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小説
月の陰〜第五話〜
〜光空の少年〜

何とか本の結界を解き、次の行動を起こそうとしていた徹達。
だが、その様子を遠くからキャップを被った少年が見ていた。
霖汢の家で起こった事、徹達の元へ送り込んだ男が消えた事、紗良が巫女の力を僅かながらも発揮した事・・・
全てを見ていたが、結果的に上手くいかず失敗に終わった事に少年はつまらなそうに口を尖らせていた。
自分ならもっと上手く出来たのに…そう思いながら。暫し、考えていると良い案が浮かんだのか被っていたキャップの鍔を持ち上げ、口の端を上げニヤリと笑い、その場から誰にも気付かれる事なく姿を消した。



霖汢に本の解読依頼をした後、徹と猛は学校へ向かっていた。
理由は至極簡単。
塒勾へ今回の報告をする為だ。
ほぼ所有物と化している理科室に着いた二人は何やら扉の隙間から怪しげな黒と紫が混ざった煙が漏れている事に気付く。
二人はゆっくりと顔を見合わせ、同時に頷いた後、そのままUターンし、一歩足を踏み出そうとした瞬間、ガラッっと音を立てながら扉が開き、煙の中から二本の腕が現れ、伸ばされた手が二人の襟を掴む。
二人は抵抗する間も振り向く間もなく、誰が見ても入りたいとは思えない理科室へと引きずり込まれてしまった。

引きずり込まれた二人は、もはや今居る場所が理科室だとは思えない程、煙が充満し、所々で何かが沸騰している音、煮え滾っている音、爆発している音・・・更には黒い影が目の前をシャッと通り過ぎていっている。

徹と猛は地獄にでも連れてこられたんじゃないかと思い始めていた。
そんな二人を余所にガスマスクを着けた塒勾が二人の前に現れる。

「ふふ、おっかえり〜。」
「ああ、ただいま・・・・じゃなくて!何でこんな事になってんだ?!」
「・・カオス・・・・」
「あー、これ?ちょっと、実験してたら、失敗しちゃったみたいでねー。収拾がつかなくなっちゃったから、一旦休憩してるんだよー。そんな時に二人が着たから、ちょっと巻き込んでみたんだよねー。」

ケラケラと笑っている目の前の男に呆れを通り越し、頭を抑える徹。
二人のやり取りをみていた猛は塒勾に先程から気になっていた事を質問する。

「ん・・・失敗したの・・分かったけど・・これ・・何もつけなくても・・大丈夫なのか・・・?」
「・・・塒勾?」

徹と猛の視線を受け、顎に手を当て、考える仕草をした後、ガスマスク越しに満面の笑みを浮かべながら、とんでもない事を言い出す。

「ん〜、たぶん大丈夫じゃないね!」
「大丈夫じゃないのかよ!!」
「・・・何か・・身体・・痺れて・・き・・た・・?」
「猛?!」
「あー、猛君はそういう症状が出ちゃうんだねー。」
「・・・まさかと思うが。」
「うん、人によって症状が違うんだよー、ある意味これはこれで面白いけどね〜。」
「面白くない!・・・って、速くこの煙と変な音とさっきから動き回ってる黒い影、そして、猛の症状を治せ!」
「んー?動き回ってる黒い影?・・あー、もしかして、この影の事かい?」

そう言った後、指を指した方向には先程から目の端にチラついていた黒い影だった。
徹が頷いた事を確認した後、その黒い影にあろうことか近づいていく塒勾。
唖然となっている徹を余所にその黒い影を掌に載せ、こちらに戻ってきた。

よくよく見れば、その黒い影は塒勾が溺愛しているルピちゃんだった。
しかも、ちゃっかりルピちゃん専用のガスマスクを付けている。

「・・・」
「ふふ、ガスマスク付けてるルピちゃんも可愛いでしょ〜!」
「・・・・塒勾。」
「ん〜?何だい?」
「一定期間、ルピと離れる事になるか、今この状況を迅速に解決するか・・どっちか選べ」
「・・・・。」

そう言った徹の目はマジだった。
さすがにこのままだと収拾がつかなくなると思ったのか、胸ポケットから一粒の種を取り出す。
そして、ルピがいつの間にか持ってきていたルピサイズの水の入ったコップにその種を落とし入れる。

