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短編小説
7
 不意に、この屋敷の元主人の姿を思い出した。

 過去の夢の中で、金髪の貴族は自らの膝を折り、魔物の足に口付けをしていた。

 あの時の男の姿に、どうしても自分が重なってしまう。

 遠くない未来、自分もああして蹲って魔物に縋ってしまうのではないかという危惧が心の奥底に根付いている。

 苦いものが込み上げてくる。



「………だ…誰が…貴様の手助けなんてするか………!」



 浅い息の下、それでも腹に力を込めて声を振り絞れば、とたんに胸に激痛が走る。ギリギリと心臓を握り潰されそうになり、その衝撃で全身の血管が千切れ眼球が飛び出しそうな感覚に陥った。

 あまりに強烈なショックに、カルナの鼓動は文字通り途切れそうになる。

 しかし絶息する寸前で、心臓が解放された。

 どっと血液と酸素が体中に行き渡り、我知らず深呼吸を繰り返す。



「相変わらずの我の強さだ」



 笑い交じりのシオンの声が降ってくる。



「それもまた一興だが―――そろそろ堕ちろ」



 刹那、身体が見えない何かに拘束された。床に両膝を突いた姿勢のまま、カルナはもう身動き一つとれない。

 蛇だ。見えない大蛇が自分の身体に巻きついているのをカルナは感じた。

 不可視の鱗がザワザワと動き、衣服越しに肌を刺激してくる。怖気をふるって払おうとしても、肝心の腕が全く思うように動かせない。



「うっ………くぅ………っ………」



 いつの間にか、見えない蛇は肌の上を直接這っていた。衣服に乱れはないものの、カルナの身体は変わらず束縛されたままだ。

 時をおかず、蛇が明確な目的を持って動き出した。

 脇腹をくすぐり、胸板を這い回る。そして厚い胸筋の感触を楽しむように刺激しながら、やがてその頂にある尖りへとたどり着く。



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