小説
小さな足音
小さな足音
ある日のこと…
知春(ともはる)はここ数日下腹部にある異変を感じていた。
「んー、何か調子が良くないよなー」
と、声に出して不安に感じる気持ちを少しでも和らげ様とするがあまり効果はない。
下腹部を擦りながら病院に行こうかどうしようか悩む。
さすがに数日続くと大丈夫だと思っていた心に不安は重くのし掛かる。
我慢出来ない痛みならすぐにでも足を運ぶのだが、痛みではなく違和感というか今までに経験した事のない異変なのだ。
「洸輔(こうすけ)に言ってみようかなぁ…」
一緒に住んでいる知春の恋人は小川洸輔と言う名で都内にある総合病院で医師をしている。
19歳の知春より18歳年上の37歳で仕事に忙しく一緒に住んでいても顔を合わせる機会は余りなく、そんな事で心配を掛けるのも申し訳ない。
家で顔を合わせられる時は仕事の事を考えず出来るだけ穏やかな時を過ごして貰いたい。
「何だかなー」
はぁ、と大きなため息がもれる。
考えてもどうなるものでもないので取り敢えず夕食の準備に取り掛かった。
「今日は洸輔夜勤って言ってたから適当でいいか」
やはり一人分作るってのは面倒臭いもので腹部の違和感も続いているし食欲もあまりないので冷蔵庫の余り物で済ませてしまう。
早々と食事を終らせ洗い物も済ませてしまう。
学生である知春は今は夏休み。課題も出来るものはさっさと済ませてしまいバイトも洸輔に「駄目だ。」と却下されてしていない。
多少バイトに関してはごねてみたが「二人の時間がなくなる」と言われてしまえば引き下がるしかなく…
友達と会うのも昼間なので夕食以降家に大抵居る知春は洸輔が居なければ一人で過ごす事になる。
洸輔が知春が夜に出歩く事を心配するので知春は夜に出歩く事はしない様にしている。
知春自身特に夜に出歩く事はしないし何か用事があれば外出するがちゃんと洸輔に行き先と帰宅時間を告げてから出掛ける。
何とも19の男子が律義な事でと周りからは苦笑付きでよく言われるが両親からそう教育されているし、知春は恋人と一緒に住んでいるのだから最低限のルールだと思っているので特に気にはしていない。
いないのだが、
「うーん、暇だ…」
壁に掛かったよ時計を見上げてもまだ宵の口。
お風呂に入って寝るとしてもまだ早い。
一つ何とも言えない息を付きソファに寝転がりテレビのリモコンをカチャカチャしてみた。
しばらくチャンネルを変えてみたが特に見たい番組があるわけでもないので、電源を消してしまう。
テレビを消すと何の音もなくシーンと部屋が静まる。
耳を澄ませると時計の音だけが響く。
「洸輔早く帰って来ないかなぁ…」
呟いてみても夜勤を勤めている恋人が帰ってくるはずもなく…
知春はクッションに顔を埋めため息を押し殺す。
しばらくすると最近眠りの浅い知春はスースーと眠ってしまった。
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