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小説
月の陰〜第三話〜
〜巫女〜

懐かしい夢を見ている。
幼い頃、地元の男の子に虐められていた時に、いつもどんな場所に居ても駆けつけて助けてくれる大親友。
そんな大親友は相手をボコボコにした後、こちらに振り向いて優しい顔で笑い、「もう大丈夫よ」と私の頭を撫でる。

それから撫でながら決まって桃香はこの台詞を吐く

「あんたに手を出そうとした阿呆共は私が成敗するから安心しなさい!何があっても守ってあげるから」

その言葉に、その笑顔にいつも私は安心する。
だから・・・だから、私、怖くないよ?


除々に覚醒してきた紗良の目に映りこんだのは、薄暗く、陰湿な空気が漂う古びた倉庫だった。
なぜ、倉庫かと分かったかというと所々に木箱が置いてあったりしたからだ。
ただ、この古びた感じからするとかなり使われてない倉庫のようだ。

自分が今なぜここに居るのかを確かめようと動こうとした時に身動きが取れない事に気づく。
どうやら、縄で縛られているようだ。
足も手も縛られている為、動けない。
どうにかして動けないだろうかと思案しているとコツコツと誰かがこちらに向かって歩いてくる音がする。
一瞬、体が強張ったが、大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせ、その人物が来るのをじっと待つ。

コツコツと音が大きくなり、その人物が姿を現す。
そこに立っていたのは、今まで頼りにしていたお巡りさんだった。

「あ、起きたんだね?体調はどうかな?少し強い目の睡眠薬を嗅がせちゃったから、体が重いかもしれないけど。」

にこにこと笑みを浮かべながら、いつも通りに話かけてくる相手に恐怖を感じながらも、出来るだけ平静を装って、質問を投げかける。

「なんで・・・なんで、こんな事をするの?」

出来るだけ平静を装ってはみたが、やはり恐怖の方が勝ったようで声が震えてしまう。
そんな様子を相変わらず微笑みながら紗良を見る警察官。

「なんでと言われてもね?う〜ん、簡単に言えば、君が・・・紗良ちゃんが欲しかったから。」

にこっと笑いかけられ、質問の答えを聞いた瞬間に顔色が青ざめていく紗良。

「5年前に初めて君を見てから、ずっとずーっと、僕の物にしたかった・・・でも、君の周りにはいっぱい邪魔が居て、全然近づく間もなくて・・・こんな奴だと気付かれないように良い人振って君の友人達にもバレないように必死で自分の感情を抑えて抑えて・・これまで通りに過ごそうと耐えてきたんだよ。でもね?今から1年程前かな?僕の前にある人が現れたんだ。」
「あ・・ある人?」
「そう、その人はね?僕のこの感情を気持ちを分かってくれていた。あれだけ必死に隠してきたものをあの人は意図も簡単に見つけ出して、僕にこう言ったんだ。
『こちらに手を貸してくれるのなら、その願い叶えてあげようか?』とね?それを聞いた瞬間、自分の耳を疑ったよ。だって、こんな願いが叶うのか?ってね。半信半疑な僕をあの人は、止めを刺すかのように言い切ったんだ。
『この組織に不可能はないよ』と。その言葉を言い放った瞬間、体に電気が走ったね。今でも覚えてる、あの人の顔は余裕を感じられる笑みを浮かべ、そして僕に向かって手を差し伸べていた。
『さぁ?この手をとるかい?』
この手を取る事が悪魔に身を売る事だとしてもそれで良い、君を手に入れることが出来るのならね。」

話を聞いていた紗良は、恐怖のあまり息をする事さえ、忘れかけていた。
そんな様子に気付いていないのか、話し続ける警察官。

「それにしても、あの人の言った通りにしたら、こんなに上手く事が運ぶとは・・。もっと早くあの人と会えてたら君と手に入れるのも早かったのに。
まぁ、そんな事を今さら嘆いていても仕方ないね。どちらにせよ、君がやっと僕の物になるんだから、その事に関しては感謝しなくてはね。
ただ、あの人に手を貸す内容がまさか紗良ちゃんを捕まえた後、あの人に会わすっていうのが条件だとは思わなかったけどね。」

それを聞いた紗良は困惑する。
それに気付いた警察官は紗良に目線を合わせる為にしゃがみ込む。

「僕も驚いたよ?まぁ、内容が会わせるだけだから、何もしやしないとは思うけど。あ、そうそう確か君に力があるかどうかっていうのも言ってたかな?」

力という単語に疑問を覚えた紗良は警察官に問いかける。

「ち、力って何?私・・何も力なんてないよ?」

紗良の問いかけにあの人が言ってた事を思い出すかのようにゆっくりと答える。

「確か・・・巫女がどうとかって言ってたけど。まぁ、巫女っていうのが何かっていうのは知らないし、そもそもそんな事は僕にとってはどうでも良い話。君が手に入るのであれば、誰が傷つこうが何が起ころうが知ったことじゃないよ。」

答えを聞き終えた紗良は今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。

「ああ、泣かないでよ紗良ちゃん。大丈夫、君の事は僕が守ってあげるから・・・そう、誰にも邪魔はさせないからね?その為にも僕の友人に邪魔者が来ないかを見張ってもらってるから。っと、そろそろ見回って戻って来る頃だと思うけど。」

そう言った後、また一人分の足音がこちらに向かって歩いてくる音が聞こえる。
数分も経たないうちに、友人と呼ばれた男が現れた。

「どう?邪魔者は居たかな?」

一度立ち上がり、男に体を向け、問う。
その問いに男は話す事なく、首を横に振るだけ。

「そっか、じゃあ、これであの人に何事もなく君を会わせれるよ。・・・・ただ、万が一の為に邪魔者が本当に居ないかをもう一度見てきてくれるかな?」

男は一度頷いた後、見張りに戻る為、その場から立ち去る。それを見送った後、紗良に向き直り、見下ろす形で紗良を見る。

「一度、辺りを確認してくれてるから、大丈夫だと思うけど、邪魔者・・特に君の親友は敏いからね。念には念を。それにあの人が一番懸念していた奴がもしかしたら、どこかで身を隠しているかもしれないしね。」
「や・・つ・・?」