すると小さな芽が生え、一気に部屋中に充満していた煙を吸いだす。


数秒も経たない内に、全ての煙を吸収し終えた芽は一輪の小さな花を咲かせた後、枯れ果てた。

一部始終を見ていた徹は暫し、呆然となっていた。

「はい、終わったよー?」

ケラケラと相手を小馬鹿にするような笑みを浮かべながら、徹に話しかける塒勾。
声をかけられた事により、ハッと気付いた徹は、今起こった事を尋ねる。

「・・・塒勾。今のなんだ?」
「んー?ああ、これー?見たまんまだけど、浄化の種だよー?」
「浄化の種?」
「そっ、これも偶然出来た産物なんだけどねー。」
「・・・・日頃、何をしてるのか怖いんだが?」
「何って研究だよー?徹君。」
「研究って・・・あんなどす黒い煙が発生したり、その煙吸って、猛が痺れだしたりするのおかしくないか?!」
「んー、そこは僕にも分からないや♪」
「いや、分かってろよ!って、そういや、猛・・」

チラッと猛を見てみるとまだ痺れているのがその場で動けずに居る。

「・・・塒勾、早く猛を治してくれ。」
「治すけど、暫くその薬作るのに少し時間かかるから少し待っててねー?」
「はぁ・・・出来るだけ早く頼む。」

それから30分後、無事に薬(かなり見た目が怪しい)が出来、猛に飲ませた後、やっと本来の目的である、今回の報告を塒勾にし始める。

「・・猛、大丈夫か?」
「ん・・・少しだけ・・まだ・・痺れてる・・」
「そうか、なら報告はオレがするから、そこの椅子に座って休んでろ。」
「・・・よろしく・・」
「さてと、塒勾。」
「ふふ、いやー、ごめんねー?」
「金輪際、面倒な事起こすな。」
「出来るだけ努力してみるよー」
「・・・」
「冗談だって〜」

ケラケラと笑う塒勾。
それを飽きれた顔で見る徹。
一つ溜息を付いた後、霖汢の家で起こった事を報告し、依頼されていた本についても現在調べて貰っているという事も伝える。

「んー、まさかそんな事が起こってるなんてねー。」
「あの男が最後に紗良を狙う組織が動き出すと言い残していった。」
「紗良ちゃんを狙う組織はこれから、噂が広まれば、増えていくだろうねー。まぁ、現時点で狙ってきてる組織は“光空(こうくう)”の可能性が高いだろうけどね。」
「やっぱり、あの“男”が居る組織か・・。」
「そうなるねー・・・あ、そうそう前から頼まれてた“札”の件だけど、分かったよー。」
「本当か?!」
「本当本当〜。」
「で?どうだった?」
「あの札は紙自体には何も効力とかは無かったよ。」
「紙自体には効力がない?」
「うん、効力・・つまり、本来、DCでもない人が力を使えるようになった原因は、その札に記されていた術式。しかも、かなり強力な術式だったよー。」
「術式・・」
「パッと見ただけじゃ、意味不明な文字や羅列になってるけど、まぁ、それを解くと君が良く知ってる子が使っていた文字が浮かび上がってきたよ。」
「・・・・。」
「まぁ、その文字を隠す為に書かれた術式は違うタイプのだったから、敵側にはその子以外に術式関係に強い子が居るって事になるねー。」
「他にもあいつと同じような力を持っている奴がいるのか・・」
「まぁ、仮にそうだとしても対処法はいくらでも考えられそうだけどねー?」
「だが、油断は禁物だからな?」
「ふふ、分かってるよー。」
「っで、他に分かった事とかはあるか?」
「んー、あの子とその敵側のもう一人がこの札を作ってるって事ぐらいしか、今は分からないよー。」
「そうか。」
「まぁ、札については術式を解いてしまえば、使っている人達から力を失くす事は出来るってことがわかっただけでもいいんじゃないかぃ?」
「ああ、そうだな。後は霖汢からの報告待ちか・・」
「ふふ、でも霖汢君なら、すぐに読み解いてしまいそうだけどねー?」
「あー、可能性は高いな。」
「・・・遅くても・・明日には・・連絡・きそう」
「だといいんだがな・・もう大丈夫そうか?」
「ん・・やっと・・痺れとれた・・」
「そうか、じゃあ、報告も終えた事だし、帰るか?」
「うん・・。」
「じゃあ、僕は引き続き、研k・・「塒勾?」何ていうのは冗談でー、情報収集しておくよー」

