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小説
小さな足音 8







小さな足音 8





暫く知春の悪阻は続いたものの安定期に入る頃には治まり二人は漸く安堵した。

そして大きくなってきたお腹に二人は嬉しさをかみ締めた。

「どっこいしょ……あっ…」

知春はソファに座る際無意識に掛け声が出ることに苦笑した。

「うー、お前が大きくなるのは嬉しいけど流石にこの歳でどっこいしょはちょっと恥ずかしいなぁ…」

呟きながら大きくなったお腹を撫でる。

「大分大きくなったなぁ…」

隣に座った洸輔は知春の肩を抱き寄せ穏やかに目を細めた。

「うん、元気に大きくなってくれて嬉しいよな。最近こいつ起きてる時に遠慮なくゲシゲシお腹蹴るんだぜ!!」

知春もそうは云いつつも愛おしそうに目を細めお腹を撫でる。

すると知春がビクッとしたかと思うと「あっ!!!蹴った!!!洸輔!!今蹴った!!」と興奮し洸輔の手を掴むとお腹にあてた。

「うー、父ちゃんが待ってるぞ!!もっかい蹴りな!!……うひょ!!」

知春の言葉に答えるかのようにお腹が二〜三回ポコポコと振動した。

「お前偉いなぁ、俺の言葉が分かってんのか!!流石俺の子なだけはあるぞ!!」

ニコニコと機嫌良く知春は我が子を褒めるべくお腹を撫で摩る。

直接肌で胎動を感じた洸輔は暫し感動と幸福の気分を心から味わった。

「職場で幾人となく妊婦や新生児を見てきたが我が子ともなるとこうも感じ方が違うのには驚きだな。」

洸輔も優しく知春のお腹を撫でながら幸せを噛み締めた。

暫く二人でお腹を撫でながらポコポコと蹴り上げる我が子に声を掛けながら時間を過ごすと中で眠ってしまったのか振動が止まった。

「こいつ寝ちゃったみたいだな。」

「ああ、随分元気に蹴っていたから疲れたんだろう。」

「元気に育ってくれればそれだけでいいよ。」

そこで洸輔が「そういえば…」と何か思い出したようだった。

「知春、いつも一緒にいる友達の中で大きい子と小さい金髪の子じゃなくて…確か恵斗(けいと)君だったかな。スラリとした色白の…」

知春の大学での友人の顔を思い浮かべ洸輔は尋ねた。

キョトンとした顔の知春は友達の顔を思い浮かべながら

「恵斗?うん確かに細くて色白なのは恵斗だけど…いつもデカイ将親(まさちか)と関西弁の賢吾(けんご)と4人でつるんでるけど、恵斗がどうかしたの?」

何故恵斗の名前が出たのか不思議に思いながら知春は洸輔に先を促した。

洸輔は少し考え慎重に言葉を選びながら今日見たことを伝え始めた。

「恵斗君を今日病院で見掛けたんだよ。知春、恵斗君は何か持病があるのか?」

「病院で?うーん、特に何も聞いたことがないけど…恵斗とは大学からの付き合いだし将親とは中学からの知り合いみたいだから一番親しいのは将親なんだよな…」

病院で恵斗を見たと云う洸輔に眉間に皺を寄せ知春は今までの記憶を思い浮かべながら頭を傾げた。

「そうか、いや私も見掛けただけで話はしていないからな。最後に会ったのはいつだ?」

「4日前かな、レポート仕上げて散歩ついでに大学行って賢吾達にお腹触らせたからその時居たよ。」

「その時どんな様子だった?」

「んー特に変わった様子はなかったけど…ちょっと顔色が良くなかったかな?」

そうか…と呟くと腕を組み考え込んだ。

知春は頭に疑問符が多数浮かんだが洸輔の様子にこれ以上聞いてはいけない気がして口を噤んだ。







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