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短編小説
2
 しばし行方をくらましていた赤ら顔の医師を見やり、カルナは小さく嘆息する。

 この男こそ、≪聖なる竜爪教団≫のことを手紙に書いて送ってきたヘーレルの医師なのだ。

 もしや邪教集団に目をつけられたのかと思って気を揉んでいた相手が、こうして呑気に中華料理に喰らいついているのだから溜息も出ようというものだ。もっとも、安堵の吐息も含まれるが。



「それで、いつ? どうしてカルディスに来た?」



 ジャスミンティーを啜って唇を湿らせ、カルナは言った。目の前に置かれた箸には手もつけていない。医師の食べっぷりを見ているだけで腹が一杯だ。



「そう急かしなさんな。それよりカルナくん、しばらく会わないうちに随分と痩せたな。ちゃんと食事をとっているのかね? 胃でも悪いのかね? 不眠症もあるんじゃないかな? 私が診察しようか? これでもこの国の医師免許も持っているよ?」

「いや、結構」



 カルナがすげなく断ると、ヴォロンテはシュンとなって肩を落とした。しかしすぐに表情を改めて口を開く。



「実はな、君に手紙を出した直後に例の教団に関する新しい情報が入ってね、それですぐに船に乗り込んだのだよ」



 そのせいで、カルナが電話をした時には彼は船上の人となっており、連絡がつかなかったのだ。

 新しい情報という単語に、カルナは我知らず身を乗り出す。



「教団の導師がこの国に現れたのか?」

「いや、残念ながら違う。けれど、有力な幹部がいるという話は聞いたよ。そいつは教団の中でも急進派で、かなり危ない人物らしい。私はそいつがどんな人物なのか調べようと思ってこっちへ来たんだ」

「…危険すぎる」

「ああ、そのようだ。そっち方面に詳しい記者の知り合いがいるんだが、今回はまずいと尻尾巻いて逃げ出したよ。命がいくつあっても足りないってね」



 話題に似合わない陽気な声でカラカラと笑い、ヴォロンテは箸を振り回す。そして突然、声を潜めた。





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