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小説
小さな足音 2







小さな足音 2





ガチャ…パタン…

玄関で扉の開閉音が聞こえ玄関に背の高い男が現れる。

どこか男は疲れの滲ませた顔をして靴を脱ぎ、廊下とリビングを隔てるドアを開け辺りを見回す。

そしてソファに寝転がる知春を見つけると疲れを滲ませていた顔が一瞬にしてほっと和やかな表情になり暖かい眼差しを知春に送る。

ドアの前に佇む男は、身長が高くその身体を質の良いスーツに身を包んでいる。

漆黒の髪の毛を後ろに流しフレームレスの眼鏡を掛けており、レンズ越しの瞳は真っ直ぐに知春に注がれている。

しかしいつも男が帰宅すると必ず嬉しそうに笑顔でお帰りなさいという声がない。

いくら疲れて帰宅しようが知春の笑顔で癒される。

男はゆっくりとソファに近付きソファの背に手を着きそっと覗き込んだ。

そこにはクッションを抱きしめた知春がソファに寝転び眠っていた。

まだあどけない表情の残る知春の寝顔に再び表情を緩めるが、いつも眺めている知春の寝顔の様子が少し違う事に気付き眉を顰た。

いつもは穏やかな表情で眠っている知春は今は眉間に皴が寄り口から漏れる呼吸が短く速い。

うっすらと汗も滲ませている。

男はソファを回り込み知春の前に回ると手首に手を添え反対の手にはめている腕時計を見る。

「知春、知春起きなさい。」

男は知春の肩を揺さぶり顔に手を触れた。

「ん…えっ…何?…洸輔?えっ…な、何で?夜勤じゃなかったの?っつ!…」

起こされた知春はキョトンとした顔をして上半身を起こし目の前の男、洸輔を見つめたが、腹部に痛みが走り顔を顰た。

「知春。いつからだ?」

知春の顔を覗き込み医師としての顔をした洸輔が尋ねる。

優しく知春の髪の毛をかきあげ背中を摩る。

「んーっ、えーっと…いつからって…」

云い淀む知春に洸輔は心の中で溜息を抑えながら背中をさする手を休めることなく反対の手を知春の後頭部に回しゆっくりと自分に引き寄せた。

「知春、大丈夫。大丈夫だから云いなさい。」

「…怒らない?」

上目遣いに洸輔の瞳を覗き込み不安そうな顔を浮かべる。

「怒らないよ。怒らないから、いつから我慢してた?」

洸輔は幾分表情を緩め不安に曇る知春の頬に唇を寄せ先を促した。

その様子に安心したのか洸輔の上着を両手で掴み知春は口を開いた。

「…気付いたのは…数日前くらいで…お腹が変な感じ…で…何かムカムカしてる…かも…」

たどたどしく言葉を繋ぎ次第に顔が俯き洸輔の服を握る手にギュッと力が篭る。

頭の上からフゥ…という溜息が聞こえ知春は知らずビクッと身体が震えた。

その反応に洸輔は知春の背中をポンポンと宥めるように二回叩いた。

「怒ってないよ、大丈夫。知春…」

洸輔は知春の名を呼び顔を上げるように促した。

暫く待つと恐る恐る知春は顔を上げた。

そこにはいつもより真剣な眼差しをした洸輔が知春を見つめていた。









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あきゅろす。
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