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小説
LittleFairy 小さな足音番外編1







LittleFairy 小さな足音番外編




照り付ける太陽に澄み渡る空…

……とは程遠い、どんよりとした空が広がり今にも雨が降り出しそうな空模様の下、田辺恵斗(たなべけいと)は待ち合わせの時間を過ぎても姿がない待ち人をもう3時間も待っていた。

「聡志(さとし)…ぶっコロス…」

スラリとした身体を細身の所々破れたジーンズにゴツめの黒いショートブーツと身体にフィットしたシャツを着ている整った顔立ちの若者が携帯片手に拳を握り締めていた。

物騒な呟きに隣に居た人が驚愕した顔で3歩程後退した。

そんなものに目もくれず携帯も通じず何の音沙汰もない聡志に対して恵斗の怒りは頂点に達していた。

久しぶりのデートにウキウキしていられたのも待ち合わせ時間から30分位まで。

元々怒りの沸点がお世辞にも高いとは言い難い恵斗にとって3時間も待っているという事は奇跡に近い行いである。

社会人の聡志と学生の恵斗では生活のリズムが違いなかなか会う時間が作れないなか、今日は漸く2週間振りにゆっくり過ごす事が出来る…ハズだった。

…が、肝心の聡志から何の音沙汰もなく3時間も待たされれば、沸点の低い恵斗でなくとも怒るだろう。

「−−…っつ!!もう帰ってやる!!!」

楽しみにしていただけに恵斗の怒りはメーターを振り切り、反動か落胆が大きく知らず目の端に涙が滲む。

聡志の仕事が忙しいのは理解している。

弱冠32歳で大手企業の重役を勤め、部下からの信頼も厚く責任感をもって仕事をこなしている事も…

一回り歳の離れた自分にも誠実に付き合ってくれて大きな包容力で包み込んでくれている事も頭では理解している。

しかし、我慢して漸く久しぶりにゆっくり過ごす事が出来ると思っていたのに連絡もなくこちらからも連絡が取れない状況に恵斗は疲れを滲ませた。

物騒な事を云っているが心の中では緊急の仕事が入ったのかもとか、もしかして聡志に何かあったのではないのかと心配していた。

帰る方向とは逆に向いた足が無意識に聡志の仕事場に向かう。

連絡が付かないのでとりあえず出勤しているかの有無だけ確かめてから帰ろうと思ったのだ。

足早に暫く大通りを進むと聡志の仕事場である高層ビルが見えてきた。

通りを横切る為横断歩道の信号が変わるのを待つ。

暫くして信号が変わり足を踏み出そうとした恵斗の足が止まった。

何気なく視線を向かいのオープンカフェに向けた恵斗はそこに信じられない光景を見たのだ。

そこには連絡の取れなかった聡志が座って居た。

そしてその隣には…恵斗の知らない綺麗な女性も一緒に座っていたのだ。

聡志の隣に座る綺麗な女性は細身なベージュのパンツスーツを着こなしサラリと風に揺れる黒髪に微笑む唇は艶やかなルージュが引かれているとても綺麗な女性だ。

上質なスーツに身を包み少し長めの髪を後ろへ流している聡志は涼しげな目元を綻ばせ笑っている。

二人は一対の美男美女カップルの様で道を通る人々が振り返りチラチラと見ていた。

恵斗は頭が真っ白になりその光景から目を離すことが出来なかった。

全ての音がなくなり側を通る人々の気配すら感じることがなく、只その光景を見詰めていた。

そして信号が変わり車が走りだすと無意識に足が後退しその場から離れる。

ゆっくり後退していた足が震え出すと身を翻し一刻も早く立ち去るべく走り出した。

息が切れるまで走り続け少し狭まったビルとビルの間に入り漸く立ち止まった。

荒い息を整えながら壁にもたれ掛かると足から力が抜けずるずると座り込んだ。

細かく肩が震えはじめ、何故かフフフッと笑いが込み上げる。

「んー?…しょうがない…かな。……うん。あー……うん。」

恵斗の口からは乾いた笑いと何に頷いているのか分からない頷きの音しか出て来なかった。

まだ頭が真っ白でショックを受けたハズなのに整理が出来ず混乱している。

「えーっと、ここは俺、泣くところ…かな?」

とりあえず声に出してみるも何故か涙は出て来ない。

ポツリポツリと頬に水分を感じたと思ったがそれは涙ではなく、先程より厚くなった雨雲から雨が降ってきたからだった。

雨足はあっという間強くなったが恵斗は動く事が出来ずずぶ濡れになる。

どのくらいそうしていたのか…恵斗は冷えた身体に気付き漸くノロノロと立ち上がり歩き出した。

頭は相変わらず真っ白でまるで考える事を拒否している様だ。

とにかく足を前に出すことだけに集中しないと止まってしまいそうで…

恵斗はひたすら歩いた。




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あきゅろす。
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