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小説
穏やかな日常 2







「イッセイ…、また駄目だった…」

ユエンはイッセイに何とも言い難い微笑みを浮かべ謝った。

その微笑みは、普段闊達なユエンからは掛け離れた微笑みだった。


獣人のイッセイと人間のユエンが番になって早3年、今だ子供に恵まれなかった。


元々獣人と人間の間には子供は授かりにくい。

ましてイッセイとユエンは男同士。授かる可能性は更に低い。

男女間での受胎は獣人、人間共に変わりはない。

しかし、男の獣人同士と獣人と人間の男同士の場合は受精器官がないためそれを作る所から始まる。

それはヤクトの実という桃の果実に似た別名受胎の実を食べる事により受胎が可能になる。

ヤクトの実を食べる事により卵核→卵膜→卵室という過程を経て子が成されるのだ。

しかし、卵核が出来て受精可能になっても7割が卵膜が出来る前に受精できなかった卵核が剥がれ落ちてしまう。

そして無事に卵室が出来て妊娠した目安に卵室が出来た方の髪と瞳の色が子供を産むまで父親似になっていく。


とても胸の痛む表情を浮かべ謝るユエンにイッセイは小柄なユエンの体を抱き寄せた。

「ユエン、何も謝る必要はない。ユエンが悪いわけではないのだから。」

イッセイの言葉にユエンは暖かいイッセイの胸に額を擦り付けながら首を振る。

そしてイッセイの顔を見上げ

「…っ、でも!!…でも、イッセイに早く、早く子供抱かせてあげてーんだよ!」

大きな黒い瞳を潤ませ必死に涙を堪えながらユエンは言い募る。

イッセイの服を掴む手が小刻みに震えている。

普段は元気で明るい笑顔をイッセイに見せるユエンだが何時にない悲痛な表情に、イッセイはユエンを抱き上げ側にあるソファに座ると膝の上にユエンを降ろし濃紺の髪の毛を優しくかき上げ顕になった額に口づけた。

ユエンの俯いた顔を優しく上げ瞼や頬にも口づける。

ユエンは優しい口づけにほっ、と身体の力が抜け手の震えも止まる。

イッセイはユエンを真っ直ぐ見つめ微笑むと、

「ユエン、子は神よりの授かり物だ。そう急く事はない。私に早く子をというお前の気持ちも嬉しいが、子が出来るとお前の事だ。私より子を優先しそうだ。そうなると私は少し…いや、かなり拗ねるぞ。」

イッセイの言葉にユエンはいつもの闊達な笑顔を取り戻し、

「イッセイ拗ねるって…アハハッ、イッセイ拗ねるんだ!しかも少しじゃなくてかなりって!!」

イッセイの膝の上でユエンは楽しげに笑った。

イッセイはそんなユエンを愛おしげに見つめ顔中に優しく唇を寄せる。

「そうだ、私は拗ねるぞ。」

再びイッセイは言葉を重ねる。

普段はあまり口数も多くなく冗談もあまり言わないイッセイの言葉にユエンはとても暖かいもので全身を包み込まれる感覚を感じた。

それが爪の先まで浸透する。

ユエンは何かに衝き動かされるようにイッセイを抱きしめ耳元に囁いた。

「ありがとう、イッセイ。」

その言葉にイッセイもユエンを強く抱きしめ、

「ユエン、愛してる。」

と囁いた。

イッセイは普段あまり口数は多くないが愛の言葉は恥ずかしげもなくユエンに囁く。

「なっ…!!」

愛してると臆面もなく告げられピクッ、とユエンの肩が震える。

ユエンは愛の言葉を云うのは照れ臭さが勝ってあまり口にしないというか云うのも云われるのも照れ臭い。

瞬時にユエンの顔が朱くなる。

イッセイはユエンの背中を優しく撫でる。

うーうー、唸るユエンは意を決したのかイッセイの首を強く抱きしめイッセイに顔が見えない様にしてから、

「俺も、イッセイ…大好き!!、だ…ぞ…」

これがユエンの精一杯の言葉だった。

それでもイッセイは耳まで真っ赤にして言葉を返してくれたユエンに愛おしさが込み上げる。

ユエンはいつも言葉ではなく行動でイッセイに愛を伝えてくれる。

イッセイは小さな命とユエンを抱きしめる事を思いつつ今は自分の事を精一杯愛してくれている愛しい妻を強く抱きしめた。



Fin




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