短編小説
7
「冗談じゃねぇ……。とっとと退散するに限るぜ」
不気味なネトネト触手に懐かれて嬉しいはずもない。というか、滅茶苦茶気持ち悪い。
先程は動揺して引っ張られるままだったが、気合を入れて足を引き返せば、足首に巻きついていた触手も簡単に千切れた。
自由になった両足も使って、伸びてくる紐状のそれらを片端から蹴散らし引き千切っていく。
体中が粘液のせいでドロドロになってしまったが、気にする余裕などない。
しばし暗闇の中で得体の知れない触手と格闘し続け、何とか全てを剥ぎ取ることが出来たと思ったその時だ。
「わあああっ!?」
突然、地面が盛り上がった。
下から突き上げられる形で、ようやく立ち上がったはずの片桐の体が宙に浮く。そして今度は腹から地面に叩きつけられる。
しかし岩肌に体を打ちつけたにしては、衝撃が少ない。
正確には、予想していた衝撃はほとんど無かった。
その代わりに、グニャリと柔らかいものに受け止められる。
――何だ?
疑問に思う間もなく、今度はより太い触手が四肢に絡み付いてきた。
必死になって触手の一本を手に握り込んだ。滑るのをこらえて握りつぶそうとするが、今度はびくともしない。
それでも抵抗を続けると、お返しのように強く四方に引っ張られた。
両手両足を同時に引かれ、片桐は大の字状態になってしまった。
まるで磔だ。
地面に顔を向ける形で宙吊りになり、両手両足を拘束されている。もはや動かせるのは胴体と首くらいだ。
洞窟内の闇は変わらず深く、自分の鼻先すらも見えない。
けれど片桐は、自分の顔の先にあるはずの地面いっぱいに、得体の知れないものが広がっていることを直感していた。
おそらくそれは、この触手たちの本体だ。
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