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小説
思いやり








思いやり






 「…眠ぃ…」

アクビを隠そうともせずに大口を開けてコータが言う。

アツシはベッドを整え、掛け布団をめくると、

 「コータ、おいで。」

ポンポンと布団を叩きコータをベッドに誘う。

コータは緩慢な動作でベッドに寝転がった。

布団は今日干していたからふかふかしてるのを知っている。

暫くモゾモゾしていたコータが少し端に寄り、愛用の兎の抱き枕を抱える。

 「…アツシも…」

そう云うと後ろ手にポンポンと布団を叩いた。

 「はいはい、おーせのままに。」

普段甘える事をあまりしないコータの可愛いお誘いに、アツシはにやける顔を隠すことなく、言いつけどおりにコータの隣に入り込んで、何時もより体温の高いコータを後ろから抱きしめた。

コータの細い下腹部に手のひらをあててそこを撫でると、少しむくんだ顔にうっすらと浮かぶ冷や汗を拭い、頭のてっぺんにキスを落とす。

 「大丈夫?寝られそう?」

 「…もう少しで効いてくるからもうちょっと…」

 「…代わってあげたいけど、代わってあげれないから、少しでも早く治まるように…」

そう云いながらアツシは下腹部にあてた手を優しく優しく動かし、撫でる。

コータはその温もりに安堵しつつも、意識が遠退いては下腹がじんわりと内臓を圧しては返す痛みに覚醒する。

ウンザリとした気分でコータは、毎度の事ながら嫌になるよなぁ…と思った。

 「俺の場合は今だけだから。始まればわりと平気。ひどい人は、頭痛とか不定期とか量が多かったり、日にちが長かったり、食欲なくなるとかあったりするみたい。まぁ、精神的に影響するのも大きいけど…」

 「そうなのか? コータは近い将来、俺達の子を産む大事な躯なんだから、大事にしないと。痛かったらすぐ言って。代わってあげることは出来ないけど、いっぱい撫でるから」

後ろからコータを抱きしめているアツシは何度もコータの腹を愛しくてしょうがない、というふうに慰めた。

病気のようで病気でない、死ぬわけではない。

……でも、心と身体が、毎度訪れる痛みや倦怠感に疲弊し、大丈夫…、側に居る…、という言葉や暖かい体温を欲している。

まず、独りで痛みをやり過ごす術を覚えた。

なかなか理解されにくい痛みの感覚は、同じ境遇の間柄でも千差万別だ。

ましてこの苦しみを体感出来ない男はもっと理解出来ないだろう。

頑なにその方法でしか自分を守れないコータに、この男はコータの欲しい言葉と体温を無条件でくれる。

始めは抵抗があったが、根気強く暖めてくれるアツシに、二人で乗り越える術を覚えた。

コータはアツシが穿かせた腹巻と、毛糸のパンツと、厚手の靴下のちぐはぐな色を思い浮かべクスクス笑い、これまたアツシに貰った兎の抱き枕を力一杯抱き寄せた。

頂に掛かるアツシの息がこそばゆいのも、嬉しい。

下腹部を撫でる手も、優しい。

背中に感じる温もりも、愛しい。

コータはうっすらと微笑み、うつらうつらと眠りに引き込まれる。

下腹部のじんわりした痛みに引き戻される事もない。

完全に眠りに引き込まれる前にコータは口を開いた。

 「アツシ…ありがとう…暖かいよ……嬉しい……ありが……と………う……」

近い将来、この男の子供を産みたい。

こんなに自分を大切にしてくれている……愛しいこの男の子供が早く授かればいい…

十月十日、我が身の腹の中で育ち、想像できない痛みに耐え、この男の子供を産む。

まだ居ない子供を愛おしく思い、コータは下腹部を撫でるアツシの手に自分の手を重ねた。

そしてそのまま夢の世界へと旅立つ。


夢で、アツシとまだ顔も分からない愛し子に会えたらいいなぁ…とコータは思った。





END





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