ケラケラと笑って誤魔化す相手に三度目の溜息を吐く徹だった。




塒勾に報告を終えた徹と猛は二人でゆっくりと帰宅していた。

「・・・これから・・どうする・・?」
「今日は戦闘もあったから、それぞれ家でゆっくり休んで回復させる事に専念してほしい。情報については塒勾達がやってくれているから、問題はないだろうし、本についても霖汢からの連絡が来るまでは“巫女”についての行動も待機になるな。」
「ん・・・分かった・・」
「一応、後で桃香と紗良には連絡をオレから入れておく。」
「俺が・・する事は・・?」
「いや、特にはないが・・あ、そうそう。一つだけ。」
「??」
「機械弄りに夢中になって、寝るのを忘れるなよ?」
「・・・それは・・・難しい・・」
「おぃ」
「・・・努力は・・する」
「頼むぞ?」
「うん・・」


他愛もない二人の会話が途切れた瞬間、見計らったかのように後方から声が聞こえた。

「ねぇ、そこのおじさん達」

気配が全く感じられず、慌てて後ろを振り向く二人。
そこにはキャップを被り左頬に絆創膏を貼った少年が立っていた。

「お、おじさん?」
「そう、そこの・・あー、眠そうにしてるおじさんに用があるんだけど。」
「・・・俺・・おじさん・・じゃない・・けど・・」
「オレより年上だから、おじさん。」
「・・・なんで・・そうなるんだろう・・?」
「まぁ、別にどっちでもいいけど、眠そうにしているおじさんが“潤爲 猛”だよね?」

ニヤッと笑いながら問う少年の言葉に一気に場の空気が張り詰める。

「・・・なんで・・知ってるの・・?」
「何でって、知ってるから知ってるに決まってるじゃん。」
「ん・・理由に・・なってない・・」
「別にー?どうだっていいじゃん。細かい事気にしてたら、早く禿げるよ?おじさんからおじいさんに」
「・・禿げない・・」
「それより、何で猛に用がある?」
「用があるからだって言ってんじゃん。物分りの悪いおじさんだね。」
「だから、おじさんじゃないって言ってるだろ。」
「おじさんはおじさん。っと、そっちの眠そうにしてるおじさんが“猛”って人で間違いがないなら・・・ここで死んでもらうから。」
「「!?」」

また、ニヤッと笑いながら言い終えた少年はポケットからスーパーボールを取り出し、地面に落とした。
地面で一回跳ねた後、スーパーボールを覆う様に火が纏う。
もう一度、地面で跳ねた途端、猛目掛けてボールが飛んでいく。

それを間一髪で避ける猛だが、その間にも追加のボールをポケットから取り出し、また火を纏わせ、攻撃を続けてくる少年。
次に飛んできたボールをいつの間にか手に持っていた愛用の銃で徹を守りながら撃ち落としていく猛。

「へぇ?おじさんの癖にやるじゃん。」
「・・だから・・おじさん・・じゃない」
「猛、あまり相手の挑発に乗るなよ」
「ん・・・分かった・・」
「ふーん・・そっちのおじさんは守られてるだけ?」
「さぁ?どうだろうな」
「何かむかつく。ターゲットはそっちの眠そうなおじさんだけど、むかつくからおじさんも死んでもらう」
「・・そうは・・させない」

飛んでくるボールを雷を纏った弾で撃ち落とし、相手の腕を狙い、銃の引き金を引く猛。
だが、猛の狙いが分かっていた少年は身軽に避け、更にスーパーボールの数を増やし、猛と徹に向けて攻撃を仕掛けてくる。
さすがに全てを撃ち落すのは無理だと判断した猛はすぐさま塀に銃を向け、四方に撃ち、雷の結界を張った。
結界の効果で攻撃を防げたが弾かれたスーパーボールは威力が半減することなく周りにある物に当たり、壊していく。電柱に至っては、倒壊している。

「ちぇっ、防がれた。今の当たってれば俺の勝ちだったのに」

頬を膨らませ、若干拗ねている少年に今度は猛が挑発してみる。

「ん・・・それぐらいの攻撃じゃ・・俺の結界・・壊せない・・」
「壊せないんじゃない、わざと壊さなかっただけだし!」
「・・・とか言って・・本当に・・壊せなかっただけ・・?」
「さっきから、聞いてればいい気にならないでよ!おじさん!!」

案の定、挑発に乗ってきた少年の隙をつき、銃を構え先ほどと同じく利き腕であろう右腕に狙いを定め、撃った。

「!?」

慌てて避ける少年だが、避けながらもスーパーボールを猛に向けて投げ、攻撃をし続ける。
それをまた猛は撃ち落とそうとしたが、スーパーボール同士がぶつかり軌道が変わった。

