短編小説 7 腕のように拘束されていない脚は、その気になれば瀬尾を蹴飛ばすことが出来るだろう。けれど佳克はそんなことに思い至ることすら出来ずに、ガクガクと膝を震わせるばかりだ。 その膝頭が瀬尾の腰に触れ、ドキリとして膝を離す。そのせいで自ら股を開く形になってしまった。 驚いたように瀬尾が視線を落とした。大きく開かれた佳克の脚を見て、目を細める。その瞳に昏い欲望の火が点った。 「や…やめろ…やめろ………」 口ではうわ言のように繰り返しても、身体の反応は正反対だ。佳克の意思を裏切って、瀬尾の愛撫を求めて腰がユラユラと揺れ出している有様だ。 瀬尾の腕が優雅に動く。綺麗な指先が流れるように動く様を、佳克は無意識のうちに目で追っていた。 何も知らない頃ならば、ほんの昨日までの自分だったならば、瀬尾がどんなことをしてくるのかと恐怖に怯えたことだろう。 しかし今は違う。もちろん恐怖はあるけれど、その中にも甘い期待が潜んでいる。 今日一日で知ってしまったから。 瀬尾の手が、どうやって自分の中心を慰め高め解放したかを身体で味わってしまっているから。 どんなに忘れようとしても絶対に出来ないだろう、背徳に満ちた悦楽の毒。それを施すのが瀬尾の指なのだと覚えてしまったから。 だが佳克の期待を裏切って、瀬尾の手は股間へとは伸びなかった。 その代わりに、男の掌が佳克の胸を揉みこむように包んでくる。 瀬尾の掌の感触が、ワイシャツの生地越しに感じられる。冷たい。体温が低い男なのだろうか。 それとも自分が熱いのか。 ひんやりとした手は、佳克の胸筋の形や弾力を確かめるように這い、そして時折揉んでくる。ジリジリとしたその動きに煽られて、脇腹が痙攣した。 不意に指先が動いた。 「っつう…!」 [*前へ][次へ#] [戻る] |