今まで恐怖で話せなかったがやっと落ち着きを取り戻せたのか、気になった事を警察官に話しかけていた。

「そう、奴だよ。君の親友が手を貸しているある男の事だよ。
闇夜に紛れ、そこに居るのかも不確かな幻のような男・・・裏ではかなり名が知れているようだね。
名は確か”夜幻”だったかな?
そんな男に君の親友が手を貸しているんだよ。
誰かの上に立ってないと気がすまないあの彼女がだよ?
本当にあの人からこの事実を聞かされた時は驚いたよ。
それ程の男というわけかな?
まぁ、彼女が誰と組もうと知ったことではないけど
・・・もしかして、紗良ちゃん、この事を知らないのかな?」

もしかしなくても、全く知らない事だった。
桃香について知ってる事といえば、喧嘩が強くて、DCと呼ばれる力を持つ者の中で強い分類に入っている事、そんな力を持つ危険人物たちと戦闘をしている事は桃香本人から聞かされて知っていた。
ただ、誰かと組んでいる事は初耳だった。
警察官が言うとおり、桃香は誰かの下に付くのを嫌い、寧ろ一人で戦う事を好む。理由は誰かと一緒に戦えば自分が暴れられないかららしい。
だからこそ、誰かと一緒に戦闘を行動する事はほぼ無いに等しいのだ。

「あの桃香が・・・・」

あまりにも衝撃的な話だった為か、紗良は今言った言葉を言うだけで精一杯だった。

「ショックだったんだね?親友だと思っていた人に何も教えてもらえず、今まで普通に過ごしてた事に。」
「・・・・。」

紗良はショックの為かだんだんと俯いてしまう。
そんな紗良の頭を優しく撫でつつ優しい声音で話を続ける警察官。

「ひどいよね?彼女もその彼女をそんなにしたその男も・・・。」

黙って聞いていた紗良が口を開く。

「・・・く・・い。」
「ん?何か言ったかな?」
「ひ・・な・・い。」
「言いたい事があるのならはっきり言ってくれて言いよ?」
「桃香は・・・桃香はひどくなんてない!」

震える声で親友の事を悪くはないと言い放つ紗良。
急に言い放った事に若干、驚く警察官。
そんな事に驚いている警察官の事など気にも留めず、溢れ出てくる言葉を吐き出し続ける。

「確かにお巡りさんの言う通り、桃香が本当の事を言ってくれなかった事は凄く悲しい。私の知らない所で桃香が傷ついてるかもしれないから。でも、桃香は私の為を思ってあえて言わなかっただけ。私に余計な心配をしてほしくないから。大事な親友だからこそ・・私が反対の立場だったら、きっと・・ううん、絶対にそうしてるから。だから・・・だから・・桃香はひどくなんてない!」

言い終えたと同時に上からドカンッ!ガシャンッ!という音と共に壊された屋根の一部や鉄工などが次々と落ちてくる。
その瓦礫等と一緒に落ちてくる人影があった。
その人影がにんまりと笑いながら口を開く。

「よぉーく言ったわ!紗良!さすが私の大親友!」

でかい声で派手な登場をしたのは先程まで話しに上がっていた桃香だった。
いきなりの登場に警察官も紗良も驚きを隠せない。
驚いている間に地面に着地し、警察官と対峙する桃香。
先に平常心を取り戻した警察官はすぐさま友人と呼んでいた男を呼び戻す。

「おい!邪魔者が来た!速く戻って来い!!」
「あら?邪魔者何てひどいわね。ていうか・・・あんただったのね。私の大事な紗良を攫ったクソヤローは。」

敵意剥き出しで警察官を見る桃香。
そんな桃香を嘲笑うかのように見る警察官。

「クソヤローとはひどいよね?桃香ちゃん。
僕は彼女を守ろうとしただけだよ?
誰にも傷つけられないように。
君みたいな危ないことをしている人の傍に居るより、僕の傍でずっと居ていた方が一番安全なんだよ!
・・・それが分からないのかな?」
「はぁ?あんたの方がよっぽど危ないわよ!紗良を無理やり攫った挙句、こんな陰湿な倉庫に縛って監禁紛いな事してるあんたがね!」
「紗良ちゃんを危険なものから守る為には致し方ない事だったんだよ。言っても素直に聞いてくれる訳無いからね。」
「何が致し方なかったよ!素直に聞かない?そんなの当たり前じゃない!あんたみたいなクソヤローの話何か、誰も聞きはしないわよ!」

段々と不穏な空気が漂い始めたこの場に紗良は戸惑いつつも桃香が来てくれた事に安心していた。
だが、まだ状況は良くない。
どうやって、この場所から逃げられるか思案していると桃香の反対側、つまり警察官の後ろの方から間の抜けた声が聞こえた。
慌ててそちらの方へ振り向くとそこには男が一人、眠たそうにこちらを見つつボーっと立っている。
それに気付いた警察官は睨むようにその男を見遣る。
そんな事には気も留めず、桃香に話かけている。

「んー・・・・桃香・・言い争ってる暇があったら・・助けた方が早くないか・・・?」
「五月蝿いわね!そう思ってるならあんたがこの隙に助け出しなさいよ!この馬鹿猛!!」

そう、桃香に話しかけてきたのは紗良と一緒のクラスであり、友人でもある潤爲 猛だった。
なぜ、猛が居るのかと疑問が沸くが、それ以前に桃香の切れっぷりに意識が向く。
一方の猛は、怒鳴られていることに慣れているのか動じず普通に会話を続けている。

「でも・・・敵が近くに居るから、下手に動けないし・・・それに今の状態だと・・・一番近いのは桃香だから・・・」
「・・・あーもぉ!ほっんと!使えないわね!あんたわ!」
「・・・ん・・ごめん・・・」
「謝ってる暇があるなら、動きなさいよ!」
「・・動くたって・・もう一人の敵・・こっち来た・・」