「!?」

なぜ、自分の攻撃する場所が分かったのか疑問を持ちながらも猛は飛んでくるボールを撃ち落とそうと銃を構え撃つがどれもさっきと同じく軌道を変えられ、当たらない。
それを見ていた少年は大声で猛に嘲笑うように言う。

「もう、おじさんの攻撃は当たらないよ!」

この短時間で猛の攻撃パターンを読んだ少年は、スーパーボールの軌道を変え、当たらないようにしてしまったようだ。
攻撃パターンを読まれてしまった猛はそれでも攻撃を続ける。
それを綺麗に避け、また攻撃を繰り出す少年。
その攻防が暫く続き、猛に攻撃のしやすい場所まで移動した少年はその場で止まり、ポケットからスーパーボールを取り出そうと手を動かした時、ふと下を見れば、自分の影に被さるようにもう一つ影が出来ている事に気付く。
嫌な予感がした少年はすぐにその場から離れる。
と、離れた瞬間、少年の居た場所に誰かが拳を地面に叩き付け、道路を破壊していた。
破壊したその人物は苛立ち気に叫ぶ。

「あー!もぉ!!何で避けるのよ!!」
「避けなきゃ、死ぬからに決まってんじゃん!おばさん!!」
「はぁ?!誰がおばさんよ!このクソガキ!!」
「おばさんはおばさん」
「マジでこいつぶっ殺す。」
「ん・・・それは・・駄目・・」
「何言ってんのよ!年上を舐めてるクソガキを殺っても問題ないわ!」
「いや、そういう意味じゃなくてだな。」
「じゃあ、何よ!」
「そいつが何者かも分かっていないのに倒すのは不味いって意味だ。」
「ただの力が使えて嬉しがっているクソガキよ!」

それまで黙って聞いていた少年は苛立ち気に叫んでいる女-桃香-を見ながらニヤニヤ笑い出す。

「あ゛ぁ?何笑ってんのよ!」
「だって、おばさん俺をただのガキだって言ってるからさー?」
「ただのガキじゃないって言いたいわけ?」
「そうそう」
「はぁ?何言ってんの?見た目からして、弱そうだし、ただの生意気なガキじゃない!」
「ガキガキガキって、おじさん達、俺の事舐めてるけど、おじさん達より強いよ?」
「どういうことだ?」
「だって、俺、“光空”だし」
「「「!?」」」
「あれ?おじさん達、“光空”の炎呀って聴いた事ない?」
「知るわけないでしょ!」
「・・・・。」
「まぁ、いいや。おばさんは“木水 桃香”として、そっちでずっと戦わずに雷のおじさんに守られているおじさんは“橘 徹”・・・いや、“夜幻”だよね?」
「?!」
「・・・・。」
「はぁ?!何で知ってんのよ!」
「あ、やっぱりそうなんだ?」
「なっ!あんたまさか鎌かけた訳?!」
「それもあるけど、あいつの情報通り、二人の男女に守られて一般の振りをしている奴があの“夜幻”っていうのを聞かされてたし」
「だったら、尚更あんたを殺すわ。」
「だーかーらー、おじさん達の力じゃ、光空メンバーであるこの俺、炎呀は倒せないよ」
「こんのぉー」
「桃香落ち着け」
「これが落ち着いていられるわけないでしょ!あんたの正体バレてるんだし!」
「だからこそ落ち着け。」
「んもぉ!どうすんのよ!」
「ん・・相手は・・一人」
「だから?」
「三人で行けば、倒せるってことだ」
「無理無理!おじさん達全員で来ても、俺を倒せないよ!」
「・・・それは・・・」
「やってみないと」
「分からないわよ!」

桃香が言い終えたと同時に徹の目の色が黒から銀へと変わり、徹と猛の周りをふわふわと蛍火が飛び始める。
その二人の前にメリケンサックを常備した桃香が立ち、少年-炎呀-に殴りかかる。
それを身軽に避けつつ攻撃を桃香へとするがそれを桃香の後ろにいた猛が撃ち落す。
だが、それを読まれていた為、またスーパーボール同士がぶつかり軌道を変え、桃香を狙うが、徹の蛍火がスーパーボールに当たり、軌道を再度変えてしまう。

