逆転(BL)
思い違いだったかな(響王)
失恋しました。
それは、初恋でした。
少し寂しくもありますが、何故か悲しくはありません。どこか安心している自分がいるんです。

──… 晴れ渡る少し肌寒い空の下で、公園のベンチで近くの自販機で買ったコーヒーを一口。……苦い、これが大人の味か、なんて。

「あれ、おデコくん。こんなところで奇遇だね」

振り向くとじゃらじゃら音を立てる検事がいた。後ろには丁寧に駐車された派手なバイクがあった。

「よくここに来るの?」

「いえ、たまたまです」

「どうしてここに、って言うのは少し野暮かな?」

いえ、と一言だけ返す。手元の少し温くなった缶コーヒーを見て、空を仰ぐと心地好い風が吹き抜けた。

「…失恋、したんです」

幸せそうに笑い、恋人の元へ事務所を出ていく彼は眩しかった。ただの憧れだったのかもしれない。けれど、とても幸せな日々だったのは間違いない。

「…年上で、恋人がいました。けれど、悲しくはないんです。少し、寂しいですけど」

そうか、と横でポツリと牙琉検事が呟いた。隣に牙琉検事がいてくれることがとても嬉しかった。

「牙琉検事、用事とか大丈夫なんですか?」

「うん、おデコくんは事務所に?」

はい、と言って立ち上がると牙琉検事も立った。

「おデコくん、少し、いいかな?」

はい、と真っ直ぐ俺は牙琉検事をみた。彼はいつになく真剣な眼をしていた。

「僕は、君が好きだ」

辺りは静寂で包まれ、春の香りを纏う風だけが吹く。

「こんなときに言うのは卑怯だってわかっている。気持ち悪いと思ってくれてもかまわない」

けど、と牙琉検事は言葉を区切った。…熱く、燃えるような強い眼差し。逸らすことが出来なかった、いや、したくなかった。

「この気持ちに嘘はないよ」

胸が歓喜に震えた。"彼"とは違う、切なくて苦しいものじゃなく、甘く淡い思い。

「わかりました」

「うん、じゃあ「わかったんです、牙琉検事」

少し呆けるような表情をする彼に、俺は優しく笑ってみせた。

「何故悲しくなかったのか、わかったんです」

言葉を区切り、真っ直ぐと牙琉検事を見つめる。

「俺も貴方が好きだったんです」

少し苦しそうな顔をした彼を見て、今までのことがすべてよみがえった。…彼には必要のない罪意識がある。

「そ、れは「恋愛感情です。はっきりとした」

牙琉検事が息を飲む声がした。
そして、ふっと彼らしくない情けない顔で笑った。

「この気持ちに嘘は、ありません」

にやり、と俺は笑った。一方牙琉検事は、髪をかきあげながらどこか嬉しそうに、困ったなぁ、僕には女の子たちがいるのに、と笑っていた。

冷えきった缶コーヒーを飲み干すと、胸が焼けるような甘い味がした。




『思い違いだったかな』(あんなに、苦かったのに)


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あきゅろす。
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