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短編小説
5
 優しい、優しすぎる感触。もっと強引に触られていたら、佳克はその手を振り払っただろう。しかしあまりに密やかなそれは、佳克の官能を誘った。その誘われるままに、ブルリと震えてしまう。

 そのせいで隙が出来た。瀬尾はニヤリと笑うと、佳克のずり落ちたメガネを取り上げた。視界が急にぼやけて佳克は慌てて身体を起こそうとしたが、男の力強い腕でもう一度椅子に沈められてしまった。



「素直じゃないですね」



 さして太くもないくせに腕一本で佳克を押さえ込んでみせて、瀬尾は覆いかぶさってきた。



「もう…身体が疼いて仕方がないくせに」



 空いている方の瀬尾の腕が軽やかに動いた。己の喉元に伸び、スルリと色合いのいいネクタイを抜く。

 思わずその動きを目で追ってしまう。

 そんな佳克に気づいたか、瀬尾が喉奥で笑った。抜いたネクタイを佳克の目の前で振り、そしてそれを輪にしていく。



「痛いっ! お、おいっ、何を…!」

「素直じゃないからですよ」



 見事な手際だった。瀬尾は佳克の両腕を後ろ手にネクタイで縛り上げたのだ。しかも椅子の背に絡める徹底ぶり。これで佳克の上半身は完全に拘束されてしまった。



「ななな、なんてことしやがる…!」

「またそんなやせ我慢を」



 瀬尾がまた己の唇をなぞるように舌先で舐める。ついその動きを目で追ってしまった佳克は、部下の底意地悪い視線に晒されていることに気づいた。

 わざとだ。さっきからわざとそうやって挑発している。

 その挑発にあっさりと乗ってしまった自分を殴り飛ばしたいが、あいにく腕はびくともしない。下手に腕を動かせば、肩が悲鳴を上げる。





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あきゅろす。
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