「な!おじさん!邪魔しないでよ!」
「邪魔しないとオレの仲間に当たるからな」
「チィ!じゃあ、これでも食らえ!!」

桃香へ迫っていたボールは地面で跳ねる前に高速で回りだし、その勢いのまま徹へ狙いを変える。
しかし、ボールは徹に届く前に桃香の拳によって、炎呀に向かって跳ね返される。
その一瞬の内、猛は雷の弾を、跳ね返したボールの後ろにぴったりと追いかけるように撃ちこんだ。
ボールが炎呀に近づくと猛の弾が破裂し、雷の網が現れ、炎呀を捕らえようと迫ってきた。
間一髪で避けた炎呀だったが、さっきと打って変わり、動きが良くなった徹達に内心、焦っていた。

「クソぉ!なんだよ!おじさんが入ってから急に連携が良くなってない?!」
「・・・そりゃあ・・・」
「一応、こいつ、私達のリーダだし?」
「それでも良くなりすぎ!」
「仲間を守るのはオレの役目でもあるからな。」
「あー!もぉいい!次でおじさん達殺してやる!!」

そう言った後、両手をポケットに入れ、ポケットから出てきた手の指の間全てにスーパーボールが挟まれていた。
そして、今まで攻撃してきた火力よりも強く大きな火を纏わせ、徹達へ向けて投げようとしていた。
徹達はその攻撃に対処するべく、構えていたが、一陣の突風が吹いた。

「うわぁ!」

突風が過ぎた直後、炎呀の悲鳴を聞いた徹達はすぐに探すが目の前から、炎呀の姿が消えている。
辺りを見渡していると徹と猛の後方にある家の屋根の方から炎呀とは違う声が聞こえた。

「全く、姿が見えないと思えば、こんな所で夜幻達と交戦しているとは思いませんでした。」
「いいだろ!別に!!」
「良くはないんですけどね」
「っていうか!邪魔すんなよ!風燕!!あのまま戦ってたら勝てたんだ!」
「流石に三対一では分が悪いですよ」
「でもさ!!」
「炎呀?」
「うぐぅぅぅぅ・・フン!!」

そこには糸目で痩身の優男が炎呀の隣に佇んでいた。風燕と呼ばれたその男は一つ溜息を吐いた後、徹達に目線を向け、お辞儀をした。
その行動に警戒を強めるが、風燕は気にも留めず、話しかける。

「初めまして。私は炎呀と同じく“光空”に所属している“風燕”と言います。今回はこちらの仲間が勝手に皆さんに攻撃を仕掛け、ご迷惑をお掛けしてすみませんでした。今日の所は引かせていただきますが、今のように警戒は怠らない方が身の為ですよ。」
「どういうことだ」
「それはそちらで考えて下さい・・でわ、失礼します」

またお辞儀をし、元の姿勢に戻ると風燕と炎呀の周りに一陣の風が吹き、その風が二人を包み、吹いていた風が止むと二人の姿はその場から消え去っていた。

暫く、二人が消えた場所を見ていた徹だったが、風燕に言われた事が気にかかり、桃香に話しかける。

「桃香、そういえば紗良はどうした?」
「紗良?紗良なら、私が家まで送って行ったわよ?」
「そうか。それならいいんだが。」
「なにか・・気になる・・?」
「ああ。さっきの風燕と名乗った男が言った言葉がな。」
「大丈夫よ!この後、私がもう一回紗良に会いに行ってくるわ!」
「悪い、頼む」
「これ・・報告しとく・・?」
「そうだな。猛は桃香と一緒に紗良が無事かどうかの確認をした後、情報収集をしているあの二人にこの事を伝えといてくれ。」
「ん・・分かった・・」
「あんたはどうすんの?」
「オレは塒勾に報告してくる。」
「ふーん、じゃあ、終わったら携帯に連絡するわー」
「・・・俺も・・」
「こっちも終わり次第連絡する。」
「じゃ!そういうことでとっとと行くわよ!猛!」
「・・分かった・・けど・・襟首引っ張らないで・・苦しい・・」
「男なら我慢しなさい!」

そう言いながら、引きづられていく猛を哀れんだ目で見届けた徹は、胸に掛かる不安を振り払う用に首を振り、塒勾へ報告をしに足を踏み出した・・


ж

場所は変わり、暗闇に包まれた空間に風燕と炎呀は居た。
だが、風燕に強制帰還させられた炎呀はずっとふてくされている。
困ったように風燕は炎呀に話しかける。

「まだ、怒っていますか?」
「当たり前だろ!さっきも言ったけどあのまま戦ってれば勝てたんだ!」
「それは、難しいと思いますが。」
「何が言いたいんだよ!」
「ふふん!お子ちゃまだから、夜幻達には勝てないって事を風燕は言いたいのよ!」
「な!」

