london life
第二話 ただいま憂鬱中
調子の悪い日はとことん悪い。
別に体調が悪いんじゃないんだ。
ただ、朝起きたら寝癖が何時にも増して酷かったり、お気に入りの帽子を被ろうとしたら見つからないし。
散らかった部屋の中を探す気力もなく近くにあった帽子を被り外に出てみるとざぁざぁと雨が降っているし。
はぁ、とため息をついても状況は変わるわけでもなく傘を取り出して外に出て今日の新聞に書かれていた頼まれ事を引き受けに街を歩きだし、歩いたら歩いたで靴が濡れ足が気持ち悪いし。
花を摘もうにもクキは折れるは蜂には刺され、釣りをしようにもずっとサカナモドキしか釣れないし。
タクシー運転手をしていたら何時も間違えるはずのない道を間違えたり、仕事をこなしても笑顔じゃないから給料は減る始末。
はぁ、今日何度目か分からないため息。
「…今日は調子が悪すぎる」
傘を片手に公園の前で呟いた。
「具合が悪いの?」
「?」
一人で呟いただけだったのに誰かに話かけられた。
振り返ると誰もいない。
しかし、下を見てみると何時もジャグリングを見せてねだってくる少女リリィがいた。
自分を見上げる瞳には心配というより疑問。
リリィはもう一度同じ質問をする。
具合が悪いの?と。
「うぅん。具合は悪くないよ。ただね…」
「ただ?」
「調子が悪いんだ」
「具合も調子も同じ意味だと思うんだけど」
少し眉を潜めた少女を私はただ苦笑するしかなかった。
「じゃあ、今日はジャグリング見せてくれないんだね」
「うん、ごめんね。今日はそういう気分じゃないんだ」
「つまんないのー」
今日は駄目たんだ。
今日はとことん調子が悪い。
朝起きたら寝癖が酷いし、お気に入りの帽子も見つからない。
外に出たら雨が降って靴の中もびしょびしょだ。
花を摘もうとしたら蜂にさされ、釣りをしても収穫は無しに近い。
仕事をしても道には間違え、給料も減らされる始末。
そろそろ、ため息ばかり出る自分に嫌気がさす。
リリィは少し考えるそぶりを見せてから私の袖をくいくいと引っ張った。
しゃがんでちょうだいとお願いしているのだと理解して私は少女の目の高さに合わせた。
「じゃあ、ジャグリングは良いから一つお願いを聞いてくれる?」
にっこりと笑う少女に私はただきょとんとしているだけだった。
この子がジャグリング以外のお願いなんて珍しい。
「――て!」
「え…?」
ちょっと違う事を考えていたら聞きそびれてしまった。
少女は相変わらずにっこりと笑ったままもう一度願いを言う。
「だから、笑って!」
「笑う…?」
「そうよ。調子が悪いのなら笑うの。こういう風ににっこりとね」
少女は私の頬を軽く掴むと上に押し上げた。
「はひ?」
「むっつりしても何も良い事ないよ。にっこりしてたら少しは良い事あるから!」
ね?と私に満面の笑みをむけた少女は私の頬を離しそのまま去ってしまった。
多少の痛みを頬に感じながらぽつりと呟く。
「笑顔か…」
今日はとことん調子が悪い。
こういう日は、ため息が出るほど憂鬱な一日。
だから少女が言った。
笑って――
だから笑ってみた。
何時もの笑顔じゃないが笑ってみた。
少女の言う通り、何か良い事が起きそうな気がした。
「ムーニさん、ムーニさん」
「はい?」
振り返ると同じ建物に住んでいるリーサさん。
「お茶請けのクッキーを作ったから一緒にお茶でもどうかしら?」
にこにこ笑う彼女の所に良い事一つ。
END
20110313
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