小説
LittleFairy4 小さな足音番外編
LittleFairy4 小さな足音番外編
食堂に入るといつも賑やかな場所が、まだ一限が始まったばかりのためか人はまばらにしか居なかった。
昨日の昼から何も口にしていないものの食欲のない恵斗は紅茶だけを手にし窓際に座った。
少し目眩は収まったが胃の辺りがムカムカとして落ち着かない。
一人になると昨日の事が頭に過ぎるが考えてもしょうがない事だとやや強引に振り払う。
暫くして二人がトレイを持ってやって来た。
「お待たせー、今日の定食コロッケと肉じゃがやった!!」
ほくほく顔の賢吾のトレイには焼きそばパンにコロッケと肉じゃが、お味噌汁に山盛りのホカホカご飯がドーン!!と乗っていた。
隣に将親が呆れ顔でコーヒーとパンが乗ったトレイを置き座る。
「この身体の何処に入っていくんだか…」
「チカちゃん、それ俺が小さい云うて…」
「うっ…」
ガタッ!!
賢吾が将親に云い返している途中、恵斗が口元を抑え走り去った。
「「恵斗!!」」
二人が突然恵斗が走り去っていったのに驚いた。
暫く驚愕していた二人だが先に我に返った将親が恵斗の後を追った。
恵斗は食堂近くのトイレに駆け込み胃の中が空っぽにも関わらず嘔吐した。
賢吾のトレイからご飯の匂いを感じた瞬間胃がひっくり返る様な嘔気を感じたのだ。
胃液しか出ない嘔吐に脂汗が滲むも暫くすると治まった。
口を濯ぎ顔を洗う。
鏡を見ると後ろに将親が居た。
鏡越しに目が合うと将親が口を開こうとするのを遮る様に恵斗は苦笑した。
「昨日傘持ってなくて濡れたから、風邪引いたかも。今日は帰るわ。」
早口でまくし立てハンカチで顔を拭きはじめた恵斗の表情に将親は眉をしかめた。
ここで聞いても恵斗は何も云わない事が分かっている将親は何も云わず頷くだけだった。
「代返はしといてやる。……落ち着いたら連絡…待ってる。」
その言葉に恵斗はハッと将親の方へ振り返り、
「…ありがとう…」
そう呟き真っ青な顔に笑みを浮かべ微動だにしない将親の横を通り抜けて行った。
悲鳴を上げる身体を騙しつつアパートに戻った恵斗は靴を脱ぎ捨てるとそのまま壁際のベッドに倒れこんだ。
恵斗のアパートは築年数の古い1Kの木造アパートでかろうじてユニットバスが付いており家賃はバイト代から捻出されるギリギリの4万円。
整理された狭いキッチンと壁際のベッドにテーブル、小さな本棚と一人用のソファー、必要最低限の物しか置かれていない殺風景な部屋。
大学とバイトに忙しく寝るためだけに帰る部屋だった。
恵斗は幼い時に両親を事故で亡くし親しい親戚もおらず児童施設に預けられ育った。
高校卒業後は施設を出る決まりで施設からはそこでギリギリ生活出来る程の資金しかなく恵斗は何の援助もなく、大学は奨学金、生活費は自分でバイトをして稼ぎ生活している。
またその生活費も削り恵斗は施設へ仕送りもしていた。
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