短編小説
6
鎖は、シオンの身体に触れている部分が赤くなっている。ただ色が変わっているのではなく、赤くなるほどに焼けているのだ。まるでカルナの背中に押し当てられた焼き鏝のように。すぐそばまで寄れば、肉の焼ける臭いすら嗅ぎ取れそうだ。
―――そうか。これも封印か…
熱せられた鎖に下肢を焼かれながらも、シオンは少しも苦痛を感じている様子がない。やはり魔物は、痛覚も人間とは違うようだ。
しかし、封印はやはり有効なのだ。こうして魔物は拘束されたまま椅子から立ち上がることすらできないのだから。
―――冷静に観察できたのはそこまでだった。
「っ………!」
シオンが目蓋を開いた。黄金の双眸がカルナの姿を捉える。
その瞬間、心臓を鷲掴みにされたような衝撃に、カルナは堪らず絨毯に片膝を突いた。夢の中のはずなのに、苦痛のあまりに脂汗が噴き出しこめかみを流れ落ちる。背中の封印とは違う痛みだ。
この魔物は、瞳の力だけで心臓を呪縛する。しかも聖なる封印よりずっと強力に。
胸の圧迫感に呼吸が浅くなる。それでもカルナは崩れた姿勢から立ち上がり、再びシオンの座る椅子へと近づいていく。
ドクドクと脈打つ心臓に引っ張られていくように。
椅子のすぐそばに立つと、シオンの笑みが深くなった。尊大な冷笑だ。金色の瞳の奥には、人間には計り知れない禍々しさがある。怖気をふるいたくなるような邪悪な笑みだが、そのくせ一度見てしまったら目を離せなくなるほどの吸引力がある。
この蛇は、そうやって人間を自分の下に吸い寄せ、そして骨の髄まで弄び蹂躙し捨てるのだ。己が生の間の余興として。
「―――何をためらっている?」
当然のようにシオンが言った。
「我にはこの鎖は解けぬ。お前の手が必要なのだ」
その瞬間、カルナの膝が再び崩れた。ガクリと床に膝を突けば、目前に鎖が巻かれたシオンの脚が迫っている。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!