短編小説
4
夜な夜な夢にシオンが現れ、カルナを呼ぶ。
いや、カルナに呼ばせようと仕向けるのだ。
その唇が自分の名を刻むようにと。
そして、カルナの求めに応じた形で、この世界へやってこようとしているのだ。
―――冗談じゃない………
魔物にとっては些細な戯れであったとしても、カルナは必死だ。気力と体力の全てを振り絞ってでも抵抗しなければならない。
言い換えれば、それほど真剣に全力で抵抗しないと、引きずられる可能性が高いのだ。
クレイボーンの焼印によって封じられたが、この身体にはシオンの肉が埋まっているのだ。それは常に身体の内側で蠢き、皮膚を破って外に出ようと虎視眈々と狙っている。おそらくそれは、どんな優秀な外科医であったとしても、カルナの身体から取り出すことはできないだろう。既にその肉塊は半ばカルナに同化してしまっているのだから。
否、それは言い訳だ。
死んでも認めたくないことだが、心の奥底では認めている。認めるしかない。
心のどこかで、ほんのわずかではあるけれど―――シオンの声に応えようと欲している自分がいることを。
そんな自分こそ、短剣で抉り出してやりたい気分だ。
「………冗談じゃねぇ」
窓辺に寄り、鎧戸を押し開けて眼下の通りを眺める。
このフラットがある通りはメインストリートよりは外れているが、それでも文明の利器である街灯に照らされていて真の闇に取り込まれることはない。
時折夜警が通りかかる。青い制服は、首都警察の巡査の証だ。常に二人組みなのは、おそらく最近の事件の被害者が全員成人男性だということに関係しているのだろう。
細い刃物で被害者の喉を一突きするという見事な手際。そのくせ、わざわざ手間隙かけて自分が見つかる危険すらも冒しながら抉り出した心臓を、あっさりとそのまま置き捨てていく不可解な狂人がこの街のどこかに潜んでいる。そして次の犠牲者を狙っているのだ。
「『ハートブレイカー』か………」
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