短編小説
1
「……おい、てめえら。一体どういう了見だ?」
片桐はドスの効いた声を上げた。
その恐ろしい憤怒の顔を向けられて、彼の教え子である野球部員たちが辺りに散る。しかし生意気盛りの男子高校生たちは、すぐニヤニヤ笑いながら戻ってきた。懲りない彼らは、片桐の鉄拳を頭にくらってもあまり畏れ入ることはないのだ。
「だってさぁ、センセイってば彼女にふられたんだろ?」
「慰めてやろうと思ってさ」
「親切だよ、親切」
図体ばかり大きくて中身は悪ガキのままの彼らが口々に騒ぐのを、片桐は「やかましい!」と一喝する。
「なぁにが親切だ、屁理屈野郎ども! てめえらは俺をカンペキ馬鹿にしてやがんな……」
「酷い、センセイっ! 俺たちはぁ、傷心のセンセイを慰めたくて自主的に集まったのにぃ」
「慰めたいって口調じゃねえぞ、浦田ぁ」
部員の中でも一番のお調子者である二年の浦田に凄み、片桐は改めて周囲を見回した。
「だいたい、なんで女にふられたからって秘宝館に連れてこられなきゃならねぇんだ! 俺は帰ぇるぞ。なんでも鑑○団の再放送を見ないといかんからな」
年明けの日曜日。試合もなく暇をかこっていた片桐は、浦田たちに朝っぱらから電話で呼び出された。
一瞬だけ自主練か? とも思ったが、速攻で違うと否定した。やつらは野球部とはいうものの、その実お祭り騒ぎが好きなだけのお気楽ボール遊び集団なのだ。そんな真面目に練習なんて有り得ない。
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