小説
LittleFairy9 小さな足音番外編
LittleFairy9 小さな足音番外編
「恵斗、あんまし体調良くなってないみたいやな?病院行った方がええんちゃう?」
翌日からも恵斗は大学に行った。
今まで通りの行動を送り異変がないように振る舞わなければ…と思った。
食事の匂いがしない様食堂には近づかず教室もいつ出て行ける様にと思い端の方へ座った。
空いた時間に賢吾と将親に会う時は自販機側のベンチにした。
賢吾からの問い掛けに恵斗は笑いながら答えた。
「病院?行ってきたよ。お腹に……胃が荒れてるだけだって。ちょっと働き過ぎたみたい。二週間程胃に優しい食生活送れってよ。賢吾には無理な話だよなー」
ウヒヒと恵斗は笑い賢吾の肩を叩いた。
嘘を着く時は創作したものに真実を織り交ぜると後々困る事はない。
創作した部分を忘れても真実の部分を繋ぎ合わせればよい。
孤児院で生活していた時に小さな子をあやす為、職員の大人を欺く為、そして自分の心を欺き自我を守る為に覚えた姑息な手段だった。
「それって二週間もお粥さんの生活か!!ムリムリ!!絶対俺には無理やわ。何にしろ恵斗病院行ってて安心したわ。ほな暫く安静にしてたら大丈夫なんやな?」
賢吾の頭の中は、胃に優しいもの=お粥という方程式がある様だ。
「大丈夫大丈夫。でも暫く食堂には行かないから。弁当作ってきてるからな。」
鞄の中からチェックの布で包んだ弁当箱を出して見せる。
中身は入っていない…
二人のやり取りを黙って見ていた将親は何も云わない。
恵斗は将親に笑い掛けながら、こっそり話し掛けた。
「もう少し待ってくれ。」
将親はその言葉に溜息を付き渋々頷いた。
聡志との連絡は全てメールで返事をした。
相変わらず忙しいのか出張先からは余り連絡はなく、一安心する。
声を交わす余裕はない。
とにかく異変を悟られないように注意しなければならない。
「安心しろ。お前は絶対に俺が守るからな…」
恵斗はお腹を優しく撫でる。
このまま終わりのない悲しみが続くとしても聡志を忘れる事など出来るハズがない…。
このお腹に居る子供の父親なのだ。
それでもこの子を殺す選択など考えられない…。
聡志との子供なのだ……。
産みたい!!!!
この手に抱きしめその存在を確かめたい!!!!
聡志に愛されていたという証明が欲しい。
こんな出来損ないの自分でも愛されていたという証が……。
自分のエゴで子供には父親の居ない悲しみを背負わす事になってしまう。
それでも……産みたい……
唯一その存在を感じられる子供だけでも俺に与えてくれ!!!!
恵斗は慟哭に叫び出そうとする口を必死に手で押さえた。
押さえ込まないと何かが崩れてしまいそうな…そんな味わった事のない恐怖を恵斗は感じた。
暫く震えていた恵斗は鈍る思考に頭を振り、これからどうするかを考える為に頭を働かせ始めた。
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