小説
小さな足音 拍手御礼SS 3
小さな足音 拍手御礼SS 3
20100813〜0913
赤、黄色、紺色、ピンク、水色、オレンジ、色とりどりの浴衣に花や蝶々といった模様が咲き乱れ、人、人、人に溢れた道路は皆同じ方向に向かって歩いており、道の両側には活気に満ちた出店が並び様々な食べ物の美味しそうな匂いが鼻を擽る。
その中、紺色の仁平を着た知春は傍らの咲良に声を掛けた。
「咲良、手離すなよ。」
「……あい…。」
白地に色とりどりの金魚の絵柄の描かれた浴衣に黄色とオレンジの帯を締めた咲良は右手は知春と手を繋ぎ、左手は林檎飴ならぬ苺飴を握り締めあちらこちらとキョロキョロし知春の言葉に返事は返したものの意識は違う方へ向き今にも飛んで行きそうな雰囲気だ。
知春は「ダメだこりゃ…」と呟くと小さな身体を抱き上げた。
「迷子になったら大変だからな…洸輔?」
隣に居たはずの洸輔の姿が見えず知春は左右を見渡す。
咲良は抱っこされても興味津々にあちらこちらを首を捻り見渡している。
しっかり捕まらない咲良を抱え直しながら知春は洸輔を探す。
「洸輔何処行ったんだよ、咲良より先に迷子になるなっつーの」
暫く洸輔を探し後ろに振り向き目を凝らすと少し後ろの方で背を向けたグレーの浴衣に包まれた洸輔の姿を見付けた。
「あっ居た。洸す…け…って、あんニャロー!!!」
洸輔の姿を見付けたはいいが知春は洸輔の傍らに綺麗な浴衣を着た2〜3人の女の子が親しげに話し掛けている所を目撃したのだ。
「くっそー!!!何でアイツだけ!!!!!」
ドスドスと足音荒く近付けばにこやかに対応している洸輔の姿に頭に血が上る。
今日の洸輔はグレーの浴衣を着流しいつも上げている前髪は下ろしている為柔らかい印象になっている。
長身で大人の雰囲気ムンムンの洸輔はすれ違う殆どの女性の視線を集めていた。
ちくしょー!!女の子独り占めかよ!!俺だって女の子に声掛けられたい!!!…と、少々違う方向の嫉妬をしていた知春は抱っこしていた咲良を下ろした。
「咲良!!お前に重要な任務を遂行してもらう!!」
「あい!!」
知春は咲良の前にしゃがみ込み咲良の両肩を掴み目線を合わせる。
咲良は任務の遂行云々の難しい言葉は分からなかったが知春に名を呼ばれたので元気に手を挙げ返事した。
「咲良、あそこにとーちゃん居るから綿菓子食べたいって云ってきな。」
「パパ、わわがし?」
首を傾げ咲良は知春の云う事を復唱した。
「あー、甘いフワフワ食べたいって云うんだ。」
「あまいふあふあ!!」
フワフワに反応した咲良は瞳を輝かせ脇目も振らず洸輔に突撃をしに行った。
ガシッ!!!と洸輔の足元にしがみついた咲良は上を見上げ、
「パパ!!あまいふあふあ!!!」
ふあふあ!!と跳ねる咲良に女の子達はビックリし、洸輔は蕩ける様な笑みを浮かべ咲良を抱き上げた。
「パパ、あまいふあふあ!!!わわがしふあふあ!!!!」
抱き上げられ嬉しそうに咲良が喋る。
洸輔の笑みにうっとりしていた女の子達は咲良の「パパ」という言葉に反応した。
「あのー、お子様…ですか?」
一人の女の子が恐る恐る尋ねてきた。
洸輔は咲良に向けていた顔のまま振り返り、
「ええ、可愛いでしょ。ほら咲良、お姉さんにご挨拶は?」
「おねーさん、こんばんわ。」
ペコリと頭を下げて咲良は挨拶をした。
「咲良、綿菓子食べたいのか?」
「あい、まーわわがし、パパとふあふあする!!」
「ママが綿菓子食べたいって…咲良、ママが云ったのか?」
「あい、まーわわがしふあふあ!!しゃくらいってらっしゃいって。」
「ほう、行ってらっしゃいか…」
ニヤニヤ笑う洸輔に二人の会話を聞いていた知春は、しまった!!という顔をしてキョロキョロ逃げ場所を探したが逃げる前に、
「失礼、妻がやきもちを焼いているみたいなのでこれで失礼しますね。」
にっこりと女の子達に笑い掛け唖然とする女の子達を尻目に知春の方へ向かい咲良を抱っこしていない方の腕を知春の腰に回した。
「…誰がやきもち焼いてるって…」
じと目で洸輔を見上げるとグイッと腰を引かれニヤニヤ笑う洸輔の顔が近づいてきて唇が軽く重なる。
「ばっ、外だぞ!!」
「祭りもたまにはいいな。」
締まりのない洸輔の顔に知春はがっくりと肩を落とした。
「あー!!しゃくらもちゅー!!パパちゅー!!」
へこむ知春の頭上で咲良が洸輔にキスを強請る。
「よしよし、咲良にもちゅーしような。」
楽しそうにチュッチュしている二人に知春は大きなため息が漏れた。
その後ろでは大きな音を響かせ夜空に花火が打ち上げられ大輪の華を咲かせていた。
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