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短編小説
6
 足首に巻きついたものと同じ。けれど、右手に絡んできたものは一本どころではない。四方八方から飛び出してきたらしい無数の紐状のそれが、互いに絡み合いながらも片桐の右手に巻きつき、強く拘束してくる。



「……へ、蛇じゃねぇな……。畜生っ!」



 右手から伝わる感触は、ヌメヌメとしていて生温かい。蛇ならば逆なですれば鱗が立つし、もっと冷たいはずだ。

 しかも、蛇は集団になって人間に巻きついたりはしないだろう。

 ギリギリと歯噛みし、片桐は声を張り上げた。



「おおい! 浦田! 横坂ぁ! お前ら、いい加減に扉を開けろ! 俺を出しやがれ!」



 こうなってはどこが出入り口か全く分からない。しかし生徒たちが扉の近くにまだいるのなら、この声は聞こえるはずだ。彼らが扉を開ければ、外から光が入る。そうなれば、この得体の知れない紐状のそれは消えるかもしれない。いや、消えろ。消えてしまえ。

 しかし片桐の願いもむなしく、どこかにあるはずの扉は開かない。きっと浦田たちは、待つことに飽きてどこかへ行ってしまったのだろう。



「あんの役立たずどもが……っ」



 こうなれば、自分で何とかするしかない。

 片桐はまだ自由な左手で、右手に巻きつくそれを解こうとした。しかし表面が滑るうえに激しく蠢く、鰻のようなそれを上手く掴むことが出来ない。

 一本だけ掴むことが出来たが、それがもろいのか片桐の握力が強すぎるのか、掌に捉えられたそれはブチリと鈍い音を立てて潰れて切れてしまった。



「うわっ、気持ちわりぃ!」



 潰れた切れ口から、ドロリと粘っこい液体が噴き出して片桐の手を濡らす。そして切れたそれは、力を失わずにビチビチと切れた端を跳ねさせている。

 片桐の背筋に冷たいものが走った。

 これは、蛇や鰻なんかではない。未知の生き物だ。

 全く得体の知れない触手のようなものが、この洞窟にうじゃうじゃとひしめいているのだ。



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