小説
小さな足音 4
小さな足音 4
男の名は佐倉諒(さくらりょう)
黒髪を短く切り揃え凛々しい眉毛に愛嬌のある瞳が印象的で白衣に包まれている身体はがっしりしており身長も高くスポーツ選手を彷彿させる体躯である。
諒は知春の三人いる兄の一人佐倉家の次男で洸輔と同じ病院に勤める医師でもあった。
三人は明かりの付いた検査室へ入って行った。
洸輔はゆっくり知春を検査台へ降ろすと上着を脱ぎ隣の籠に入れた。
知春は機器の前にある椅子に座り何かを準備している諒に向き直った。
「諒兄、今日夜勤?洸輔に呼ばれたの?」
「夜勤じゃなくて帰ろうかなって時に知のエコーするって小川先生にメールで呼ばれたんだよ。十中八九病気じゃねーから心配すんな。」
ニヤッと笑い諒は手指の消毒を済ませ近づいてきた洸輔に立ち上がり場所を譲った。
キョトンとしている知春の頭を片手でわしわしと撫でながら機器の前の椅子に座った洸輔を振り返り、ニヤニヤとした笑みを顔いっぱいに浮かべた。
「ねー、小川先生。身に覚えが数え切れないほど沢山ありますよねー、だから俺も呼んだんですよねー」
洸輔は諒の笑みに一瞬嫌そうな顔を浮かべ溜息をついた。
「諒、その笑い方気持ち悪いから止した方がいいぞ。私の知春に前兆があれば期待するのは当然だろう。」
二人の会話に知春の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになった。
ニヤニヤ笑ってる諒とちょっと照れた様な気まずい表情を浮かべた洸輔をキョロキョロと見回すと口を開いた。
「ちょっと洸輔と諒兄だけで話進めてないで俺にも分かるように説明してよ。」
知春は両頬を膨らませ、俺の存在を無視するな!!と拗ねはじめた。
拗ねはじめた弟に諒は知春の膨らんだ頬を両手で空気を抜く様に挟みこむ。
「おっ、可愛い顔」
楽しげに知春の頬を弄る諒に対して顔を挟まれた知春は手足をバタバタさせ「にょーにー!!」と抗議の声を上げた。
「おっと、知暴れるな。すまんすまんやり過ぎたか。ほれ、エコーするから横になれ。小川先生がお待ちかねだ。」
ぶすっとした顔になった知春は渋々診察台の上に横になり慣れた様子で上着をめくった。
「少し冷たいが我慢だぞ。」
二人の様子に呆れた顔をした洸輔は瞬時に医師の顔になり知春の腹部に検査用ジェルを塗りコードから伸びる機器をあてた。
先程までニヤニヤ笑いを浮かべていた諒も瞬時に医師の顔になり洸輔の後ろからモニターを真剣な顔で覗き込んだ。
暫く洸輔は機器を操作しつつ諒とモニターを見ていたがある所で手が止まると諒に視線を向けた。
「諒…間違いなさそう…だな。」
その問い掛けに諒は洸輔の手ごと知春のお腹にある機器を少し下に動かしモニターを見つめ大きく頷いた。
諒は洸輔に向き直りもう一度頷くと「間違いない。」と声を掛け、不安そうに二人を見つめていた知春に体ごと向き直り知春の手を握り締め破顔した。
「知…いや知春。おめでとう。3ヶ月ってトコだな。」
その言葉に知春は咄嗟に理解が出来なかったのかポカンとした顔をした。
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