版権-中編
『あの日と、別れの晩餐』

誰よりも綺麗な君を汚したくはないから。
失ったものは、もう戻らないから。…御剣、ごめん。そして、ありがとう。

──… 七年の月日が流れた。僕はまだあそこから動けないでいる。けど、真実は暴かれた。
ボーっと空を見上げていると、背後で聞き覚えのある鎖の音がした。気付かないフリをし続けた。

「すいませんでした」

「…どうして、君が謝るのかな?」

感謝してほしい、っていうのは少しおこがましいか、とうなだれる彼に振り向いた。

「あの日の法廷の後、成歩堂さんの電話を聞いたんです」

「別に、どうでもいいんじゃないのかな。…君には関係のないことだからね」

何も言い返せない彼の横を通り、そのままいるのかもわからない人の家に向かった。見上げるマンションは相変わらず高いままで、無駄に空が高い。

「成歩堂?」

そこには御剣がいた。
笑うわけでも、泣くわけでもなく、僕は彼を見た。

「そうだよ、御剣」

促されるまま僕は彼の部屋に入った。長い間、感じることができなかった暖かさが、胸に残る気がした。
時計の音だけが妙に、響いている。部屋の中をゆっくりと、懐かしい紅茶の香りが包む。

「…御剣。ヒビ、深くなった?」

テーブルに2人分の紅茶を出たところで、僕はソファーに腰かける御剣に話しかけた。

「…誰かのせいでな」

抱えていた頭を軽くあげ、御剣は言った。
何も話さないまま、時間は虚しく過ぎていく。オレンジの光が部屋を照らす。冷えて渋くなった紅茶を流し込んだ。

「…ありがとう」

信じてくれて、わかってくれて、愛してくれて。
これでもう、本当にもう、僕たちは戻れない。

ニットを深く被りなおして、立ち上がると御剣が呼び止めた。

「久しぶりに2人で、食事しないか?」

彼の表情はあの頃と変わらない。僕だけに見せる情けない顔。
わかっている。
拒絶されるかもしれない、という不安からくるということを。

「君のおごりなら」

あれから成歩堂は、御剣の家で髭を剃り、スーツを着るなどと、身なりを整えた。
着いたそこは、夜景が見える"超"が付く程の高級ホテルの一室。わざわざ部屋まで料理を運んでもらうという待遇だった。
料理もそろそろ終盤というときに、御剣が真っ直ぐと僕を見つめ、テーブルに何かを置いた。

「今までずっと、これからもずっと、愛している」

さようなら、と言われる気がした。捨てられると思った。…嫌われていると感じていた。

けど、

御剣は、こいつは、ずっと、ずっと、七年も俺を、俺だけを愛している。…愛し続けている。

「…御剣っ」

今まで抱えていた緊張が消え、熱いものが頬を包み込む。

好きだと、愛していると、伝えたいのに、御剣の言葉で胸から溢れて、うまく言葉にできない。


『あの日と、別れの晩餐』


ただ、ただ僕はあのとき、彼の服を握りしめ続けることしかできなかった。

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あきゅろす。
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