猛が言い終えたと同時に木箱の上から友人と呼ばれている男が包丁を振りかざしながら飛び降りてきていた。

「た、猛君!危ない!」

敵が迫っている事に気付いた紗良が叫ぶ。
だが、相手を確認しているにも関わらず、一向にその場から動こうとしない猛。
そして、包丁の切っ先が猛の心臓に近づき、後少しで突き刺せる距離になった瞬間、男の前から忽然と消える猛。
目標物が無くなった切っ先は空を切り、男は辺りをすぐさま見渡す。
後ろを確認しようと振り向いた瞬間、カチャッとこめかみに固い物が当たる。
見れば、正面には先程、忽然と姿を消した猛が一丁の拳銃をこめかみに当てながら眠たそうな顔で立っていた。
男はギリッと奥歯を噛み締め、今の状況に苛立つ。
そんな様子を尻目に一つ欠伸をした後、口を開く猛。

「・・・んーっと・・こういうのは・・・動いたら・・撃つぞ?・・で良いのか?」

その台詞に殺気をたてつつ睨む男。
一方、一部始終のやり取りを見ていた警察官が声をかける。

「・・・落ち着きなよ。その子はお前の背後に回る為に、力を使ったんだ。良く相手の動きを見れば、お前でも倒せるよ。それに相性もお前の方が有利だよ。」

それを聞いた猛は警察官を見る。
その一瞬をつき、男は猛から距離をとる。
チラッと男を見た後、下に銃口を向け、頬を掻きながら、警察官に顔を向ける。

「・・・んっと、もしかして・・俺の属性・・バレた?それとも・・知ってた?」
「バレたというのもあるし、知ってたっていうのもあながち間違いではないよ。あの人からもある程度の情報は貰っていたからね。まぁ、僕には見えていたんだけどね。」
「・・・んー・・そっちの黒幕・・・かなりの情報持ってるみたいだけど・・」

そう言いながら、警察官に向かってゆっくりと銃口を向ける猛。

「情報だけでは・・・分からない事も・・ある・・」

言い終えた瞬間、銃口を警察官から素早く紗良に替え、引き金を引く。
バンッと二回続けて音をたて、飛び出した弾は紗良自身には当たらず紗良を拘束している縄へと命中し、両手両足の縄が解ける。
反応に遅れた警察官は慌てて紗良に目を向け、縄が解けている事に気付き、再度捉えようと動くが、それより先にこちらから警察官の目が離れた隙に、猛は己の属性・・つまり「雷」でスピードを上げ、瞬時に距離を縮め、滑り込むように警察官と紗良の間に入り込み、その勢いで警察官を蹴り飛ばす。
かなり遠くまで蹴り飛ばされた警察官が態勢を立て直し、近づこうと足を踏み出すがこちらに銃口を向け、近づけないように構えているのを確認した瞬間、踏み出すのを留まった。
一瞬の隙をつかれ、しかも手が出せないように割り込んできた猛を睨みつける警察官。
だが、睨みつけている間を与えないかの様に、同じく、目を離した隙に助走を付け、その勢いで跳躍し、警察官の頭目掛けてメリケンサックを装備した渾身の一撃を叩き込もうとしている桃香が居た。
上から影が差した事によって、攻撃されている事に気付くがもうその時点では逃げるタイミングを失っていた。
ドゴン!という音と共に衝撃で舞い上がった砂埃が舞い、二人をかき消す。
今ので倒したかと思った猛だったが、突如、砂埃の中から何かに弾かれたかのように出てくる桃香が見えた。
一体何事かと思い、砂煙の中をじっと監察していると徐々に砂煙が薄れ、その異変に気付く。
その異変とは先程まで力を感じなかった警察官の周りでバチバチと音を立てながら電気が走っている。
一回、態勢を立て直す為に距離をとった桃香は猛に叫ぶように問い始める。

「ちょっとぉ!猛!どういう事よ!何であの変質者が力使えるのよ!あいつ、力はないんじゃなかったの?!」
「んー・・・そんな事言われても・・・俺も驚いてる・・」
「ホント使えないわね!もう、いいわ!力があろうとなかろうとぶっ叩いて、倒せばいいんだからっ!」

そう言い終えない内に地面を蹴り、相手との距離を縮め始める。
その様子にこちらに分が悪いと感じた猛は急いで桃香の行く手を阻むかのように銃を進行方向へ撃つ。
急に行く手を阻まれた桃香はキッと猛を睨む。

「何で、邪魔するのよ!」
「だって・・・お前とそいつ・・相性悪い・・。」
「相性が悪い?ふん!関係ないわ!私はあいつよりランクは上よ!」

そして又、駆け出す桃香。
その様子をじっと見ていた警察官はニヤリと口元を歪めた後、桃香に向かって千本の形をした電気が飛来する。
当たらぬようにかわしながら、相手に近づいていき、後1メートル程まで近づいた桃香が突然、その場に膝から崩れ落ちる。

「と、桃香?!」
「だ・・・いじょうぶよ!」

安心させるように声をかけつつなぜか、足に力が入らないというより、痺れている事に苛立ちながら警察官をキッと睨む桃香。

「あんた、何してくれたわけ?」
「何って、自分で攻撃を受けたのに分からないのかな?」
「雷で動きを止めたんでしょ!攻撃を受けた事は分かってるわよ!でも、あんたの攻撃は全部避けたはず!」
「・・・避けてないぞ・・」
「はぁ?!どういう事よ!猛!」
「・・どうも・・こうも・・・千本状の大きさよりさらに小さい・・・糸のような電気も一緒に飛んでた・・」
「さすがだね。まぁ、同じ属性だから見えたんだろうけど。」

