小説
小さな足音 拍手御礼SS 2
小さな足音 拍手御礼SS 2
20100721〜0813
ペキョ…
「あっ…やべっ…」
知春は足元の踏み付けた物を見て呟いた。
「どうした知春?」
その声を聞き付けた洸輔が咲良を抱っこしたままベランダに近付いた。
「洸輔…あっ、咲良…」
ベランダで洗濯物を干していた知春はタオルを持ったまま固まっていた。
「あー、やっちまった…」
知春の足元にはオレンジ色のひしゃげていて元の形が分からない物が踏まれおり知春は咲良の顔を気まずそうに見つめながらゆっくり足を上げた。
洸輔と咲良は知春の足元に目線を向けオレンジのものを見つめた。
そしてそのオレンジ色したものが何かを悟った咲良はこぼれ落ちそうな程瞳を見開くとみるみる瞳に涙が溢れ、クシャと顔を歪め泣きはじめた。
「しゃくらの…ぞさん……ヒック…しゃく…らの…ウエッ…ぞーさん…ふえぇぇぇ!!!!」
「ごめん!!咲良ごめんなー。足元よく見てなかったんだよー、ごめんな。」
「やー!!しゃ、しゃくらの!!!じょーしゃーああぁぁぁ!!!!」
イヤイヤと洸輔の腕の中で泣く咲良に知春は謝った。
知春は咲良のお気に入りのオレンジ色のぞうさんのプラスチックジョウロを踏み潰してしまったのだ。
しっかりと体重もかかった踵でそりゃもう見事なまでに…
知春は泣き出した咲良に手を差し延べるもイヤイヤと拒否され咲良は洸輔の首に齧り付き益々泣きじゃくる。
途方に暮れた知春は洸輔に目線で助けを求めた。
二人のやり取りを見て笑いそうになっていた洸輔は咲良の小さな頭を撫でながら、
「咲良、大丈夫だ。象さんはちょっと怪我をしただけだからパパが治してあげるよ。」
その言葉におずおずと泣いて真っ赤になった顔を上げた咲良は不思議そうに首をコテン…と傾げた。
「ぞーさん、おケガなおる?」
「ああ、パパはお医者さんだから咲良の象さん治してあげるよ。ちょっと待ってなさい。」
洸輔は咲良を知春に預けるとぺちゃんこになったジョウロを手に取り家を出て行った。
泣き止んだ咲良と訳の分からない知春は不思議そうな顔を見合わせ家を出た洸輔に「行ってらっしゃーい。」と手を振った。
その後、ソファーに座り知春の膝の上で、
「ぞーさんなおる?」
心配そうに聞く咲良に知春は、
「咲良のとーちゃんは名医だから大丈夫。」
「パパめーい?めーい、つよい?」
「ゴレンジャーのレッドより強いぞ!!」
「パパすごいね!!」
5分おきに同じ会話を繰り返し洸輔を待った。
「ただいま。」
そこへ洸輔が帰ってくると咲良はパッと知春の膝から飛び降り玄関へ走った。
「パパ!!かえりー!!ぞーさん、ぞーさん、なおった?」
靴を脱ぎ足元に纏わり付く咲良を抱き上げ洸輔は咲良の頭を撫でながら、
「象さんお注射したから治ったよ。」
その言葉に咲良はクシャと顔を歪め今にも泣きそうな表情で、
「ぞーさん…おちゅうしゃ、いたいいたいしたの?」
「大丈夫、象さん頑張って泣くの我慢したよ。咲良もお注射頑張れるかな?」
ん?と洸輔は咲良の顔を覗き込むと、咲良はむっとした顔をして手を挙げた。
「しゃくら、おちゅうしゃなかないよ!!」
「そうか、咲良も象さんも偉いなぁ。」
親バカぶりを発揮した洸輔の笑顔に知春が声を掛けた。
「お帰り、洸輔。……で?」
何をしていたのか全く検討も付かない知春は何をしていたのかと洸輔に尋ねた。
洸輔は咲良を抱っこしたまま知春の隣に座り手に持っていた袋から何かを取り出した。
「ほら、咲良の象さん。」
手に取った物を咲良の目の前に見せると、咲良の顔がパアッと笑顔になった。
「しゃくらのぞさん!!」
両手で受け取ると咲良は嬉しそうに撫で知春の方へ向き腕を前に出した。
「まー、しゃくらのぞーさん!!」
知春は咲良の差し出した物を見て驚愕した。
オレンジ色の象の形をしたジョウロの鼻の部分に包帯が巻いてあったのだ。
「ぞーさんパパにおちゅうしゃしてもったの!!パパあーとう!!」
咲良は洸輔に御礼を云うと包帯を巻いてある鼻を「いたいのいたいの、とんでいけー」と撫ではじめた。
「あれどうしたんだ…」
コソコソと知春が洸輔の耳元に顔を寄せた。
「近くのホームセンターで同じジョウロ買ってきて包帯巻いただけだよ。」
「なるほど、子供ってのは単純だな。でも助かった、ありがと洸輔。」
知春は御礼に洸輔の唇に軽くキスを落とすとホクホク顔の咲良に近付き「良かったなぁ。」と頭を撫でた。
洸輔はニヤニヤしながら心の中で、「知春も昔、今の咲良より大きい時に同じ手で宥めた事は内緒にしておこう…」と思った。
チャンチャン★
拍手ありがとうございました★
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