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小説
残業(ML)







このまま何処かに行けないかなぁ…


そう呟くと、隣りにいた奴が、

「何処に行く気だ、明日〆切なのは分かってるだろ。逃すかよ。」

と、呟きネクタイの結び目に指を入れ少しゆるめる。

視線はチラリとこちらを見ただけですぐにモニターに向かう。

「分かってるよ、ちょっと言ってみただけだろ」

その横顔にこちらもチラリと視線を向けて拗ねた口調で返す。

モニターに向かった顔に再度視線を向けると唇が尖っている。

そして、ブツブツと呟きながらキーボードを力強いタッチで打ち込んでいく。

「そりゃ、…切あるの分かってるし、手伝ってくれてるの…ありが…いし…」

尖った唇からブツブツと言葉が聞こえてくる。

しばらく見ていると段々と膨れっ面になっていく。
そのあまりの可愛さに男はクスッ、と笑う。

そしておもむろに隣りに座って膨れっ面をしている男のイスをクルッ、と回し尖った唇にチュッと音をたてキスをした。

そしてそのまま何事もなかったかの様にモニターに向かう。

あまりの突然さに声もなくそのまま固まってしまった男にモニターから目を離す事なく、

「これが終わったら好きな所連れてってやるから拗ねるな。」

「ちょ…なっ…」

言葉にならない呻きをあげた後、キィ…と音をたてロボットの様にモニターに向き直る。

しばらく二人のキーボードを打つカタカタという音だけが響いた。


「…のかよ…」

ボソッと呟く声が聞こえた。

「んー、何だ?」

双方モニターから視線は動いていない。

もう一度尋ねようとする前に、

「何処でも連れてってくれるのかよ…」

幾分、控え目な口調に聞こえる。

視線を向けなくても目の端に赤くなった耳を捕らえる。

あまりの可愛さに赤くなった耳にそっと指を滑らせ、ビクッと反応した様子を楽しみ、

「約束する。だから逃しはしない…」

そう囁くと隣りのキーボードを打つ音が少し速くなった様な気がした。

相変わらず耳は赤いまま…






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