二人以外の第三者の声にすぐさま反応した炎呀はその相手に指を指しながら、喚く。

「誰が勝てないだ!ばばあ!!」

“ばばあ”という単語にいち早く反応した、髪を頭の上で左右に分けて括り、チャイナ服を着ているその少女は顔を赤くさせながら反論する。

「ば、ばばあじゃないわよ!このお子ちゃま!!」
「ばばあは、ばばあ!!」
「だったら、あんたはお子ちゃまよ!!」
「んだとぉ!!」
「何よ!やる気?!」

言い争いを始め、にらみ合う二人の間に火花が飛び散っている。
その光景を見て、溜息を付く風燕。
そろそろこの言い争いを止めないと後々面倒くさい事になると判断した風燕は二人を止める。

「炎呀、紋南、仲が良いのは分かりましたから、そろそろ喧嘩をやめて頂けますか?」

炎呀と紋南と呼ばれた少女は仲が良いと言われ風燕に食って掛かる。

「「誰が誰と仲良いって?!」」
「二人がですよ。」

苦笑いをしながら、答える風燕の背後からまた違う声が三人に話しかける。

『どうやら、彼らに手を出して失敗したみたいだね?』

その声を聞いた瞬間、三人に緊張が走る。
いち早く、緊張を解き、その声に答える風燕。

「まさか、貴方がこちらへ来ておられるとは思いませんでした。」
『彼らに手を出したと聞いて、実際に話を聞いておいた方が良いと思ってね?』
「そういう事でしたか。」
『それで?何故、手を出し、失敗したのかを聞かせて貰えるかな?』

その声は炎呀に向けられている。

「あ、えと・・そ、それは・・・その・・」

急に振られ、闇から感じる視線にしどろもどろしてしまう炎呀。
見かねた風燕がフォローをする。

「その説明は私からさせていただきます。」

ж

『なるほど、刺客として送り込んだ者全員が失敗しているから、己で彼の力量を見たかっただけなんだね?ただ、彼だけを狙うつもりが邪魔が入ってしまった・・・ということで間違いはないね?』
「はい、私が確認している限りでは」
『そう。それで彼は少しだけ力を使っただけか・・まぁ、今の状態が聞けただけで今回は許してあげるよ』

ホッと胸を撫で下ろす炎呀。
その様子を見ながら、紋南は声のする方へ元気良くアピールをし出す。

「お子ちゃまが失敗して、少ししか今の力量が分からなかったんだから、今度は私が行って、調べてくる!」

暗闇の中に居る“何か”は一瞬、考え込んでいる雰囲気をした後、紋南に視線を送る。

『・・・じゃあ、任せるよ。紋南』
「任せて!リーダー!」

紋南に“リーダー”と呼ばれた人物は次に風燕に視線を向け、命令を下した。

『後は頼んだよ、風燕?』
「はい、貴方のご命令とあらば」

風燕の言葉を聴いた後、その声は闇の中へ姿を消した。
完全に気配が消えた事が分かった炎呀は紋南に声を掛ける。

「っで?ばばあに何が出来んだよ。今から、乗り込みに行くつもり?」
「そんなお子ちゃまじゃないんだから、すぐには行かないわ。ちゃんと計画を立てて、準備が整ってから、あいつらをギャフンと言わせてやるわ。」
「何か手伝う事があれば、言ってくださいね?紋南?」
「ええ、お子ちゃまよりすーっごく!頼りになる風燕にはまた計画が立てれたら、お願いするから」
「俺だって役に立つ!」
「失敗してるお子ちゃまが何言ってんのよ!」
「し、失敗しててもあいつらに勝てる!!」
「む・り・よ!」
「何だよ!!」

また、喧嘩をし始めた二人を見て溜息を付いた風燕はふと今日会った徹の事を思い出し、その内に秘める強大な力の存在を確信し、己がその力に魅了されている事に気付いた風燕は、無意識の内に口元に弧を描いていた。
いつか、己と戦えるその日を待ち望むように・・。
そして、それがリーダーへの手土産になる事も想定しつつそれを表に出さぬよう、二人を止める為にゆっくりと距離を縮めていった・・・。


to be continue...


や、やっと五話が書けました・・。
うん、時間掛かりすぎですよね。(汗
今回は敵がわんさか出てきましたが、これからじゃんじゃん出てきますので、誰だっけ?になりましたら登場人物紹介で確認していただければ、ありがたいです。
でわ、六話更新の為、ドロンします!(笑/ぉぃ

[*前へ]

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あきゅろす。
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