同じ属性という単語で今まで引っかかっていた事に気付く猛。

「・・・さっきから気になってた事・・やっと分かった・・。」
「き、気になってた事?」
「うん・・・さっきあいつは、俺の攻撃が見えてたって言った・・・普通なら・・見えないはず・・。例外もあるけど・・。でも、属性が同じなら見えない事はない・・。」
「って、相手の属性が分かってたなら言いなさいよ!この馬鹿猛!」
「・・分かってない・・。」
「は?あんた気になってたんでしょ?」
「気にはなってたけど、属性までは分からなかった・・それに、桃香も言ってたけど、こいつ・・情報でも・・見た感じでも属性なしだった・・。」
「つまり、どういう事よ。」
「・・・まだ、推測だけど・・・無属性だったがなんらかの方法で属性を発動させた・・・とか・・。」

そう言い終えた猛に拍手を送る警察官。

「素晴らしい観察眼だね。そう、君の言う通り、僕は元々力何て持ってない。あっても微弱だ。
でもね?あの人がくれたこの札を取り込めば、力を持っていない者でも手に入れる事が出来るんだよ!」

懐から一枚の札を桃香と猛に見せる。

「って、その札!」
「あれ?桃香ちゃん知ってるのかな?」
「知ってるも何も、昨日の放火魔も元々は属性を持ってないのに力使えて、しかも、今あんたが持ってる同じ札を持ってたのよ!」
「へぇ?あの人は他にも手を貸していたのか」
「・・・・これで繋がった・・。」
「繋がったって?ど、どういう事?」
「・・・最近、無属性の奴が・・・力を得ているっていう事件が多発してたんだ・・・」
「無属性の人が?」
「うん・・でも何でそんな事が起きてるのかが分からなくて・・やっと昨日、原因となる札を見つけたところ・・。」
「じゃあ、今の話で・・」
「犯人が・・分かりそう・・。」
「犯人が分かりそう?今の状況で良くそんな事が言えるね?桃香ちゃんはここからまだ動けなさそうだし、君もそこから動くのは無理だよね?」

警察官に言われた通り、桃香と猛はその場から動く事が出来ない状況だった。
だが、猛は何とかして桃香の援助に向かおうと考えるが・・・今動けば確実に紗良がまた捕まってしまう。
それにチラッと警察官から目線をはずし、そこから左側を見ると、いつの間にかもう一人の敵がこちらに対峙している為、やはり動けない。
そんな事を考えていると男が攻撃を仕掛ける為に動き始めた。
まだ、この距離ならあまりこちらに近づけずに対処できると考えた猛は銃を構え直し、照準を合わせ連発で撃とうとしたが、ビュォと耳元で風の音がした後、頬に痛みを感じる。
何事かと思い目線だけで確認すると頬から耳側にかけて刃物で切られたような傷ができていた。
急に傷を受けた猛に驚く紗良。

「た、猛君!だ、大丈夫?!」
「んー・・大丈夫・・だけど、ちょっとだけ後ろに下がってて・・・危ないから。」

若干、傷が付いた事に驚きはしたが今の攻撃で相手の属性が分かった猛は自分の後ろに電気の格子を作り、紗良に攻撃が当たらないように配慮しつつ、近づいてくる相手の足元を狙い、電気を纏った弾を撃ちまくる。
それを軽々と避けるが一発だけ足を掠める。
だが、致命傷とはなっていない為、動きを止める事なく距離を縮めてくる。
狙いやすい距離までくると男は包丁を振り、風の刃を幾多も放ち、猛に攻撃をする。
そのすべての攻撃を受け、腕、足、腹・・・体中の至る所に傷を受け、かなりの量の血を流す猛。

「た、猛君!ち・・血が・・」
「・・・んー・・・これぐらい・・大丈夫・・」
「だ、大丈夫って・・・そんなに血が出てるんだよ?!」
「大丈夫・・・もう攻撃は受けない・・」

その発言に男は訝しげな顔をするが後何回か攻撃を猛にし、距離を縮め、猛が最後に自分に対して撃った瞬間、風の力で上へと飛び上がり、それを回避。
そして、血を流しすぎた為に意識が朦朧となっているその間に女を奪った後、風の力で殺傷能力の上がったこの包丁で止めを刺せばこちらの勝ちになるだろうという算段を立て、実行に移す。
ある程度距離を縮ませれば、案の定、猛は銃を構え直し、こちらに撃ってくる。
それを先程、立てた算段で回避し、上から女の下へ回り込もうとした・・・が、体が後ろに引っ張られ、猛達から少し離れた地面に着地する。
何が起きたのかが分かっていない男は再度、猛達に歩み寄ろうとするがなぜかその場から動く事が出来ない。
相手が困惑している事に気付いた猛はその場に崩れるように座り込み、相手を見据えつつ話しかける。

「・・・ふぅ・・・何で動けないか分からないんじゃないか・・・?」

男は無言で睨みつける。
そんな事には動じず、話し続ける。

「んと・・何から話そうか・・簡単にまとめると・・俺の雷で動けなくした・・。」
「そ、そんな事が出来るの?」

紗良が話しかけてくる。

「うん・・・。詳しく説明すると・・今あいつが居る場所に磁場を作った・・。っで・・その磁場を磁石と同じ様に変換し、地面に埋め込まれた弾をプラス・・そしてさっき俺が撃って、相手の足を掠めた弾がマイナスになる・・」
「で、でも掠っただけじゃ・・」
「んー・・少しでも当たれば相手にその電気が移るようにしたから・・そこは大丈夫・・」
「じゃ、じゃあ、今は・・」
「うん・・磁石の力であの場から動く事は出来ない・・」

猛の言う通り、男はその場から動く事が出来ないようだ。
だが、腕が少しだけ動く事に気付いた男は自分に残っている全ての力を包丁へ注ぎ込み、先程の攻撃より格段に殺傷能力が上昇した風の刃を起す為に・・・。
その状況をボーっとした目で見ているだけの猛。
相手がかなりの力を溜め、攻撃に移そうとしている事に気がついた桃香はそこから動こうとしない猛に避けるよう忠告する。

