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小説
穏やかな日常 1







トテトテ、ボフッ…
足元に何か引っ付いた…

「ユイ?どうしたんだ?ユエン!」

台所で鍋を掻き混ぜている小柄な男に向かい大柄な男がぐずっているユイと呼ばれた子供を抱き上げおろおろしている。
ユエンは振り返り呆れた表情を浮かべ、

「イッセイ、ユイが泣く度におろおろすんなよ。だからユイが調子に乗るんだって」

そう云うと子供に目線を移し、

「ユイ、ピーピー泣くんじゃなくてゆっくりでいいから話してみ?」

ゆっくり諭すとイッセイの首筋に顔を埋めていたユイがグズグズと鼻を鳴らしコクンと頷くと怖ず怖ず口を開いた。

「パパ、いしょが、にモコモコ、したい…」

たどたどしい口調で言葉を綴ると、イッセイの髪の毛を触る。
その言葉と仕種にユエンはニコニコ笑いユイに、

「パパにお願いしてみな」

と云う。
しかしイッセイはまだ分かっていないのかユエンに視線を投げかける。

ユイはもう一度ユエンの顔を見てイッセイの頭にある耳に顔を寄せ内緒話をするかのように口元に両手を沿えながら、

「パパ、いしょに、モフモフする?」

その言葉に

「ああ、いいぞ!」

とイッセイは笑顔で答える…がその目は泳いでいた。

我が子のお願い事が検討も付かずユエンに助けを求める。

そんなイッセイにしょうがないなぁ…とでも云いたげな表情でユエンはこそっと

「ユイはウルフ姿に引っ付きたいんだってよ」

と囁いた。

その言葉に漸く我が子の求めているものに気付いたイッセイは

「そうかそうか!ユイはモコモコしたいのか!」

デレッとした顔をしてイッセイはユイの頭をワシワシと撫でまくる。

そんな父親の笑顔にユイはニコニコと満足そうに笑った。

イッセイはシルバーグレーの長髪に緑の瞳をもつウルフの獣人である。

本来の姿である他に人型にも姿を変えられる。

変える事が出来るのだが耳と尻尾が残ってしまうという特徴がある。

また獣人が人型になるとほとんどのタイプが大柄な体格になる。

イッセイも大柄でバランスよく筋肉の付いたがっしりとした体格をしている。

そしてユエンは人間の男性でこちらは小柄で華奢な体格である。

濃紺の髪をスッキリと切り揃え黒い瞳はくりっとしており、まだ少し幼さを残した顔立ちをしている。

イッセイに抱っこされているユイはサラサラの黒髪を切り揃え瞳は濃い碧色をしている。

頭にはピョコッと可愛い獣耳と尾てい骨からはフサフサの尻尾が左右に揺れている。

だが、獣人の幼少期は能力が安定せず殆どの子供は本来の姿で過ごしている。

しかしユイは獣人と人間のハーフ、イッセイとその番であるユエンとの間に生まれた子供で、生まれた時から人型をしている。

ハーフは獣人本来の姿になる事が難しく一生を人型で過ごす事も珍しくない。

そのハーフなユイだが獣人としての本能かイッセイの本来の姿が特にお気に入りでその姿に抱き着くのが大好きなのである。

大好きなのだがイッセイは戦士として普段はギルドからの依頼を受け働いている。

その為家を空ける事が多々ありその姿を堪能出来る機会は限られている。

ユイはそれが自分の我が儘と分かっているので云い出すのを躊躇ってしまう。

イッセイに下ろされたユイはユエンのズボンを掴んだ。

そして服を脱ぎはじめたイッセイを見ながら、

「ゆー、パパ、だいじょぶ、です、か?ユイ、ワガママ…」

だんだんユイの顔が不安げになってきたのを見てユエンは、

「ユイ、ちっとも我が儘じゃねーよ。ほら、いっぱいモフモフしてこい」

本来の姿になったイッセイは見事なシルバーグレーの毛並みをしており、ユイどころか大人一人さえも乗せて走れる程の立派な体格の狼になっていた。

もじもじしているユイにイッセイは鼻先を押し付け、

「ユイ遠慮しなくていい、おいで」

「ほらユイ、遠慮するな」

ユエンがそっとユイを促す。

ユイはおずおずと小さな手でイッセイの背中を梳くと、途端に目をキラキラさせ興奮したのか頬を上気させ、

「ゆー!パパ、モフモフ!!カッコいいね!!」

イッセイの背中を撫でながらニコニコしており、イッセイも気持ちよさそうに目を細めている。

「ゆー!モフモフ!」

ユイがユエンに両手を差し延べピョンピョンとジャンプして抱っこをねだる。

はいはいとユエンはユイを抱き上げ、

「イッセイ乗すよ」

そう声を掛けるとイッセイの背中にユイをそっと下ろした。

下ろされたユイはギューッとイッセイを抱き締めハフゥと息を付く。

満足げなユイにイッセイもユエンもクスクスと笑う。

「ユイ、動くぞ。しっかり掴まっておいで」

「あい!」

ご機嫌に返事をしたユイはズリズリと前に移動して首周りにしっかりと抱き着く。

ユイがしっかりと掴まったのを確認したイッセイはユエンに、

「一緒に散歩にでも行ってくる、何か要る物はあるか?」

「いや、今はないな。サンキュ、っつーかもうすぐご飯だからあんま遠くまで行くなよ」

「ああ、近くを一回りして帰るよ。行ってくる」

「ゆー、てきまーす!」

ご機嫌に手を振るユイにユエンはヒラヒラと手を振り、

「おー、気を付けて行ってこいよー」

「あい!」

二人の姿が見えなくなるまで見送るとユエンは鍋に向き直った。

「あっ、ユイにねだられても菓子買うなよってイッセイに云い忘れた…」

ハァと溜め息をつくがイッセイがユイのおねだりに勝てる見込みはない事に思い当たりクスクスと笑いながら最後の仕上げに取り掛かった。


−−数十分後…

案の定、帰ってきたユイのポケットにはユイの大好きなキャンディが入っていた。


Fin




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あきゅろす。
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