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小説
LittleFairy2 小さな足音番外編







LittleFairy2 小さな足音番外編




携帯の着信音が鳴っている。

先程から繰り返し途切れる事なく鳴っている。

音の出るそれを恵斗は何をするでもなく、只眺めていた。

あれからどうやって自宅まで帰ってきたのか記憶がない。

フッと気付いたら自宅に居て濡れた服を着替え頭も乾き、ソファーに置かれた音の出るモノをラグに座って眺めていた。

サブディスプレイには「着信、聡志」の文字が浮かんでいる。

恵斗は何も考えずそれを手に取りフリップを開き耳に当てた。

「もしも…『恵斗!!やっと繋がった!!どうして電話に出なかった?こんな時間までどこに居たんだ?』

矢継ぎ早に質問され恵斗はビックリした。

何故聡志から電話があるのか何故そんな質問されるのか分からず回らない頭が導いた答え…

「あー、うん。ごめん…なさい…気付かなくて…」

今日見てしまった事に対して今まで気付かなかった自分の鈍感さに謝った。

『いや、そうか。今日は済まなかったね。急に仕事が入って連絡出来なくて、この埋め合わせは今度するから。次のバイトの休みは来週だったね。来週は車で何処か行かないか?』

聡志は恵斗が電話に出れなかった事に対して謝罪したと思い、今日の予定を詫び次の誘いをしてきた。

今日の約束を反故にした理由が仕事だと聡志の口から偽りの言葉が聞こえ恵斗の口からスラスラと言葉が漏れた。

「あー、仕事な…うん。聡志仕事忙しいの分かってるから。無理しなくていい…俺大丈夫だから。」

恵斗の口から聞き分けの良い返事が返ってきた事に聡志は不審に思った。

いつもなら約束を反故にすると恵斗はブスッと拗ね口を開けば文句の一つや二つ出て来るハズなのにそのどちらもなくしおらしい。

『恵斗?どうした?何かあったのか?』

恵斗の耳に聡志の心配そうな声が聞こえる。

その声を恵斗は何処か遠い場所から聞いてる様で不思議に感じた。

「あー、うん。何もな…あー、そう!!明日提出のレポートが出来なくて焦ってんだ!!聡志仕事で疲れてるだろ!!俺レポートするし聡志ゆっくり休めよ!!うん、それがいい!!じゃ、ゆっくり休めよな!!お休み!!」

『恵斗?!おい、恵…』

プツッと携帯の終話ボタンを押しそのまま電源も落とした。

フウッ…と息衝くと無意識に力んでいた身体の力を抜いた。

今日は仕事だと云われあの人は誰?…と聞くことも出来なくなった。

今までも何回か仕事だと約束を反故にされる事があった。

その都度怒り拗ねると、いつも笑顔で宥めすかされ…騙される程身も心も蕩けるまで甘やかされた。

そう…騙される程…

いつも可愛いだの構い倒したいと云われるが直接の言葉は聡志から聞いたことがない。

愛玩動物に云うような言葉しか云わない。

あの綺麗な女性にはアイシテルと囁くのだろうか…

恵斗は取り留めとなくそう思うと自然口角が上がりフフフッと嗤っていた。

「仕方がない。やっぱりちゃんとした女性の方がいいと思う。うん、そうそう。」

心の片隅に小さく存在していた恵斗の秘密の思いが、抗う事も出来ずに自覚なく傷付いた心を覆い尽くした。

「やっぱ聡志の隣は中途半端な俺よりちゃんとした女性だよなぁ…」

無意識に口から自虐的な言葉がこぼれ落ちる。

頭ではこんな後ろ向きな考え方自体子供っぽく聡志と向き合い話せばいい…と分かってはいても直接言葉を受けるにはまだ心と感情が伴わず名もない恐怖に怯える。

「取り敢えず寝るか。うん、それがいい。寝よう!!」

恵斗は意識的に声を上げ、幼い頃より己を護る防御本能として訪れる眠りに思考をシャットダウンさせるべくそのままソファーにもたれ掛かり目を閉じた。





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あきゅろす。
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