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小説
小さな足音 3







小さな足音 3





「病院に行くぞ。」

洸輔は立ち上がり携帯を取出した。

ボタンを操作しメールを打つと側にあったブランケットを知春に巻き付け背中と膝裏に手を回し抱き上げた。

「…ちょ!!洸輔っ!!待って!!」

洸輔に抱き上げられた知春は訳も分からず、洸輔の首に手を回した。

「洸輔!!何で?今日夜勤じゃ…今から病院って、ねぇ洸輔!!」

知春を抱き上げ揺ぎなく歩き出す洸輔に慌てて知春は尋ねた。

洸輔の真剣な表情と少しの緊張感が漂う様子に不安が込み上げる。

怯えた様子の知春に気付くと歩みを緩め申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「あー、済まない。その…何だ…期待に少し気が急いてしまった。今日は急変しそうな患者さんもいないし救急も人手があったから任せてきたんだ。暫く知春との時間も取れなかったからな。まだ痛むか?嘔気は?」

いつもの様子に戻った洸輔に知春は安堵し首に回していた手の力を抜いた。

「ん…痛みはちょっと落ち着いた。−−−…洸輔…」

云い淀む知春に先を促すように洸輔は知春を抱く手に力を篭め「何だ。」と視線を向けた。

「−−−…洸輔…、お、俺何か病気なの?−−−…昨日の晩…吐いたし、今日もムカムカするし…ちっさい頃はよく体調崩してたけど大きくなってから大丈夫だったのに…」

目にうっすらと涙を滲ませ知春はギュッと首に回していた手に力を篭めた。

震える知春に洸輔は宥めるように目尻や額に唇を寄せ耳元に「大丈夫…」と囁いた。

「本当に?」

「心配しなくていい。病院に行って確認すればすぐに分かるよ。」

先程の雰囲気から一転、鼻唄でも歌い出しそうな機嫌の良い洸輔に何が何だか知春の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになっていた。





車に乗せられて洸輔の勤め先である総合病院に連れてこられた。

職員出入口付近の駐車場に車を停めると降りようとした知春は再び洸輔に抱き上げられた。

「ちょ、洸輔!!自分で歩けるよ!!」

洸輔はしっかりとした足取りで自動ドアをくぐる。

「しっかり掴まっていろ。」

「だーかーらー!!一人で…」

夜間灯のみの薄暗い廊下を意に介さず歩く洸輔に再度詰め寄ろうとした知春だが「静かに、病院内だぞ」と言われ口を噤む。

そんなやり取りをする二人に声が掛かった。

「ったく、検査室空けて待ってやってんのに何病院内でイチャイチャやってんだ。」

曲がり角からひょっこりと白衣を着た男が顔を出した。

「諒兄!?どうしてここに?」

その顔を見た知春は驚愕し思わず大きな声を出してしまった。

「知、ここは病院だから声を抑えて。」

めっ、と子供を叱るように知春を叱ると洸輔に向き直り口を開いた。

「小川先生、第二検査室空けましたから行きましょう。」

促すように歩き出すと洸輔も一緒に歩き出した。




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