「ちょっとぉ!何ボーっとしてんのよ!早く避けなさい!」

だが、それでも動かない猛。
紗良も電気の格子の間から腕を出し、必死で猛を揺すり、気付かせようと必死だ。

「猛君!危ないよ!」

先程の攻撃で受けた傷口からの出血がひどい為、意識が朦朧としているのか、又は、力を使いすぎた為か・・どちらにせよ、今の猛には紗良の声さえも聞こえていないのかボーっとし続けている。
その様子に桃香はもう一度叱咤しようと声をあげようとしたがそれを警察官に遮られてしまう。

「この!馬鹿猛!早くそこから避けなs・・「桃香ちゃんも人の心配してないで自分の心配したらどうかな?」・・?!」

ハッと猛と紗良から警察官へ顔を向けるとこのやり取りの間に準備をしていたのだろう、桃香の頭上には逃げ場を失くすかの様に周りを幾多の雷で出来た千本がすぐにでも攻撃が出来る様に桃香を取り囲むように浮いている。
それに気付けなかった桃香は悔しさに唇を噛み締める。
警察官は口元に笑みを浮かべながら、大袈裟に両手を広げ、全ての終わりを告げる。

「さて、桃香ちゃんのお友達ももう少しでこの世とおさらばだね。ああ、安心してよ。君も彼と同じ場所へと送り出してあげるからさぁ!」

その声が合図となり、男は溜め込んだ力を風の刃に変え猛へ・・警察官は雷で作られた千本を桃香へ・・・それぞれがそれぞれに止めを刺す為に。

「や、やめてぇぇぇぇぇ!」

紗良の叫びも虚しく、ドゴンッという衝撃音と共に諸に攻撃を受ける猛と桃香。
攻撃の反動で辺りに塵積もっていた砂埃が舞い、二人の姿を掻き消す。
目の前で友人二人がやられてしまったのを目の当たりにした紗良はその場に泣き崩れてしまう。

「そ・んな・・・いや・・嫌だよぉ!」
「これで・・これでやっと紗良ちゃんを僕の物に出来る!あは、あはははは!やった・・やったぞ!」

勝った事に喜ぶあまり狂ったように笑い出す警察官。
その様子をただ黙って見ている男。
この状況に紗良は絶望し、もう駄目だと諦めかけた・・・その瞬間、猛と桃香とは違う第三者の声が聞こえた。

「何、笑ってるんだ?」
「「!?」」

その声に驚き、辺りを見渡す警察官と男。
っと、同時に辺りに舞い上がっていた砂埃が一陣の風に掻き消される。
掻き消された砂埃から現れたのはあれだけの攻撃を受けたはずの猛と桃香が無傷でその場に立っていた。
その事に対して驚く警察官と男。
だが驚くのはそれだけでは終わらなかった。
警察官と桃香の間に割り込むように立っている面を付けた人物が目に入る。
その人物を見た瞬間に警察官は叫んでいた。

「お、お前は・・夜幻?!」

夜幻と呼ばれた男は面越しから銀の瞳を警察官に向ける。
目を見た瞬間に背筋が凍る警察官。
その様子を遠くから見ていた男が攻撃を夜幻に仕掛ける。
包丁から放たれた風の刃は狂うことなく夜幻へとその体を切り刻まんとするかのように迫り来る・・・・が夜幻に当たる前に攻撃が霧散する。
何が起ったのか分かっていない男は威力が弱かったのだと思い、今度は立て続けに刃を放つ。
だが、何度攻撃を仕掛けても夜幻に届く前に霧散してしまい攻撃が当たらない。
もう一度、攻撃を仕掛けようと構えた時、溜息が聞こえた。
それも自分のすぐ後ろで・・。
バッと振り向くと先程まで警察官の近くに居たはずの夜幻が棍棒のような武器を構えていた。
その場から離れようと動く前に夜幻が動き、鳩尾に叩き込む。
そのまま崩れ落ちるように倒れる男を他所に夜幻は警察官に向きなおす。
一連の流れを見ていた警察官は表には出さないが内心焦っていた。

(やばい・・ここまでの相手とは・・・。レベルが違いすぎる。どうすれば・・)

焦っている警察官を見て、にんまりと笑っている桃香が口を開いた。

「ふっふ〜ん!私達を倒したとでも思ったんでしょ!残念でした!ちゃんと生きてます〜!ザマァないわね!」

ふふふと笑い続けている桃香とは反対に今にも寝そうな猛が同じく口を開く。

「ん・・・遅かったな・・・。」
「あ!そう!それよ!あんた遅すぎ!!」
「悪い。少し、手間取った。」
「・・・まぁ・・来るの分かってたから・・ここでボーっと出来たけど・・・」
「私も分かってたけど!とっとと攻撃される前に来なさいよ!その所為で紗良泣いちゃったじゃない!!」
「ふぇ?・・・ふ、二人とも・・無事だったんだぁ・・」
「って、紗良?!何でまた泣いてるのよ?!」
「だってぇ!凄く心配したんだもん!!」
「・・・これは桃香が悪いだろ。」
「・・・うん。」
「ちょっとぉ?!私だけじゃないでしょ!猛も同罪よ!同罪!!」
「ん・・それは・・ごめん。」

そんなやり取りを見ていた警察官は夜幻に出来た一瞬の隙を見つけた。
今ここでやらないと勝てないと判断した警察官は雷でスピードを速くしつつその手に雷で作った千本を持ち、夜幻が気付く前に刀を振るように千本で攻撃した。
一瞬の隙を突かれた夜幻は攻撃に気付くのが遅れ、何とかかわそうと身を反らすが相手の攻撃が顔に直撃する。
攻撃を食らった後、すぐにその場から後退する夜幻。
顔を覆っていた面が顔へのダメージを軽減してくれたようだが面へのダメージが大きかったのかひび割れ、ついに面が壊れる。

