逆転(BL)
それは承諾のシグナル(ミツナル)
会いたい
話したい
そう、言えればいいのに、
言えない
忙しいだろうから
とか
もう、大人だから
とか
いろいろ考えて結局、ケータイをただ眺めるだけで終わる。
「……御剣」
ゆっくりと、僕は目を閉じた。フッと得意気に笑う顔が一瞬浮かんで、掠れるように消えた。
──…
『…いつ会えるかわからないが、時間があれば、連絡を取ろう、成歩堂』
「いや、いいよ。忙しいなら休んでくれ。法廷で倒られちゃ、困るから」
『だ、だか、』
「お前絶対無理するだろ」
グッと声が詰まる音がした。ハハハ、と自然と心が緩んだ。
「大丈夫だよ、御剣。寂しくなったら夜中でも電話するから」
『矛盾してるぞ』
うん、と頷くと胸が苦しくなった。まるで、これが最後かのように。気が昂って思うように言葉がでない。
……ダメだな、ほんと。
『…成歩堂?』
「ほんと、ダメだな僕。なんか急に不安になった、なんて」
『…私は宣言しよう』
「…?」
『成歩堂以上に愛する人はいない、と』
「ばっ、恥ずかしいこと言うなよ!」
ぶわっと汗が噴き出す。自分でもわかるくらい顔が熱い。
『恥ずかしい?なら、さっきお前が言った言葉はどうなんだ』
「え?」
『寂しくなったら電話する、急に不安になった、など、私と離れるのが嫌のように聞こえるが?』
電話越しできっと、いや絶対、御剣は得意気にさも嬉しいかのように笑っている。
…嬉しい?なぜ?
それはおそらく御剣も離れたくないと思っているから。寂しいのは自分だけじゃないとわかったのだから。
「…うん、嫌だよ。御剣が遠くへ行くのは、嫌だ」
『…成歩堂』
「…明日、会えるかな?事務所が休みだから、僕の家に来てよ」
あぁ、とやっぱり嬉しそうな声が聞こえた。
──…
「……末期、かな」
頭の中は御剣しかいない。会いたい、話したいetc.etc.挙げ句の果てには、ヤバい妄想まで始まる始末。
(こうなったら、電話するしかないっ!!)
数秒の電子音の後、繋がった。電話の向こうが人の声で騒がしかった。
『もしもし、御剣だ』
懐かしい、声。
今まで溜め込んでいた熱いものが込み上げて、溢れた。…あぁ、御剣だ。
「…御剣、」
『成歩堂か!?』
会いたい、話したい、会いたい、会いたい、会いたい。
御剣に、会いたい。
「会いたい」
やっと出た言葉は一言だけで、喉の震えを誤魔化すような音だった。
『今すぐ、会いにいく。どこにいる?』
「…事務所」
わかった、それだけ御剣が言うと、電話から車の扉が閉まる音がして、プツッと電話が切れた。
(…御剣が、来る)
そう思っただけで、頬が熱くなった。…久しぶりに会える。ケータイを握り締めていると、口角が上がる感覚がした。
「…成歩堂」
振り向くと、複雑な表情をした御剣が立っていた。
「久しぶり、御剣」
「あぁ、久しぶりだな」
言いたいこと話したいことはいっぱいあるのに、言葉がでない。静寂が部屋を包む。
「どうした、成歩堂」
御剣がゆっくりと近付き、抱き締めてきた。懐かしい匂いが自分を包む。
「会いたかったよ、御剣」
腕を背中に回し、肩口に額を埋めた。
「な、成歩堂っ」
頭上で慌てる声がしたあと、ぎゅうっと胸が痛くなるくらいにキツく抱きしめられた。
「…寂しくて、死ぬかと思った」
「私もだ」
「嘘つけ〜」
「ム、嘘ではない」
御剣の表情がフッと優しく緩んだ。
そのままクスクスと笑い合って、僕はこつん、と額を当てた。
「…誘ってるのか?」
射抜くような鋭い視線が獣の光を放った。
「…仕事は大丈夫なのか?」
「もちろんだ」
返事の代わりに、合わせるだけの口付けを押し付けるようにした。
『それは承諾のシグナル』
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