短編小説
4
さらりと酷いことを言う横坂を締め上げる片桐の肩を、浦田がまぁまぁと軽く叩く。
「センセイ見てよ。あの横のところに変な扉があるよ?」
「だからどうした」
確かに浦田が言う先に、祠と同じ大きさの、朱塗りの扉がある。岩肌に張り付いた形だ。
浦田と横坂は、両側から片桐の腕を取り、半ば引きずるようにして扉の前に連れて行く。他の生徒たちもキャーだかヒーだかサルのような歓声を上げながらついてくる。
横坂が扉の脇に顔を近づけた。
「おや、看板が出ています。どれどれ……どうやら、見学者も入ることが出来るみたいですね。ほほう……『良き伴侶を求める者は扉を開くべし。ただし光を持つことは忘れぬよう』ですって。先生にうってつけの場所ですよ」
「うるせえ。そんなに飢えてねぇし、焦ってねぇ」
「そんなにマジになって否定しなくていいじゃん。遊びだっての、遊び」
「遊びならてめえらが行け……いってぇ!」
乱暴にも、浦田が片桐の尻を蹴飛ばした。
不意を突かれて前方につんのめった片桐は、そのまま横坂が開けた扉の内側へと転がり込む。
んごっと潰れた声を上げ、片桐はゴツゴツとした壁に頭をぶつけて止まった。
「いてててて……。あいつら……覚えてろ」
涙目になりながら起き上がって初めて気がついた。
扉の内側は真っ暗闇だった。
手でつかめそうなほど濃い闇に全身包まれて、片桐は息苦しさを覚えて呼吸を乱す。
闇雲に腕を伸ばしてみれば、手は剥き出しの岩肌に触れる。どうやらさほど大きくはない洞窟になっているらしい。
「そういや、どこぞにもこういう狭い洞窟を歩かされるのがあったよな。無事出てこれれば満願成就ってか」
しかしこんな真の闇の中では、足を一歩踏み出すのですら難しい。
そういえば、と思い出す。先程、横坂が読んでいたではないか。『ただし光を持つことは忘れぬよう』と。きっと祠の横には、小さなロウソクあたりが売られていたはずだ。それを横坂たちは思い切り見落としているのだ。
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