その面から現れた顔を見た瞬間、紗良は息を飲んだ。

「う・・そ・・夜幻の正体って・・・と、徹君?」

そうそこに居たのは紛れもなく、友人の橘 徹その人だった。
だが、徹の力量はN・・・つまり属性がないはず。

「ど、どういう事?」
「・・・。」

紗良の問いかけに無言で答える夜幻・・・いや徹。
それに痺れを切らした桃香が叫ぶ。

「あーもぉ!何いきなり正体バレてんのよ!この馬鹿!」
「・・・事故・・だな・・。」
「事故?!事故じゃないでしょ!あの馬鹿が隙何てもんをみせたからでしょうが!余裕ぶっこいてるからこうなるのよ!この大馬鹿!」

言いたい放題の桃香に呆れた顔をする徹。
面が壊れ、正体を知った警察官は壊れたように笑い出す。

「あは・・あははは、そうかぁ、君だったんだ・・。
あーなんで気付かなかったかな〜?君だと気付いていれば何時でも殺せたのに・・・」
「こ、殺す?!」
「・・・物騒だな・・。」
「何時でもってどんだけ自身あんのよ!この変質者!」
「なら、やれるものならやってみろ。ただし、こいつらには手出しするな。」
「安心してよ。君を殺した後に紗良ちゃん以外の二人も一緒に葬ってあげるからさ!」

雷で出来た千本を徹へと放つ。
それを避けつつ距離を縮め手に持っている棍棒と腰辺りにある皮で出来た武具入れから短槍を引き抜き、棍棒と繋げ、槍と化した武器で避け切れなかった千本を打ち払う。
千本の数を増やしつつ攻撃を続ける警察官へ距離を縮め、槍が届く範囲まで近づいた時、徹の手から槍の先へかけて炎が覆い始める。
それと同時に徹の周りに蛍のような小さい火の玉が浮かぶ。

「何をしても無駄だよ!攻撃は僕の方が速い!」
「・・・確かにあんたの方が速さに関しては勝ってる・・が、それだけじゃオレには勝てない。」
「何?」
「それに気付かない時点であんたの負けだ。」
「負け?この僕が負け・・だと?・・・ふ、ざけるなぁぁぁぁぁ!!」

激昂したと同時に警察官の力が増幅する。

「僕は負けない!この力がある限りは負けない!負けるのはお前だぁ!!」

さっきまでの数よりさらに増加した千本を徹へと放ちまくる警察官。
それを周りに浮かせてある火の玉で打ち消しながら一歩ずつ距離を縮めていく徹。
近づいてこられている事など忘れ、ただ己の欲望のままに千本を放ち続ける警察官。

「死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇ!!」

放つ毎に力が増幅されていくが変わりにどんどんと警察官の思考は麻痺し、言動が可笑しくなっていく。

「あ゛あああああああああ!!」

思考が吹っ飛んだのか意味の分からない言語を発するようになった警察官。
そこには自分達の知っている警察官はもう居ない。
居るのは己の欲に負け、狂いながらも攻撃を続けている警察官だけだった。

「・・・あのままだと・・不味いよな・・。」
「ど、どうなるの?」
「分からないわ。ただ、このままの状態が続けば元には戻れないでしょうね。・・ていうか、あんな凶暴になるように挑発してんじゃないわよ!馬鹿徹!」

いつの間にか痺れが取れたのか猛と紗良の元へ移動しつつ切れる桃香とは反対に懇願するように叫ぶ紗良。

「徹君!お願い!お巡りさんを助けてあげて!!」

その発言に驚く桃香。

「はぁ?!ちょっと!紗良?!あんた何言ってんの?!あいつはあんたを攫って怖い目に合わしたのよ?!そんな奴を助けてって、どういうこと!?」
「う゛・・確かにお巡りさんに捕まって怖かったけど・・でも、お巡りさんはそこまでひどい人じゃなかった。私が知っているお巡りさんは優しくて良い人で地域の人にも信頼されて・・・だから、こんな風になった原因がどこかにあるはずなの!桃香も知ってるでしょ?」
「それは分かってるわよ。でも、あの変質者も言ってたけど、ずっとこうすることを望んでたのよ?それなのにまだ信用出来るの?私は無理。あんな風になったのも自業自得よ。」
「桃香・・。でも・・でも・・」

見かねた猛が徹に尋ねる。

「・・・・どうする・・徹?」

未だに狂いながら攻撃を続ける警察官の攻撃をかわしつつ猛に答える徹。

「桃香の言う通り、今回こんな事件をここに居る警察官は起こした。だが、何らかの原因があるのならそれを突き止めなきゃならない。それに・・・」

グッと足に力を込め、その勢いで走り一気に距離を詰める徹。
そのまま懐に入り、左胸・・つまり心臓に向かって槍を突く。
突かれた衝撃で動きが止まる警察官。
その光景に目を背ける紗良。
猛が安心させるように頭をぽんぽんと叩きつつ良く見るように伝える。
恐る恐る背けた目を戻すと丁度、槍をゆっくりと引き抜いている徹の姿が目に入った。
徹が槍を引き抜くと同時に警察官の力が急激に低下し、そのまま地面に倒れ伏す。
引き抜かれた槍には血は付いておらず、その代わりに先程警察官が見せていた札が付いていた。

