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短編小説
8
 それなのに。



「なんでてめえがここにいるんだ?」



 管理室に戻った藤堂は、卓袱台を挟んで座る翔一を睨み付けた。

 卓袱台の上には昼食の弁当が乗っている。近所の弁当屋で買ったそれはすっかり冷めて、少々まずそうだ。

 弁当に視線を落としたまま、翔一はボソリと言った。



「藤堂さんの後についてきたから」

「んなこたぁ俺だって分かってるわ。俺が聞きてぇのは、お前がここにいる理由だよ。自分の部屋にいるみてぇに馴染みやがって」



 藤堂は頭を抱えて嘆息する。

 廊下からぴったりと後についてこられて、管理室のドアを開けたときも当然のような顔をして入ってこられた。

 叩き出すのはたやすかったが、管理人が住人に暴力を振るうのはためらわれたし、ドアに挟んで怪我でもされたら寝覚めが悪い。

 そう思って手加減したのが運のつき。気がつけば、翔一はちゃっかりと部屋にあがり、自分で座布団まで敷いていた。



 管理室の間取りは2DKだ。藤堂一人が住むには広いと思われがちだが、蛍光灯などの消耗品のストックで一室潰れているし、コピー機といった類のものもある。それに不在住人の宅配便を代わりに預かったりしてスペースをとられているので結構手狭である。

 そんな藤堂が主に使っている畳敷きの居間に、翔一が居座っているわけだ。そのせいで手狭感がますます酷くなっている。



 藤堂の問いかけに応じてか、翔一が顔を上げた。長すぎる前髪の隙間から藤堂のことを窺っている。

 何を考えているのか読めない茫洋とした眼差し。けれどそこに先程の熱が残っているような気がして、藤堂は我知らず唾を呑んでいた。そんな自分の動揺を知られたくなくて、慌てて顔の前で手を振る。



「あ、さっきみてぇに端的で露骨なことは言うんじゃねぇぞ? 言ったらここから叩き出すからな」

「……藤堂さんって難しいことを要求するね」



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