??」


いきなりの事でビックリした。
ドアの向こうから聞こえてきた低いテノールの声。聞き覚えある声だ。

・・・・『アイツ』だ。
ドアの向こうには『アイツ』がいる。
じゃあノックをしたのは、まさかッ・・・・・!?

そう思ったら急に顔が熱くなる。・・・・恥ずかしい。


「・・・・なっ!・・・・何しに来たんだよ、骸!!・・お、・・俺をからかいにでも来たのかッ!!」


慌てて涙を拭いた。
でも後からまた雫が零れ落ちてくる。
あぁ・・・・ッ!!
もう、なんで出てくるの!?
俺は必死に涙を拭う。


「・・・・失礼ですね。僕は貴方に笑顔を持ってくるよう、呼ばれて来ました。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!」


それを聞いて、何故かドキッとした。急に胸が苦しくなる。

激しく鳴り続ける心臓を落ち着かせようとするが、どうも上手く出来ない。


「じょ・・・・冗談言うなッ!骸を呼んだ覚えはないんだからッ!だから部屋に入って来ちゃダメッ!!」


そうだ、今の俺は泣いている。それも大泣きだ。
前まではあんまり気にしなかったが、鬼の家庭教師が来てから、人前で泣くことが恥ずかしくなった。

ましてや『アイツ』に泣き顔を見られたくない。
格好悪いと思われるのがオチだ。

必死に『アイツ』を入れないように部屋の戸を押した。


「・・・・・俺の事なんて、かまわず消えてくれよ。・・・・そこに居られたら、・・・・・泣けないだろッ・・・・ッ!!」


自分は嘘を言っている。
本当は『消えてほしい』だなんて思っていない。
本当は傍にいて欲しい・・・。
傍にいるだけで良いから。

でも、それは俺の単なる我が儘だ。そんなことの為に『アイツ』を巻き込みたくはない。



ポタッと一滴、涙が床に落ちた。それに続いて後から後から零れ落ちていく銀の雫。
胸が苦しくて息がしずらい。

『アイツ』に会えないのが辛くて、でも会うのも辛くて。
俺の全身は矛盾と悲しみに包まれていくのが分かる。


(会いたくないけど、会いたいよ・・・・・、骸。)

涙を流しながら、そう思っていると戸の向こうから何やら嬉しそうな声が聞こえてきた。


「・・・・・嘘をつきましたね?」

「・・・・・えっ?」


少し驚いた。否、結構驚いた。何故俺が嘘をついていたのがバレたのか。

俺が驚きを隠せないで、唖然としていると優しい声がまた戸の向こうから聞こえた。


「先程、呼びましたよね?僕のこと。」


それを聞いてハッとした。
同時に顔が、みるみる熟した林檎のように赤くなっていくのが分かる。

まさか『コイツ』、俺が名前を声に出して言った時から此処にいたのかッ・・・・・!!


「・・・・・あ、あれはッ!!」


全身が熱くなる。
恥ずかしさに耐え切れず、俺は自分の頬に冷たくなっている手を当てて熱を冷まそうと必死になった。
だが、熱は一向に収まらない。
戸の向こうからは、クフフ・・・・と変な笑い声が聞こえてくる。

「だから言ったでしょう?『呼ばれて来ました』とね。では、・・・・・入らせて頂きますよ。」


意図も簡単に鍵が掛かっていた部屋の戸が開けられ、変わった髪型が見えて俺に近寄って来たと思うと、いきなり抱きしめられた。

それも壊れ物を扱うように優しく。

今の俺にとったら、この優しさは涙を誘うものでしかない。


「・・・うっ、・・む・・・・・く、ろ・・・・・ぅ・・くっ、・・・」


俺の目からは休むこと無く涙が落ち続ける。
俺は優しく抱きしめてくれる『アイツ』の胸に擦り寄って軽く『アイツ』の服を握った。

それに気づいたのか、『アイツ』は俺を優しく包み込むように抱きしめた。


この際、疲れるまで思う存分泣いてやろう。


俺の泣き声が部屋中に響き渡った。

『アイツ』は黙って俺を抱きしめていてくれた。



********
2に続きます。→





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