「えっ?えっ?」

どういう事は分かっていない紗良はあたふたする。
分かっていないといえば桃香も同じだった。

「ちょっと、どういう事?私に分かるように説明しなさい。」

チラッと警察官が完全に気を失っている事を確認した後、説明する為に桃香達の元へ向かう。

「まずはオレが何で相手を挑発したかから話そうと思うが・・猛の傷を治してからの方が良いか。」
「ん・・・俺は大丈夫だから・・話してやってくれ・・」
「何よ、その言い方だとあんたは分かってるって感じね。」
「んー・・なんとなくだけど、予測は付いてる。」
「って、分かってるなら言いなさいよ!」
「いや・・・だから・・・予測だけ・・なんだが・・。」
「っと、話してもいいか?あまりこんな事で時間をかけたくないからな。」
「あんたが分かり難い事するからでしょ!」
「それは悪かったって。」
「ふん!もう良いわ!早く言いなさいよ!」
「はぁ・・。」
「えと・・徹君?」
「ああ、悪い。っと、挑発した理由だったな。」
「うん・・。」
「挑発した理由はまず相手の力がどこまで上がるのか、次にその原因は何かを調べる為。」
「力を上げたら、徹君が危ないんじゃ・・」
「だから、蛍火・・あ、さっきの小さい火の玉を防壁として使用していたんだ。」
「確かに攻撃は受けてないわね。」
「でも、それで原因は分かったの?」
「ああ、お前らからは見え難かったかもしれないが左の胸元から微弱だが光っているのが見えた。」
「それって・・」
「さっき、あんたが槍で引っ張り出した札ってこと?」
「そうだ。」
「じゃあ、原因って・・・札ぁ?!」
「ああ、この札だ。」

ぴらっと人差し指と中指で挟み、三人に見せる。

「・・この札が原因なら・・・黒幕は・・・」
「ああ、猛が思っている奴で合っている。」

紗良は傾げ、桃香も初めは分かっていない様子だったがどうやら、気付いたようだ。
自分だけ分からないので徹に聞こうと声をかけようとした時、ジャリと音をたて必死に立ち上がろうとしている警察官が見えた。

「と、徹君!」
「!?」
「・・・気絶してたはず・・・」
「しつこいわね!」
「ま・・だ・、僕には、あ、あの人がい・・居る・・。」
「・・・・。」
「ぼ、くは・・まだ・・・負けてな・・い」

ふらふらとしながらこちらへ近づこうとしている。
徹はもう一度、気絶させようと一歩足を踏み出そうとしたが突如、一本の矢が警察官の背後から胸元に貫通した。
そのまま大量の血を流しながら倒れ込み、そして動かなくなる警察官。
突然の出来事に反応が出来なかった紗良は顔を背ける事もなく直で見てしまい、カタカタと震えだす。
それに気付いた桃香が見えないように紗良を抱き締める。
急いで、警察官の下へ向かい、手を首元にあて脈を測る。

「・・・容態は・・?」

猛の質問に無言で首を横に振る徹。
それを見た紗良は桃香の胸で泣き始める。

「徹、悪いんだけど一刻も早くここから紗良を離れさせたいんだけど!」
「そうだな。先に外に出ててくれ。オレと猛で後はやっておく。」
「頼むわ!・・・ほら、紗良行くわよ〜!」

出来るだけ明るく勤めながら、紗良に見せないように配慮しつつ外へと連れ出す桃香。
泣きじゃくりながらも桃香と一緒に外へ向かう紗良。
二人が外に出たことを確認した後、徹と猛は血を流し倒れている警察官と気を失っている男の下へと足を運んだ。






数十分後、パトカーや救急車がけたたましい音を鳴らしながら到着した。
そこから逃げるように徹と猛が桃香と紗良の下へ移動する。


「後はあいつらに任せれば大丈夫だろう。」
「そう・・・っで?何時の間にあんた手当されてんのよ。」

桃香の言う通り、すでに猛の傷口は手当されている。

「んー・・向こうで徹に手当してもらった・・。」
「あっそ、んで?これからどうすんのよ?」

聞いておきながら、即行で話を切り替える桃香。

「もう少し、心配してやったらどうだ?」
「これだけ歩けて、普通に話せてるのなら大丈夫でしょ!」
「まぁ、そうだが・・・。」
「・・・それで・・どうする?」
「ああ、悪い。・・・一旦安全な場所に移動するか。」
「・・・あそこか?」
「まぁ、そうなるな。紗良も知ってる場所になるからな。」
「私も知っている場所?」

落ち着いたのか泣き止んでいる紗良に徹は頷く。

「ああ、だからこのまま移動する。」

そう告げた後、徹を先頭に四人は安全な場所まで移動を開始した。




数十分歩き、着いた場所は母校だった。
紗良は戸惑いつつも徹と猛と桃香に着いて行く。
そのまま着いて行くと理科室に着いた。
徹がドアを開け、中に入ればそこには理科の担当をしている塒勾先生が椅子に腰掛けながら、こちらを向きニコニコと笑っていた。

「ふふ、皆お疲れ〜。」
「塒勾せんせーい!すっごく疲れたぁー!!」
「桃香ちゃん、すっごく頑張ってたもんね〜?はい、ご褒美のメロンだよ〜」
「わぁーい!メロン!」
「・・ねむい・・・」
「全く疲れた感じじゃないぞ、桃香。それと餌付けするなよ塒勾。あと・・・ここで寝るな、猛。」

さっきまでの雰囲気とは打って変わり和やかな感じになっている。
その事に若干ついていけてない紗良は近くに居た徹に話しかける。

「あ、あの徹君。これ、ど、どういうこと?」
「ん?あー・・・そういえばちゃんと説明せずにここまで着いてきてもらってたよな。」

苦笑混じりにそう言えば、それに頷く紗良。

「まず、簡単に説明するとオレ達の正体を知ったかr・・「あ、ああああの、く、口封じのた、ため?」

”正体を知った”という言葉を聞いて、何を勘違いしたのか体を震わせ、目を潤ませつつ徹の話を遮る紗良。
徹はその様子に唖然とした顔を一瞬するが話し合いだけの事だと告げる。

「あ、いや・・違うから。そういう怖いやつじゃないから安心してくれ。」

その言葉にほっと胸を撫で下ろす紗良。
若干、苦笑し続けつつも話を戻す徹。

「っと、正体を知ったからどうこうする訳ではなくて、オレ達の事について説明をしようと思ったのとあまり思い出したくないかもしれないが捕まっていた間に何か聞いた事・・例えば紗良がなぜ捕らえられたのかとか・・・そういうのを教えてほしいだけなんだが・・ちなみに無理強いはしないから、言いたくなければ言わなくても大丈夫だ。」
「そ、そうだったんだね。ううん、大丈夫。私の話で徹君達の力になれるのなら、話すよ。」
「悪い、助かる。」
「もー!ほんっと、あんたは良い子ねー!」

