短編小説
9
「……あのなぁ」
げっそりと藤堂が肩を落とした時だった。不意に翔一の腹が鳴った。
翔一は再び視線を落とし、ぼんやりと自分の腹をさすっている。
藤堂は眉根を寄せた。
「もしかしてお前、昼飯食ってねぇのか?」
だから弁当を凝視していたのか。
「ったく、しょうがねぇなぁ」
飄々としていても昼間から男の股間をいじるような奴でも、年相応の食べ盛りの青年なのだと思うと、藤堂の表情も晴れる。
いつもこんな感じだったら、もっと可愛がってやってもいいのに。
そう思いながら、藤堂はよいしょと立ち上がった。
「温めなおしてやるから、この弁当はお前が食え」
弁当はレンジに入れ、冷蔵庫から麦茶を出してグラスに注ぎ、翔一の前に出してやる。
「でも、藤堂さんの昼飯が無くなる」
「俺は適当に冷蔵庫のものを食うさ。おっと、焼きそばがあるな……」
招かざる客に尻を向けてしゃがみこみ冷蔵庫を漁っていると、いつの間にか翔一が立ち上がって近寄ってきていた。
「俺、そっちがいい」
「おわっ?! 背後に回るんじゃねぇっ。びっくりしただろうが!」
自分の背後でしゃがみこむ翔一を小突いて、藤堂はあたふたと身体を起こした。この若造に背後を取られると、何かされるのではないかと冷や冷やしてしまう。
しかしシンクの方に逃げても、翔一はぴったりとくっついてくる。
「おい、暑苦しいから離れろや」
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