いつの間にかメロンを食べ終えた桃香が紗良に抱きついた。
それに驚く紗良、今にも寝そうな猛、それを呆れ顔で見ている徹、未だに抱きついている桃香達の様子をじっとみていた塒勾が声をかける。

「っと、そろそろ話した方が良くないかい〜?徹君」
「ああ、そうだな。まずはオレ達の事から話すか・・ちなみにどこまで知ってるんだ?」
「え、えと・・桃香がDCで色んな強い人と戦ってる事・・お巡りさんが言ってた徹君が夜幻って事・・・猛君もDCだって事ぐらいかな・・」
「そうか、かなり話をしてたようだな。」
「うん。」
「紗良が言った通り、オレと猛もDCでそこに居る塒勾も情報収集として動いてくれてるんだ。DCとして任務を行ったりしているが、オレや猛が動いている話は聞いた事はないだろ。」
「うん、桃香がいつも任務してるっていう話は聞くよ?でも・・それはどうして?」
「本来なら身元が割れ、その家族、知り合いに害が及ぶことのないようにバレずに動かなければいけないんだが、桃香はそれをあっさり破ってな・・。」
「あら、私が悪いっていうの?」
「ほぼ、悪いだろ。・・まぁ、その反面任務をする時にある場所で騒ぎを起こして本来の任務を悟らせないように動いてくれている事には感謝するが・・」
「ふっふ〜ん!もっと感謝しなさい!」
「あのな・・・。」
「じゃあ、本来なら桃香もバレないようにしなくちゃいけなかったって事なの?」
「まぁ、そうなるな。」
「でも、何で隠す必要があるの?」
「さっきも言った通り、身内に害が及ばないようにする事だ。」
「でも、徹君達は強いんじゃ・・・」
「例え強くても、人には必ず弱い所がある。そこを突かれれば倒せる相手も倒せなくなる。」
「その弱い所って・・」
「ああ、身内とかを人質にとられたりとかだ。」
「・・・でも、こちらに分があれば大丈夫だけど・・」
「その時の状況にもよるな。」
「そうだったんだ・・」
「まぁ、簡単にオレ達の事をまとめると裏で事件を解決してるってところだな。」
「で、でも何でこんな事を?」
「それは・・・」

一瞬、言葉を詰まらせたが意を決したように再び話だす。

「・・・以前から起っている事件の犯人がどうやら、オレと関係している人物の所為だということが分かった。」
「関係のある人物?」
「ああ、その人物は昔から兄のように慕っていた男なんだ。」
「な・・・」
「その男を止める為にオレは動いているって言うわけだ。」
「徹君が何でこんな事をしてるのかは分かったけど・・桃香や猛君が何で一緒に動いているの?」
「私は、面白そうだから一緒に行動してるだけよ〜。」
「・・・俺は・・・徹と同じ。」

二人の理由も聞き、桃香に関しては案の定というか想定内の答えについ笑ってしまう。
その様子を見ながら、徹が話しを締める。

「・・・という訳だ。話が分かり難かったら悪い。」
「ううん!大丈夫!徹君達の事がちゃんと分かったよ。」
「そうか。」
「っと、僕達の事に関しては話終えたけど〜、そういえば、な〜んで、今回は紗良ちゃんを狙ったんだろうね〜?」

塒勾が疑問をぶつける。

「あ、それ私も聞きたかったのよ!私の大事な大事な紗良を攫ってくれちゃって!」
「桃香!お、落ち着いて!」
「落ち着いていられないわよ!あいつら、何が目的なわけ?!」
「はぁ、桃香は放っておいて・・・紗良、何で捕らえられたか教えてもらってもいいか?」
「う、うん・・私も良く分かってないんだけど、お巡りさんが言うには私には”巫女”っていう力があるかもしれないからそれを確かめる為にって・・」
「巫女?」
「うん。」
「・・・塒勾、知ってるか?」
「んー、残念ながら僕も初めて聞くね〜。まぁ、一度あの手この手で情報を集めてみるよ〜。」
「そうか・・大変だと思うが頼む。」
「ふふ、全然大変だとは思ってないよ〜?君の為になら、情報集めなんて容易いからね〜。」
「サンキュー。」
「っで?これからどうするつもりなのよ?」
「そうだな・・・桃香には紗良の護衛として動いてもらいたい。」
「あら?そんな任務、いつもの事じゃない。」
「今回ので敵が多くなるから、気を引き締めなおしてほしいって事だ。」
「ふ〜ん、まぁ、いつも通りにやっちゃえばいいわね。」
「・・・あまり、大事にはしないでくれよ。」
「はいはい。」
「・・不安になるな。」
「・・・・・・・・俺は?」
「ああ、猛はオレと一緒に桃香のサポートに付いて欲しい。」
「んー・・了解・・」
「っで、塒勾はこのまま情報収集に当たってほしいのと他のメンバーにも連絡を入れて置いてくれ。」
「ふふ、オッケ〜。すぐに連絡しておくよ〜。」
「後・・今回使用されたこの札も調べて欲しい。」

懐から警察官が使っていた札を取り出し、塒勾に渡す。

「昨日のとはまた違った感じの札だね〜。まぁ、分かり次第連絡するよ〜。」
「ああ、頼む。・・・最後に紗良は、一人で出来るだけ行動しないように気をつけてほしんだが・・」
「う、うん!頑張るね!」
「よし・・・じゃあ、明日から皆頼む。」

全員が頷くのを見届けた後、徹はこれから起こる事が最悪の事態にまで発展しない事を祈った・・。


to be continue...


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はい、やっとこさ第三話の更新が出来ました・・が!
長い!今んとこ一番長い!
もう、読むの嫌になりますよね・・。(汗
でも、ここまで読んでくださった方感謝感激雨霰です!

次回もお楽しみください!(ぇ?


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あきゅろす。
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